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2026年06月11日18:30

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「間違えられた男」アルフレッド・ヒッチコック〜なまなましいトゥルー・ストーリー〜

ヒッチコック自らが冒頭に登場し、本作は「トゥルー・ストーリー」であることを告げている。事実を元にした作品であり、これまで作ってきた虚構のサスペンスとは違う迫真性があるというのだ。未見だった1956年のヒッチコック映画。ヘンリー・フォンダの情けなくも現実を理解できない戸惑いの表情がいい。まさに悪夢である。犯人にソックリな男がまさに「間違えられて」容疑者にされ、逮捕・拘留されてしまう映画だ。

ニューヨークのクラブで働くベーシストのミュージシャン、マニー(ヘンリー・フォンダ)は、妻ローズ(ヴェラ・マイルズ)と子供が二人、貧しいながらも幸せな家庭を築いて暮らしていた。妻のために歯の治療費を借りようと、マニーはローズの保険証書を持って保険会社のオフィスを訪ねる。しかし、何かがおかしい。女性職員の怪訝な目線。マニーはコートのポケットに右手を突っ込み、左手で胸のポケットから保険証書を取り出す場面、拳銃を取り出すのかと勘違いした女性の恐怖を表現するように、細かくカットが割られている。この映画は、前半部がとにかく怖い。自宅に帰ってマニーが階段を昇ったところで、名前を呼ばれ警察の車に連行される。マニーはあと一歩で家に入れたのに、妻に何も言えないまま警察に連行され、そのまま強盗があった店に連れて行かれる。マニーは店に入って出てくるように指示される。被害に遭った店員の面通しである。何も分からないまま、店に入って出ていくことを繰り返すマニー。そして犯人の筆跡と比べられるために、脅迫文の文字を書いたら犯人と同じスペルの間違いを犯し、ますます窮地に追い込まれていく。カメラは、マニーの戸惑いの顔と歩いて行く目線の映像を丁寧に入れながら、マニーの不安な気持ちに寄り添って描いていく。何度も繰り返される目撃者による面通しは、マニーが犯人だと証言される。指紋を取られ、留置所へ連れられて入り、翌日は裁判所に連れて行かれる。「強盗などしていないのに」という弁明がなんの役にも立たず、次から次へといろんな場所に連れて行かれ、証言で犯人だと言われ、身動きが取れなくなっていく恐怖は緊張感いっぱいだ。マニーの視線は自分の手にかけられる手錠を見つめ、連行されるバスの中では移送される男たちの靴が映し出される。手錠と靴。下を向くしかないマニーの目線映像が効果的に挿入される。そんな細かい目線や段取りを克明に描くことで、リアリティが増し、犯人にされてどうにもならない無力感が描かれている。

後半は、親戚が保釈金を払ってくれて保釈され、マニーは妻のローズと一緒に強盗事件があった日のアリバイを証明するため動き回る。しかし、そのアリバイの証人を訪ねていくと死んでいたりして、無実を証言できる証拠がなかなか集まらない。すると今度は、妻のローズが精神的におかしくなってしまうのだ。自分を責めて精神的にまいってしまい、施設に隔離するしかなくなる。精神的なトラウマを多く描いてきたヒッチコックだが、実際にあった事件でも妻の精神が崩壊していく。追いつめられていく人間の心理の脆さ。孤独と闇。不幸は連鎖し、ますます八方塞がりになって、マニーは神に祈ることしか出来ない。そんなヘンリー・フォンダの顔のアップにオーバーラップして、彼ソックリな真犯人の顔になる。奇跡が起きて、真犯人が新たな強盗事件を起こすのだ。マニーではない別の男は逮捕され、マニーの容疑もその真犯人の仕業だと判明するのだ。妻のローズに、事件が終わったことを告げに施設に訪ねるマニーだったが、「良かったわね」と妻は言うだけで無表情は変わらない。「トゥルー・ストーリー」は簡単にハッピーエンドには出来ない。最後に、「2年後にローズは全快して退院し、現在マイアミで一家は幸せに暮らしている」という字幕が入って映画は終わる。

思い込みや誤解の証言によって、無実の人間が犯人にされてしまう恐怖とサスペンス。現実に起きた事件なだけに、その過程を克明に描くことで、妙になまなましい映画になっている。


1956年製作/105分/アメリカ
原題または英題:The Wrong Man

監督:アルフレッド・ヒッチコック
製作:アルフレッド・ヒッチコック
脚本:マックスウェル・アンダーソン、アンガス・マクファイル
撮影:ロバート・バークス
美術:ポール・シルバート
音楽:バーナード・ハーマン
キャスト:ヘンリー・フォンダ、ベラ・マイルズ、アンソニー・クエイル、ハロルド・J・ストーン
☆☆☆☆4
写真引用コピーライト 2004 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.
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