mixiユーザー(id:3912568)

2026年05月09日16:07

46 view

「ザ・ファン」トニー・スコット〜ヨリの映像でグイグイと展開するデ・ニーロの顔と反復する動作〜

トニー・スコット監督はヨリの映像を多用する。状況を説明するようなヒキのショットを入れずに、ヨリの顔のアップでグイグイと映画を引っ張っていく。ヒキは大ロングの街や橋や高速道路や海辺の俯瞰など。この映画のオープニングも、顔のアップを重ねながらテンポ良くガンガンと進めていく。ラジオDJがリスナーの野球ファンと電話をつなぐ野球番組。ブレーブスからサンフランシスコ・ジャイアンツに4千万ドルでやってきた大物スラッガー、ボビー(ウェズリー・スナイプス)を応援するファンのギル(ロバート・デ・ニーロ)が車を運転しながらラジオで得々と喋る顔。そして選手のボビーと電話をつなぎ、ボビーが喋る顔。そしてDJの女性の顔を次々とテンポ良く重ねていく。車の走りの運動感とともに、何かが始まる興奮と躍動感に満ちている。このギルを演じるロバート・デ・ニーロが車を運転しながらボビー(ウェズリー・スナイプス)と電話をやり取りするのは、ギルがボビーの息子を誘拐した場面でも反復される。ギルはボビーの息子が海で溺れそうになっているのを助け、ボビーに向かってギルがユニファームを着て夜の浜辺でボールを投げて、次第に狂気の姿を見せていく直後のシーンだ。「ファンなんかどうでもいい」と言ったボビーを許せないギルは、自分の存在を否定されたような気分になった。そして自分が背番号11番を取り戻してやったんだから、俺に「礼を言え」と電話で言うのだ。この電話の二人の顔を切り返しは、最初のラジオのシーンのまさに反復なのだ。しかも、最初は有名選手としてファンに優越的に接していたボビーが、息子を誘拐されて必死になってギルの真意を探ろうとしている。立場が逆転している反復なのだ。

野球の映画であるにも拘わらず、野球の全体像や球場内のロングショットは使われていない。役者が打つという理由もあるだろうが、徹底してボビーの打撃シーンはヨリの映像で済ませている。ピッチャーの顔のアップとボビーの顔のアップ。スイングや審判のコールの手の仕草。観客や外野の選手などを入れるが球場の全体像は一切見せずに、選手たちのヨリだけで描いていく。

ギルの昔の野球仲間、クープをキャッチャーにして再びギルが投げる場面、今度はボビーの息子が泣きながらバットを持って立っている。ギルが自分の息子の少年野球を応援しに行って、母と喧嘩して息子を泣かせた場面と重なる。仕事でも私生活でも野球の応援でも、いつだって必死なのにうまくいかない短気なギルは、まわりを泣かせ、怒らせてきた。その苛立ちのロバート・デ・ニーロの顔のアップがこれほど多い映画もないのではないだろうか。

プロ野球のスター選手を熱狂的に応援するあまり、選手からは報われぬファンとしての思いが狂気と化していく様を描いた奇妙なサイコ・スリラーだが、落とした11番のペンダント、背番号11番のユニフォームの重ね着、ジャイアンツの腕時計、首振り人形、ナイフなどの小道具の使い方が見事だ。そして大雨と球場内に映し出される巨大モニター、さらにナイフを持って繰り返されるギルの投球フォーム。野球選手になれなかった男の染みついた動作。反復とアップの映像を多用しながら、強い思いが捻れていく男の狂気が描かれている。


1996年製作/118分/アメリカ
原題または英題:The Fan
配給:日本ヘラルド映画配給(日本ヘラルド映画=ポニーキャニオン提供)

監督:トニー・スコット
脚本:フォエフ・サットン
原作:ピーター・エイブラハムズ
製作総指揮:ビル・アンガー、ジェームズ・W・スコッチドープル、バリー・M・オズボーン
製作:ウェンディ・フィネルマン
撮影:ダリウス・ウォルスキー
美術:アイダ・ランダム
音楽:ハンス・ジマー
音楽監修:シャロン・ボイル
編集:クリスチャン・ワグナー、クレール・シンプソン
キャスト:ロバート・デ・ニーロ、ウェズリー・スナイプス、エレン・バーキン、ジョン・レグイザモ、ベニチオ・デル・トロ、パティ・ダーバンビル、クリス・マルケイ、アンドリュー・J・ファークランド、ブランドン・ハモンド、チャールズ・ハラハン、ダン・バトラー、カート・フラー、マイケル・ジェイス、フランク・メドラノ、ドン・S・デイビス、ジョン・クラック
☆☆☆☆4
写真引用コピーライト 1996 TriStar Pictures, Inc. and Mandalay Entertainment. All Rights Reserved.
2 5

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2026年05月>
日 月 火 水 木 金 土
     12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
31