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2026年04月23日16:59

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「穴」ジャック・ベッケル〜脱獄映画の傑作〜

ジャック・ベッケルの遺作、脱獄映画である。ジャック・ベッケルのこの映画の公開前に亡くなっている。「1947年、サンテ刑務所で実際に起きた私の体験を友人のJ・ベッケルが忠実に映画化した」と、実際に映画に出演しているロラン役のジャン・ケロディがカメラに向かって語るところから始まる。彼は実際に収監されて何度も脱獄を験したということだから凄い。原作のジョゼ・ジョバンニ(映画監督・脚本家・小説家)も脱獄実行犯の一人で、彼が小説化したものの映画化である。だから、この映画が迫真性があり、生々しいリアルさ、緊迫感があることも頷ける。脱獄映画といえば、有名な『大脱走』をはじめ、『パピヨン』、『アルカトラズからの脱出』、『オー・ブラザー!』など数々の映画がある。また、刑務所を舞台にした映画で面白かったのが、ジョセフ・ロージーの『コンクリート・ジャングル』(1960)である。『ショー・シャンクの空に』という有名な作品もある。いずれにせよ、閉鎖された空間に閉じ込められたものたちのドラマ、刑務所や脱獄は映画のテーマになりやすいのだ。なかでも最もストイックで地味で生々しい脱獄映画といえば、ロベール・ブレッソンの『抵抗 死刑囚の手記より』(1956)だろう。一人称の手の動きを徹底して描いている傑作だ。本作も、黙々とコンクリートを叩き割る手を動きを描き続けているという意味ではよく似ている。派手に脱獄シーンを劇的に描くのではなく、淡々と地味な作業を繰り返しながら、脱獄への道筋を作っていく4人組の囚人と一人の青年の物語だ。

4人の囚人が押し込められている狭い部屋に、さらにもう一人ガスパール(マーク・ミシェル)という青年が改築のため別房から移動させられる。4人は前から同室で10年以上の刑を食らっていて、秘かに脱獄の計画を進めていたのだ。マニュ(フィリップ・ルロワ)、ボスラン通称・僧正(レイモンド・ムーニエ)、ロラン(ジャン・ケロディ)、ジョー(ミシェル・コンスタンタン)の4人はガスパールも仲間に入れて、脱走の準備を始める。床の板を剥がし、コンクリートを鉄の道具で叩き割るシーンが長々を続く。叩く度に大きな音が響き、バレないかとヒヤヒヤする。覗き窓から歯ブラシに鏡を付けて、潜望鏡のように左右を監視する道具を作ったり、穴を掘っている間の時間を計るために砂時計を作ってみたり、細かい道具を作り出す器用さも大切な技術であり、脱走を準備するそんなディティールが面白い。

刑務所の部屋の下には地下室があり、看守の巡回の合間に扉の鍵を開けて、さらに鉄柵を切って地下水道へと降りていく。最後にコンクリートの壁が行く手を阻み、また鉄棒で壁を叩いてこじ開けていく。それを毎夜、5人が交代で作業を進め、ようやく穴が開通し、地上のマンホールの蓋から町を見渡す。明け方の町をタクシーが走っていくのを見て、観客も囚人と同じ気持ちになって感動する。そしてやっと作戦決行となって、就寝前に服を外出着に着替えて、毛布で作ったネクタイを締めて、残ることにしたジョーと別れの挨拶をして、いざ実行しようとするときに、ジョーが覗き窓の歯ブラシの鏡から見たのが、大勢居並ぶ看守たち。このシーンが凄い。歯ブラシの鏡のショットが効果的に使われていたが、片側を見て異常なし。そしてもう片側を見た瞬間に圧倒的な数の看守たちが鏡に映り観客もギョッとする。

なぜ脱走計画がバレたのか、映画はハッキリとは描かないところがフランス映画だ。ガスパールの告訴を被害者の妻が取り下げたことが所長から知らされ、その後ガスパールは所長室から2時間も戻ってこなかった。その間に所長とガスパールの間で何が話されたのか、描かないのだ。バラしてないかと疑う仲間に、ガスパールは脱走計画に自分も加わると言う。そして脱走計画がバレた瞬間、ガスパールは「違う!」、自分じゃないと叫ぶ。4人は裸にされ並べられる中、ガスパールは一人独房へと入れられ、すれ違う瞬間にロランから、「哀れだな」と声をかけられる。ガスパールが自ら裏切ったのか、所長の策略にガスパールがハマって勘づかれたのか、そもそもガスパールを4人の部屋に入れたことがスパイのように使う所長の策略だったのか、ハッキリとは分からない。ガスパールは、お坊ちゃん育ちで、欲しいものはなんでも手に入れてきた我が儘な青年である。妻と揉めて争っているときに銃が暴発し、計画殺人罪で起訴されたが、そもそもガスパールは義理の妹と関係が出来ていた。苦労している4人の囚人とは明らかに違うキャラクターであり、脱獄計画を進めているときは「みんなと仲間になれて、良かった」、「こんな経験は初めてだ。ワクワクする」と喜んでいた。そんな地に足のついていないガスパールの態度で、所長に計画を見透かされたのだろう。

いずれにせよ、黙々と行動を緻密に実践していく囚人たちの動きから目が離せなくなる迫力たっぷりの脱獄映画の傑作である。


1960年製作/132分/フランス
原題または英題:Le Trou
配給:東和

監督:ジャック・ベッケル
製作:セルジュ・シルベルマン
原作:ジョゼ・ジョバンニ
脚本:ジャック・ベッケル、ジョゼ・ジョバンニ、ジャン・オーレル
撮影:ギスラン・クロケ
キャスト:マーク・ミシェル、ミシェル・コンスタンタン、ジャン・ケロディ、フィリップ・ルロワ、レイモン・ムーニエ
☆☆☆☆4
写真引用コピーライト1960 STUDIOCANAL - Magic Film S.P.A.[MF:コピーライト 2015 STUDIOCANAL GmbH. All Rights reserved.
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