『リトル・ミス・サンシャイン』の製作陣が贈る笑いと涙の感動作というキャッチ・コピーに惹かれて劇場鑑賞。『リトル・ミス・サンシャイン』は良かった。その製作のマーク・タートルトーブが今回は製作・監督。認知症の一歩手前の老人たちのほのぼのとした騒動。ベン・キングズレーがいい味を出している。登場人物は3人の老人たちと娘だけ。シンプルな物語ながら、老人の悲哀とユーモアと希望が描かれている。
ペンシルベニア州西部の小さな町に住む79歳の男性ミルトン(ベン・キングズレー)は、市民の陳情を聞くという町議会の議員たちにいつも訴える。「町のスローガンは誤解の元だから変えるべきだ」、「横断歩道を作って欲しい」という意見を変わらず言い続けている。いつも同じ訴えで、相手にされない。トイレの棚に食料の缶詰を置いていたことで、娘(ゾーイ・ウィンターズ)に認知症を心配されている。それでも「大丈夫だ」と頑固に言い続けている。そんなある夜、ミルトンに庭にUFOが落ちてきた。警察に電話しても、娘に言っても相手にされない。ミルトンは、宇宙船のことよりも、自分のツツジの生け垣を壊されたことを問題視する。ミルトンのそんなところが可笑しい。そして宇宙人が出てきて介抱しているうちに、家に上がり込み一緒に住むようになる。そんな秘密を共有する仲間が、陳情仲間のサンディ(ハリエット・サンソム・ハリス)とジョイス(ジェーン・カーティン)だ。サンディは夫を亡くし、レズビアンの娘がいるが、自分の家には帰ってこない孤独な老婦人だ。そして老人と若者の交流の場を持ちたいと陳情し、まずは自分が若者と話をすることから始めるとチラシを貼るが、やって来た若者に宝石を奪われ、殺されそうになる。もう一人のジョイスは、かつてピッツバーグで歌手をしていた思い出が忘れられなくて、今は老いた猫と孤独に暮らしている。ミルトンは、だまし討ちのように娘に医者に連れて行かれ、認知症のテストを受け、宇宙船のことを認知症の妄言だと判断され、介護施設に入ることを勧められる。そんな孤独な3人の老人たちが、エイリアン(地球外生命体)の秘密を守ろうというお話。「映画にもあるでしょ。地球の人間は宇宙人に酷いことするに決まっているから、秘密にしましょ」と3人は宇宙人のことを秘密にして、宇宙人が宇宙船を修理して無事帰還することをを応援するのだ。サンディが「名前を付けましょう」と言って、宇宙人を「ジュールズ」と呼び、ジョイスは「ゲイリー」と名付ける。そしてミルトンはその名前では決して呼ばない。そんな三者三様のところも面白い。
私の父も死ぬ前に認知症を患って、妄想のようなことを言っていた。現実では起きえないことを言い出すのだ。このUFO話は、老人の妄想とも言えるようなものである。問題は、その妄想をあからさまに否定するか、一緒に寄り添い、理解しようとするかである。ミルトンの妄想に、サンディとジョイスの二人の孤独な老人が付き合った。ボケるかもしれないという老い孤独と不安のなかで、一緒にその不安を分かち合える存在がいれば、救われる。たわいもない間違いや、ちょっとした嘘を、厳しく否定することがすべてではない。思考が曖昧になっていく老人にとって、その曖昧さを受け入れてもらえることが何よりも救いなのだ。何も喋らず、表情も変わらない小柄な宇宙人は、否定もせず、攻撃もせず、老人たちのすべてを受け入れていた。そんな存在に、不安で孤独な老人たちは救われたのだろう。
2023年製作/87分/G/アメリカ
原題または英題:Jules
配給:ナカチカピクチャーズ
監督:マーク・タートルトーブ
製作:デビー・リーブリング、アンディ・デイリー、マイケル・B・クラーク、アレックス・タートルトーブ、マーク・タートルトーブ
製作総指揮:デビッド・バウシュ
脚本:ギャビン・ステックラー
撮影:クリストファー・ノア
美術:リチャード・フーバー
衣装:ステイシー・ジャンセン
編集:アイェレット・ギル・エフラット
音楽:フォルカー・ベルテルマン
音楽監修:スーザン・ジェイコブス
キャスト:ベン・キングズレー、ハリエット・サンソム・ハリス、ゾーイ・ウィンターズ、ジェイド・クオン、ジェーン・カーティン、アンナ・ジョージ
☆☆☆3
写真引用(C)2022 Apple Slice Productions LLC All Rights Reserved.
ログインしてコメントを確認・投稿する