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2026年04月03日18:45

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追悼・つげ義春�◆ 岷�の中の慾情」片山慎三〜妄想と現実が交錯・反転〜

つげ義春さんが2026年3月3日、88歳で亡くなられた。追悼の意味も込めて、石井輝男の『ねじ式』(1998)を見て、続けてこの『雨の中の慾情』(2024)を見た。これはわりと最近の映画で、公開されたのは知っていたが見逃していた。ほぼ全編台湾でロケを敢行し、2人の男と1人の女の性愛と情愛、そして戦争の悪夢も含めた幻想的世界を複雑な形式で描き出す。脚本協力に『ドライブ・マイ・カー』の脚本にも加わっている大江崇允の名前がある。義男役は今をときめくイケメン俳優の成田凌が演じている。本作はつげ義春の漫画「雨の中の慾情」ほか、「池袋百点会」、「夏の思いで」、「隣りの女」が使われアレンジされている。

最初に「雨の中の慾情」の原作にあるように、雷が鳴り響く豪雨のバス停で、身につけている金属は危ないと男と女が服を脱いで下着姿になる。そして、田んぼで泥だらけになりながら男が女を犯す慾情が描かれる。それは貧しい北町に住む売れない漫画家の義男(成田凌)が描いた漫画の世界であることが後に示される。アパート経営のほかに怪しい商売をしている片脚が不自由な大家の尾弥次(竹中直人)から、義男は自称小説家の伊守(森田剛)とともに引っ越しの手伝いに駆り出される。そこで離婚したばかりの福子(中村映里子)に出会い、裸で寝ていた福子の後ろ姿に魅せられて思わずスケッチで描く義男。福子は喫茶「ランボウ」のウェイトレスとして働いているのだが、最近描いた漫画だと言って義男は「雨の中の慾情」を、読んで感想を聞かせて欲しいと福子に渡す。表紙は女性が股を開いているエロティックなものだ。義男は漫画でしか愛を告白できない不器用な男。同じ常連客である伊守から、「福子には恋人がいるのを知っているか?」と言われ、伊守の自宅に行ってみると、そこには福子がいた。「あんたがボヤボヤしているからだよ」と義男は伊守から言われる。そして伊守は自作の小説を掲載するため、裕福な南町で流行っているPR誌を真似て北町のPR誌を企画し、義男がその広告営業を手伝うことになる。(「池袋百点会」の映像化)。すでに伊守の恋人になっていた福子。「欲しいものはいつだって手に入らない」・・・とショーウィンドウの美しいペンを見て呟く義男だった。

南町のPR誌の仕事はうまくいかず、営業のプロとして雇った男に金を持ち逃げされ、金だけ取られて文句を言う商店主たちから逃げるために、伊守と福子が義男の家に逃げ込んでくる。そして3人の共同生活が始まる。夜になって伊守と福子のセックスを覗き見する義男。眠れない義男は町を彷徨っているうちに一人の若い女性の後をつける。するとその女性が車でひき逃げされて、田んぼの中に飛ばされた。そのはねられた女の様子を見に行った義男だったが、女のスカートから下着が見え、思わずその下着に手を入れてしまう義男。そのひき逃げ事件が後日、福子から話題となり、警察は田んぼの足跡を犯人のもの考え、警察犬を使ってその足跡の人間を探しているらしいと聞かされる。自分の足跡がバレるとも思って、慌てて靴を買い換える義男。警察犬の追跡に怯え、近所の犬を警察犬だと勘違いする。(「夏の思いで」の映像化)。

伊守は南に妻子がいて大富豪の養子で、お屋敷に住んでいるんだと言って、福子を残してあっさり去って行く。残された福子と義男の二人の生活になるが関係は進展しない。大家の尾弥次(竹中直人)の「つむじ風」とかいう怪しい仕事に駆り出された義男と福子。子供をお面を被って恐怖に怯えさせ、つむじから液体を抽出し、それが万能薬として売れるらしい。そのクスリを持って南へ行くという尾弥次のトラックに同乗し、福子は伊守に会いに行くと言う。(尾弥次の離婚女の最初の引っ越し手伝いからトラックでの三人旅のくだりは「隣りの女」の映像化。福子が逃げた伊守に会いに行くのは「池袋百点会」の映像化だ)。検問を通り、途中オシッコをしたりして、つむじ風の薬剤を白人の兵隊に売り、南の国で宮殿のような豪華な白亜の屋敷に辿り着く。伊守の妻から飽きて捨てられただけよと言われ傷つく福子。帰ってきた伊守をかんざしで刺し殺そうとする。その旅の帰りに優しくした義男は、福子とやっと結ばれる・・・のか?森の中のベッドでのセックスは単なる義男の妄想か。

その後の展開は現実なのか、妄想なのか混乱してくる。戦場病院のベッドで目が覚める義男。左手と右足を失っている。そばには伊守もいる。尾弥次(竹中直人)が医者になっていて、足は不自由ではない。この戦争病院が現実で、前半に描かれた世界は義男の妄想なのか?描いた漫画の世界なのか?分からなくなってくる。台湾での日中戦争の描写があり、地元の少女を撃たずに助けた義男は、違う少女に左腕を撃たれる。伊守と少し回復した義男は娼婦の福子に会いに行くが、福子は死んだと知らされ、福子からだと言われ、かつて義男がショーウィンドウで眺めていた美しいペンをプレゼントされる。そのペンで福子とのことを漫画に描く義男。そして義男と福子の平凡だが幸福な生活の妄想。「つむじ風」の怪しい商売が警察に摘発される場面。兵隊姿であちこちを走り回る義男の妄想があり、福子が車に跳ね飛ばされ田んぼで二人が抱き合う妄想、そして一人残された田んぼで義男は倒れ、イナゴの大群が空を飛び回る・・・。それはみんな戦争で撃たれた直後の死の間際の義男の妄想だったらしいことが分かる。野戦病院もまた妄想だったのか。そして最後に福子がまだ生きていたことが明かされ、若い兵隊とセックスしていた福子は、かつて義男の描いた裸のスケッチの絵を部屋に残して出ていくのだった・・・。

伊守と福子と義男の三角関係を描いた「池袋百点会」と「隣りの女」、ひき逃げ事件の「夏の思いで」をつなぎ合わせて発展させた前半部は面白かったのだが、左手・右足を失う戦争の描写が入ってくる後半部は、やや別の映画になっていた印象。鏡やプリズムの虹色の光が印象的に使われつつ、現実と妄想が入れ替わったかのような印象。戦争で銃に撃たれたが現実で、福子は台湾人のただ娼婦。兵隊の義男は台湾人の娼婦の福子と恋仲になって、日本に連れて帰る約束をした?その福子の髪のお守りを握りしめていた兵隊の義男。そして義男は戦争で負傷した。それ以外はすべて義男の妄想か、漫画で描こうとした世界だったのか?現実だったと思われていたものが妄想で、妄想だったと思われた戦争が現実だった?現実と妄想が最後で反転する。台湾の古き日本の町並みのような場所を舞台にしていることで、「どこでもない町」といったつげ義春的な現実離れした浮遊感がある。戦争という重い現実を突きつけながら、福子という女に慾情した男の思いを描いたのか。「雨の中」とは「戦争」の暗喩だったのか。奇妙な映画である。成田凌、中村映里子、森田剛、3人の俳優が良かった。


2024年製作/132分/R15+/日本・台湾合作
配給:カルチュア・パブリッシャーズ

監督・脚本:片山慎三
原作:つげ義春
企画:中沢敏明
エグゼクティブプロデューサー:英田理志。中西一雄
脚本協力:大江崇允
撮影:池田直矢
照明:舘野秀樹
録音:秋元大輔
美術:磯貝さやか
編集:片岡葉寿紀
音楽:高位妃楊子
音楽プロデューサー:安井輝
キャスト:成田凌、中村映里子、森田剛、足立智充、中西柚貴、松浦祐也、梁秩誠、李沐�癲�伊島空、李杏、竹中直人
(C)2024 「雨の中の慾情」製作委員会
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