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2026年04月02日16:05

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追悼・つげ義春 「ねじ式」石井輝男〜忠実に映像化・・・「別離」「もっきリ屋の少女」と「やなぎ屋主人」も〜

写真引用1998コピーライト石井プロダクション

つげ義春さんが2026年3月3日、88歳で亡くなられた。多くの人たちがつげ義春の漫画に影響を受けた。私もまた学生時代につげ義春の漫画に魅せられて、その独特な世界を夢中で読んだ。シュールで幻想的な「ねじ式」から始まって、山の中で暮らす少女の初潮を描いた「紅い花」、雨の海辺の男女の「海辺の叙景」など好きな作品はたくさんある。つげ義春の何にそんなに惹かれたんだろう、と今考えると、高度成長期からバブルまでのイケイケの時代に、ひたすら後ろ向きに破滅的で不安で孤独で虚無的で陰鬱、性と欲望の歪んだエロティシズムも描きながら、都会ではなく鄙びた田舎の土俗的な人間を描き続けたところが面白かったように思う。目の前に広がっている世界とは全く違う異世界がそこにあった。

つげ義春に魅せられた映画人も多く、これまでつげ義春作品は多く映画化されている。竹中直人の『無能の人』(1991)を始め、石井輝男の『ゲンセンカン主人』(1993)では、表題の他「李さん一家」「紅い花」「池袋百点会」が取り上げられている。そして石井輝男の『ねじ式』(1998)では表題の他「別離」「もっきり屋の少女」「やなぎ屋の主人」が取り上げられ、吉田照美が「ねじ式」を原案として『バネ式』(2002)という不条理コメディを撮っている。さらに山田勇男が『蒸発旅日記』(2003)を、山下敦弘が「会津の釣り宿」と「リアリズムの宿」を映画化した『リアリズムの宿』(2003)を、片山慎三が『雨の中の慾情』(2024)を、三宅唱が「海辺の叙景」と「ほんやら洞のべんさん」を『旅と日々』(2025)として映画化している。映画賞を獲って話題となった三宅唱の最近の作品まで、つげ義春の影響は現代まで続いている。

つげ義春追悼ということで、見ていなかったカルト映画の第一人者・石井輝男の『ねじ式』を見た。冒頭は金粉を塗りたくった裸の男たちとふんどし姿の裸同然の女たちが海の岩場で絡み合っているエログロ的な世界から始まる。一般観客を拒否するような過激な暗黒舞踏を感じさせるオープニングは、売れない貸本漫画家のツベ(浅野忠信)の漫画の妄想だ。どん底生活の極貧ツベは、内縁の妻の国子(藤谷美紀)と離れて暮らすことになる(※前半の話は「別離」を映像化している)。国子は世田谷にある会社の寮の賄婦として住み込みで働くようになり、ツベは知り合いの木本(金山一彦)のアパートに転がり込む。夜は木本に抱きつかれ、国子が浮気しているのではという嫉妬と妄想でツベは苦しむ。そして国子から妊娠しているかもしれないと聞かされ、ツベはショックを受け薬を飲んで自殺を図るが、一命を取り留める。溜まった小便をトイレで大放出する場面が面白い。下宿屋のオヤジに丹波哲郎が出ている。その後、放浪生活と妄想の日々を送ることになる。

ここからは、まず「もっきり屋の少女」が描かれ、渓流釣りにやって来たツベがコバヤシチヨジ(つぐみ)という奇妙な言葉を喋る少女と出会い、酒を飲まされてお客に胸を触られるチヨジを見る場面がほぼ原作通りに再現される。続いて「やなぎ屋主人」が描かれる。房総の海辺の町に夜にやって来たツベは、やなぎ屋という安食堂に泊めてもらい、そこの娘(藤田むつみ)と妄想の末にセックスしてしまい、この安食堂で年老いて夫婦になる情景をイメージしながら一年後にもう一度やって来る。すると食堂の娘はツベのことをまったく覚えていない。そして野良猫を拾って海辺の焚き火でハマグリを焼いて食べるのだ。「猫の足の裏をまぶたに当てると冷たくて気持ちがいい」と誰かの小説に書いてあったことを一人でやってみるのだった。

その海辺のツゲの場面から翌日、左手から出血をした男が海から上がってくる。「ねじ式」の妄想が始まるのだ。メメクラゲに左腕を噛まれて、出血多量で死ぬかもしれないと思いながら医者を探して寂れた漁村を彷徨うのだ。ほぼ原則通りの構図や人物配置で忠実に映像化している。眼医者ばかりの路地と目の表示、キツネのお面を被った少年の機関車に乗り、金太郎飴を作っている生まれる以前のおっ母さんに清川虹子。産婦人科医にセックスしながら手術をしてもらって左腕に血管のねじが付けられる。「そういうわけで、このねじを締めると、僕の左腕はしびれるようになったのです」。

そもそも「ねじ式」を映像化しても、原作を超えられない。原作以上のものにならない。原作の構図通りに忠実に再現しているだけとも言える。前半の内縁の妻との極貧生活の自殺騒ぎ(「別離」)を膨らませた方が面白くなったように思える。


1998年製作/87分/日本
配給:ビターズ・エンド

監督・脚色:石井輝男
原作:つげ義春
製作:井上博貴
プロデューサー:石井輝男、小林桂子
撮影:角井孝博
美術:松浦孝行
音楽:瀬川憲一
録音:曽我薫
効果:真道正樹
照明:野口素胖
編集:神谷信武
選曲:薄井洋明
キャスト:浅野忠信、藤谷美紀、金山一彦、丹波哲郎、清川虹子、藤森夕子、つぐみ、藤田むつみ、青葉みか、砂塚秀夫、水木薫
、杉作J太郎、三輪禮子、原マスミ、広崎哲也、神戸顕一、西川直希、アスベスト館
☆☆☆3
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