全編ピンボケで、たった61分で終わってしまうホン・サンスの実験作。いつも少人数のスタッフで製作するホン・サンス映画にあって、ひときわ少人数で実験的に作ったと思われる作品。ホン・サンスは撮影も兼ねている。夏の終わりの済州島を舞台に、自主映画を撮るために集まった男女3人組を描いているのだが、引きの長回しが多いのはいつも通りなのだが、映像のピントが合っていないのだ。いつも手前にピントが合っているので、ほとんどの映像はボケボケ。役者の顔すら満足に見えない。顔のヨリもないので、尚更、顔が分からない。
大学卒業後、俳優業に専念していた青年ソンモは、自主制作で短編映画を監督しようと決意する。かつての同級生ふたりを連れ、リゾート地として知られる済州島へ向かうが、思うようにシナリオは書けず、煩悶しながら海辺を散策していた。そんな折、ひとりの女性との出会いをきっかけに、語るべき物語を見出す。やがて、海辺での撮影が静かに始まる──。(公式HPより引用)
ほとんどは3ショットだ。監督のソンモ(シン・ソクホ)と友人でカメラマンを演じるサングク(ハ・ソングク)、そして大学の後輩で女優のナミ(キム・スンユン)。3人が喋りながら食事をし、資金がないこと、食べ物のこと、映画のことを語り、なぜ映画に出ることになったのか、大学時代はどういう付き合いだったのか、などをダラダラととりとめもなく喋っている。ロケハンしたりしながら、映画の内容を考えているソンモだったが、なかなか考えがまとまらない。そして海辺の崖の下で、一人でゴミ拾いをしている女性に出会い、映画の内容が固まる。崖の上ではしゃぎ浮かれる観光客と、崖の下で一人黙々とゴミ拾いをする女性。対比的な二つの世界。それを見ている一人の男性(ソンモが自ら演じる)が、女性に興味を持って崖の下に降りていき語りかける。そして女性に関心を持った男性は、女性につきまとうが、次第に女性から冷たくされる。崖の上の世界にも戻れないし、崖の下にもいられなくなる。そして男性は人生に行き詰まって一人海へと入っていく。そんな短編映画のストーリーを3人で撮っていく。それをピンボケ映像で描いているだけ。男はかつての恋人に捧げて作った歌をラストシーンで使うために、元恋人に電話をかけて承諾をもらう。「悲しい歌よね」と元恋人に言われる。
カメラを構えるサングクとスマホで歌を再生するナミ、その二人から海へと映像がパンをすると、映画内映画のラストシーン、ソンモが海へと入っていく。そして歌は終わり、波の音だけとなり、ピンボケ映像のソンモの影が海へと消えていく。そして画面は暗転し、ピンボケのスタッフ字幕が出て、映画内映画とともに本編の映画も終わるのだ。ピンボケは何を意味しているのだろう。ソンモという男は映画の虚構の海へと消えていった。ピントが合ってないと、虚構性が強調される。映像の記録性は失われ、虚構性ばかりが画面に立ち現れ、台詞と音と音楽をぼやけた映像の中で聞いている感じになる。曖昧であやふやな世界。映画作りについての映画だが、虚構の彼方へと消えていくことこそ、映画だというのだろうか。それは死をも意味する。劇中、ナミが夜にトイレに起きたときに、幽霊の声を聞くエピソードがある。サングクでもソンモでもない男の声。死に囚われたものたち、あるいは虚構の世界の住人たちの声を聞きながら、虚構の映画を作り上げること。それが映画作りというものなのかもしれない。ヘンな映画だ。
2023年製作/61分/G/韓国
原題または英題:In Water
配給:ミモザフィルムズ
監督・製作・脚本・撮影・編集・音楽:ホン・サンス
キャスト:シン・ソクホ、ハ・ソングク、キム・スンユン、(声)キム・ミニ
写真引用(C)2023Jeonwonsa Film Co. All Rights Reserved.
☆☆☆3
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