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2026年03月15日16:36

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「酔っぱらい天国」渋谷実〜酔って弾ける笠智衆がみどころ〜

笠智衆が弾けた酔っ払いぶりを軽やかに演じている。登場人物のほとんどが酔っ払いばかり。酔った人間たちのナンセンス・コメディかと思って見始めると、あにはからんや、後半はシニカルな社会風刺劇だった。終わり方もなかなかシビアで皮肉な感じ。笠智衆は牢屋に入れられて、「酒の上での過ちだ。オレをここから出せ!」と酔って逆ギレして、鉄格子の中で倒れて眠りこけて終わる。鉄格子の影が画面全体を覆う。渇いた人間喜劇が得意な渋谷実監督の皮肉に満ちたコメディ。

日本鋼材の会計課長渥美耕三(笠智衆)は十年前に妻を亡くし、一人息子の史郎(石濱朗)との二人暮し。二人とも大変な大酒のみで親子の仲はいい。耕三は算盤が得意の古い人間で、後半は電算機が会社に導入され、時代についていけなくなる。耕三は近所に住む長谷川きみ(岩崎加根子)が、夫の清(伴淳三郎)の酒のことで相談にくると、「酒は静かに飲むべきだ」と説教するが、彼自身は飲むとがらりと人が変ってしまう。飲み友達のトップ屋くずれの小池(三井弘次)と泥酔し、酔っぱらい保護センターに保護される仕末だ。ある日、史郎は結婚したいと突然言い出す。相手は看護師の桜井規子(倍賞千恵子)で、どうしても結婚したい史郎は子供もできたと父に嘘を言う。結婚を父に渋々承諾させた史郎は、友人の森山(佐藤慶)と飲み歩く。森山はバーのホステスの節子(有馬稲子)に惚れていたが、その時店に来ていたプロ野球のスター選手片岡(津川雅彦)と節子のことで喧嘩になり、止めに入った史郎がバットで殴られて頭を打つ。そして病院に担ぎ込まれ入院。耕三(笠智衆)は片岡を告訴しようとするが、会社の専務(滝沢修)が片岡の野球チームの監督(山村聰)と同級生で仲裁に入り、示談に応じることを了承する。片岡と監督に耕三は接待されて、その夜も他人の金で酔っ払って大騒ぎ。その同じ晩に史郎の容態が急変し、死んでしまう。酔って家に朝帰りして、息子の死を知る耕三。酒のせいで息子に死にも立ち会えなかった。

悲しみのどん底に落とされた耕三は、酒に溺れながら、息子の幽霊を見て会話しながら酒を酌み交わす。幽霊として史郎が登場し、耕三と会話したかと思うとまた消えてしまう。なかなかいいシーンだ。酔っ払った友人の三井弘次が慰めに来るが、「今、息子と一緒だから」と言って追い返す耕三。一方、プロ野球選手のエース・片岡は史上8人目の完全試合を成し遂げ、球界の英雄になる。そんなとき、婚約者だった規子(倍賞千恵子)は「人殺し」と片岡に告げに来る。耕三は規子のお腹に子供がいるという息子の嘘を信じ、規子に一緒に暮らそうと誘い、規子も応じる。しかし、「人殺し」と言われた片岡は、何度も規子を訪ね、誘い、実家まで車で送ったりしているうちに、規子と関係を持つ。規子を訪ねてきた耕三は、二人の関係を知り怒り狂う。規子はお腹に「赤ちゃんはいない」と真実を告げるが、耕三の怒りは収まらず、止めていた酒をまた飲み始める。小池が片岡と規子の二人がバーで仲良く踊っていたことを耕三に報告し、泥酔して意識不明で行った犯罪は無罪になると、暗に、投手の生命である片岡の右手を傷つけるよう唆かす。耕三はナイフを買い、泥酔しながら片岡の指を切り落とそうとして、過って違う人の手を切ってしまう。耕三は留置所に入れられ、殺人未遂で罪に問われることになった。耕三は「酒に酔っての過ちだ」と留置所で叫ぶ。

笠智衆も、酒飲み友達の三井弘次も、近所に住む伴淳三郎もその妻の岩崎加根子も泥酔して大暴れ。芳村真理は酔った女としてしか出てこない。さらに津川雅彦も佐藤慶も酔っ払った挙げ句に喧嘩して、バットで石濱朗を殴って死なせてしまう。プロ野球選手の津川雅彦は、酔って何も覚えていないし、酒の席での過ちだと、人を死なせてしまったことを反省はしつつも、開き直っている。婚約者を殺されたのに、簡単に津川雅彦の誘惑に落ちてしまう倍賞千恵子は、やや不自然な気もするが、イケメンのスター選手には弱いということか。笠智衆が示談の接待をされて酔って大騒ぎする夜の弾けぶりは、なかなかの見どころ。その大騒ぎの夜に息子が死んでしまうという無念さがなんともせつない。最後に酔って犯罪を犯すところまで、酒に飲まれてしまう人間の弱さが描かれる。

小津安二郎映画の抑えた演技の笠智衆とは、明らかに違う軽やかな振る舞いの笠智衆が見どころだ。酔って騒ぐ場面だけでなく、ひょこひょこと慌てて病院に駆けつける姿もなんともおかしく哀しい。家の前の階段、病院のスロープなどが効果的に使われている。


1962年製作/93分/日本
配給:松竹

監督:渋谷実
脚本:松山善三
原案:渋谷実
製作:白井昌夫
撮影:長岡博之
美術:浜田辰雄
音楽:黛敏郎
録音:大村三郎
照明:小泉喜代司
編集:杉原よ志
キャスト:笠智衆、石濱朗、倍賞千恵子、津川雅彦、有馬稲子、山村聰、滝沢修、三井弘次、佐藤慶、伴淳三郎、岩崎加根子、佐野浅夫、むつ子、水科慶子、芳村真理
写真引用コピーライト1962 松竹株式会社
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