吉田喜重の長編デビュー作。以前にも見たが、結構面白いのだ。脚本を書いた吉田喜重のテンポのいい台詞のセンスが光る。吉田監督は昭和8年生れ、東大仏文科を卒業後松竹に入社、主として木下恵介監督の助監督を勤めた。撮影は成島東一郎。この映画の2年後には『秋津温泉』(1962)という傑作も撮っているのだから、吉田喜重の才能を感じさせてくれる。
本作の1ヶ月前に公開された大島渚監督の『青春残酷物語』(1960)とともに、松竹ヌーヴェル・ヴァーグの記念碑的作品と言われ、ラストはゴダールの『勝手にしやがれ』(1960)と酷似している。ピストルで撃たれ、津川雅彦がビル街を前につんのめるようにして走りながら倒れていく。吉田喜重も蓮實重彦との対談でこのラストの模倣を認めており、直接映画を見たことによるものではなく、第三者から『勝手にしやがれ』の結末に関する情報(男が撃たれて道で倒れて死ぬという流れ)を依拠に行ったものにすぎなかったそうだ。この作品のラストを『勝手にしやがれ』のそれに類似していると感じさせる決定的な理由は、「それを演じた津川雅彦君はゴダールの映画を見ていましたから、ジャン=ポール・ベルモンドと同じようによろめきながら歩いた」ところにあるかもしれないと、彼は示唆している。
また、川津祐介がランボーの詩集『地獄の季節』(「もう秋か。──それにしても、何故に、永遠の太陽を惜むのか、俺たちはきよらかな光の発見に心ざす身ではないのか、 ──季節の上に死滅する人々からは遠く離れて。」小林秀雄訳『別れ』所収)を朗読するのは、ゴダールの『気狂いピエロ』(1965)を先取りしている。登場人物が「太陽がいっぱい」を読んでいる場面もある。音楽の木下忠司のジャズの使い方もフランス・ヌーヴェル・ヴァーグの影響が感じられ、カッコいい。
大学生の秋山俊夫(川津祐介)は金持ちのお坊ちゃん。初夏のオフィス街で高級車を乗り回している。同乗している北島淳(津川雅彦)、森下(山下洵一郎)、藤枝(林洋介)もみな大学四年生だ。俊夫の父・秋山物産社長(三島雅夫)の秘書である銀行帰りの郁子(高千穂ひづる)の前に車を止める。そして車に無理やり乗せ、社長の金を奪う遊びをする。放蕩息子の俊夫(川津祐介)は、いつも高みの見物。金持ちの金にたかりつつ一緒に遊んでいる淳(津川雅彦)や森下(山下洵一郎)が実行役だ。淳は郁子に「ろくでなし」「最低」「バカ」と言われつつ、次第に二人は接近していく。無気力で退屈と虚無のかたまりのような淳を演じる津川雅彦がトーンを抑えた演技でいい。俊夫は虚無感を抱えつつも、いずれ実社会に出ていくまでのモラトリアムだと割り切っている。父の三島雅夫は、「人間、いかなる時代でも思い切ったことができるほど、自由じゃないんだよ」と息子が馬鹿なことはやれないと高をくくっている。俊夫は拳銃を手に入れるも、自分で使うことはしない。金を必要とする貧乏学生の森下が、本当に社長の金を奪おうと、最初と同じように銀行帰りの郁子を車に乗せ、脅しで持っていた拳銃を暴発させてしまう。同乗していた淳が、金の入った鞄を郁子に返そうとして揉めたからだ。撃たれた淳は、森下を車で轢こうとし、鞄を郁子に返すが、それは金なんか入っていない紙切れだった。空回りの死。そして自ら前のめりにビル街をよろけながら走り倒れてしまう。その後ろ姿を手持ちカメラで追いかける。淳に好意を寄せていた郁子が抱きかかえるも、郁子に「あれは遊びだよ」と言って果てる。
郁子(高千穂ひづる)は現代に腹を立てている女で、結婚して主婦になる気もなく、遊ぶでもなく、孤独な淳に関心を持つ。しかし、淳はそんな郁子との関係も煩わしいが、冷たく突き放すこともできない。郁子と同僚で、退屈から女の尻ばかりを追いかけている渡辺文雄も登場する。自由の名のもとに賢く金を稼ぎまくる社長の三島雅夫への反発は、高度資本主義社会への反発でもある。しかし、だからといって反抗して何かが変わるわけでもない。そんなどうにもならない虚無を抱えている若者たちを、それぞれの立場で描き分けていて面白い。拳銃に撃たれて倒れる演技を遊びのように繰り返していた津川雅彦、それはゴダールの『はなればなれ』(1964)でも繰り返されていた。「遊び」を反復すること、そんな風にしか生きられない空しさ。真剣になるものさえ見つけられない空虚感。なによりもテンポのいい台詞と、時代の空気を夏の暑さとともに描いた佳作である。
1960年製作/88分/日本
配給:松竹
監督・脚本:吉田喜重
製作:今泉周男
撮影:成島東一郎
美術:芳野尹孝
音楽:木下忠司
録音:吉田庄太郎
照明:田村晃雄
編集:浦岡敬一
キャスト:津川雅彦、川津祐介、高千穂ひづる、山下洵一郎、三島雅夫、渡辺文雄、安井昌二、千之赫子、林洋介、若葉慶子、榊ひろみ、土紀洋児、末永功、佐藤慶、ささきいさお
写真引用

1960 松竹株式会社
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