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2026年01月29日20:36

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「サード」東陽一〜ホームベースのないランナーは走り続けるだけ〜

東陽一監督が先頃91歳で亡くなられたことを偲んで、彼の代表作『サード』を見る。東陽一監督は岩波映画製作所出身でドキュメンタリーから出発している。初の劇映画『やさしいにっぽん人』(1971)は、『沖縄列島』というドキュメンタリーを撮った東陽一が沖縄出身の青年の心の傷を描いた作品だった。緑魔子の「やさしいにっぽん人」という歌を印象深く.思い出す。

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劇場映画第3作のこの『サード』は第52回キネマ旬報ベストワンほか高く評価され、私も公開当時、学生時代に見て強く印象に残っている。この映画を観た後に、当時よく一緒にいた女の子に、この映画のことを夢中で語ったことを覚えている。「自分の速さで走り続けるんだ」とこの映画の中に出てきた言葉を自分にも言い聞かせていたように思う。まだ、将来のことが何も見えない中でもがき続け、モヤモヤしていた学生時代だからこそ、どこか響くものがあったのだと思う。

あらためて見てみると、東陽一監督の特徴でもあるドキュメンタリータッチが効果的に生々しく若者たちの姿を捉えている。少年院で過ごす少年たちの地味な映画である。ドキュメンタリーのように少年院での点呼や食事、体操や作業場での生活、部屋での就寝までの様子が描かれる。回想場面で入る森下愛子が初々しい。永島敏行と森下愛子がセックスをまだしたことがなくて、学校の図書室で初めて試すのだが、森下愛子が痛がってうまくいかなかったり、部室でしたりするところが、当時に私には妙に生々しかったのだろう。東京郊外の地方都市の高校生の男女4人。新聞部の森下愛子とテニス部の志方亜紀子。野球部のサードだった永島敏行と��Bの吉田次昭。4人は田舎から出るには金が必要だということで、女の子たちが「私たちの体を売ろう」と簡単に言い出す。それで東京に出て、男たちが相手を探し、女子高生たちが売春するのだ。しかし、あるときヤクザの男(峰岸徹)に出会ってしまい、なかなか部屋から出てこない森下愛子の様子を見に行った永島敏行がその男を殺してしまうのだ。ヤクザの男に女の悦びを教えられた大人の洗礼。森下愛子の乳房に流れる汗が印象に残る。男たちは待っている間、空き地で野球の真似事をしている。私自身が高校野球をやっていたため、彼らに共感しやすかったのかもしれない。

原作は軒上泊の『九月の町』というものだが、脚本が寺山修司であり、その寺山修司の世界観がかなり映画に入っている。私は当時、結構、寺山修司に夢中だったのだ。彼の本もよく読んだし、短歌や映画、演劇も観に行った。音楽を担当している田中未知は、天井桟敷にもいたメンバーであり、カルメン・マキが歌った「時には母のない子のように」の作曲者でもある。この映画の音楽も淡々とした感じだが、すごくいい。

少年院には、少年院生活を短歌に歌う少年が出てくる。まさに寺山修司だ。自慰する少年たちの場面で、「ちり紙は 悲しからずや 若き日の 夢を包んで 捨てられるのみ」と歌ったり、「いらだちを 人に見せるはやすけれど われは黙って 短歌をつくる」と苛立ちを隠せない永島敏行を歌にする。そのほか、飛行機に憧れて紙飛行機を作り続ける少年も出てくる。

「九月の町」とは、サードが少年院に護送される途中で見かけた近くの町。その町は祭りで賑わっていた。少年院を出たらこの町、「九月の町」に来ようとサードは思う。祭りは、若者たちの肉体の躍動がある。そして少女の浴衣の裾から流れる赤い血と曼殊沙華の花のイメージが描写される。いつかこの町に来たら、何かが始まるようなイメージとしての町。故郷でも東京でもない場所。原作に描かれているものだろう。

「君には希望はあるのか」とある少年(若松武)が サード(永島敏行)に問い、「やりたいことはあるよ」と答えると、『私の希望は私には退屈だ』と誰かの文章を引用する。「こういうのもあったぜ」、『牢屋にいるとき私は、世界は限りなく美しいと思った』と言うと、「そのあとこう続くんだ・・・」『自由になるとまた倦怠を感じた』といったような少年同士のやり取りがある。結局その少年は脱走して、森に中で自殺してしまう。サードは、ホームベースのないグラウンドを走り続ける。「オレは走って行く。あいつとは逆の方向へ」「しかしオレもまたホームベースのないランナーだ。『九月の町』にそれがあるわけじゃない。ベースのないランナーは、ひたすら走り続けるだけだ。ホームベースのないランナーはただそこを走り抜けるだけだ。」と最後にモノローグが入る。走り続けるだけ。戻って来るべきホームベースなどない世界で。いかにも寺山修司的だ。当時、ホームベースも、走る行き先も見つけられなかった私には、「走り続けるだけ」というこの映画のメッセージが、とても強く心に響いたのだった。


1978年製作/103分/日本
原題または英題:A Boy Called Third Base
配給:ATG

監督:東陽一
脚本:寺山修司
原作:軒上泊
企画:葛井欣士郎
製作:前田勝弘
撮影:川上皓市
美術:綾部郁郎
音楽:田中未知
録音:久保田幸雄
照明:上村栄喜
編集:市原啓子
キャスト:永島敏行、森下愛子、吉田次昭、志方亜紀子、島倉千代子、内藤武敏、峰岸徹、片桐夕子、西塚肇、根本豊、池田史比古、佐藤俊介、鋤柄泰樹、水岡彰宏、若松武、飯塚真人、品川博
☆☆☆☆4
写真引用コピーライト 1978 幻燈社/東宝

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