mixiユーザー(id:3912568)

2026年01月21日16:39

58 view

「疑惑の影」アルフレッド・ヒッチコック〜ジワジワと疑惑を募らせていく心理サスペンスの見事さ〜

久しぶりにヒッチコック映画を見た。初期の見ていないヒッチコック映画があるので、この作品も見ていないような気がして見始めたら、見たことがある作品だった。しかもレビューも書いていた。それにしてもよく出来ている。ヒッチコックの心理的なサスペンス描写は、ジワジワと疑いと恐怖が高まってゆくところが実に上手い。

まずは疑惑の男である主役のジョセフ・コットンがベッドにスーツ姿のまま寝ていて、お金の札が床に何枚が無造作に落ちているところをカメラが写す。居留守を使って訪問客を帰らせたことを告げに来るアパートの管理人のおばさんが、お札を見つけて不用心だと注意する。最初にお金に無頓着な男であることを描きつつ、二人組の男たちに見張られていることで怪しい人物であることを観客に仄めかす。そして二人組の尾行をまいて、カリフォルニア州の田舎町サンタローザで暮らすニュートン一家のもとにチャーリー叔父さんとして行くことを姪のチャーリーに電報で送る。途中の列車の中では病気のフリをして個室で人と顔を合わせないようにし、病気のそぶりでホームに降り立ったかと思うと、迎えのチャーリー(テレサ・ライト)やニュートン一家の姿を見ると、途端に普通に歩き出す。不審な動作で引っかかりを作り、さらに部屋に案内されると、不吉な慣習だと注意されたのに帽子をベッドの上へと投げる。どこか不遜な態度もあり、銀行に大金を預けたりする。そしてニュートン一家の家族たちに豪華なプレゼントを次々と渡すのだが、姪のチャーリーに渡したエメラルドの指輪には、誰かのイニシャルが刻印されている。不審に思うチャーリーだが、同じ名前の叔父さんに特別な絆を感じていて、喜びでいっぱいだ。ここで彼女がプレゼントをもらうのを躊躇するところがまず暗示的だ。さらに新聞のある記事を見て、叔父が家族に見られないように破ってしまう動作で、疑惑の男は犯罪者だと観客はわかってくる。面白おかしく破った記事のことを姪のチャーリーが指摘すると、ジョセフ・コットンは途端に真剣になって記事を取り返す。

以心伝心、気持ちが通じ合う叔父に特別な感情を寄せていた姪のチャーリーが、次第に不審を深めていく心理サスペンスが映画の見どころだ。家族調査と称した男二人組がやってきて、勝手に写真を撮ったことに激怒するジョセフ・コットン。その一人の刑事(マクドナルド・ケリー)が姪のチャーリーに好意を寄せつつ、ジョセフ・コットンが金持ちの未亡人3人を殺した事件の容疑者の一人であることを明かす。信じられない姪のチャーリーは、夜に閉館間際の図書館で新聞記事を確かめに行く。道路の横断を急いで、交通整理の警官にチャーりーは注意される。ヒッチコック映画においては、些細な脇役でもちゃんとキャラクター設定をしており、効果的な役割を果たす。最初の管理人のおばさん、列車のポーター、交通整理の警官、チャーリーの友人たち、バーで働く友人、さらに本好きの眼鏡の妹と幼い弟、そしてニュートン一家の隣人の推理小説好きの男など、重要な場面で脇役たちが物語に関わっていく。犯罪映画では、常にいろんな人の監視の目がサスペンスを高めていくのだ。ヒッチコックはそういう脇役の使い方が上手い。

もう一人の容疑者が死んで事件の犯人とされたことで、疑いの晴れた叔父のチャーリーは喜びを隠せない。しかし、姪のチャーリーは彼が犯人だと確信している。そこから映画はさらに恐くなっていく。この街を離れると言っていたジョセフ・コットンは、警察の疑いが晴れたことでこの街に留まり、街の婦人会で講演をしたりして、町の名士気取りだ。しかし、チャーリーがいつも使う外階段が不自然に壊れていて転落しそうになったり、車庫に閉じ込められて一酸化炭素中毒で死にそうになったり、叔父のチャーリーが知りすぎた自分を殺そうとしているのがわかってくるのだ。ジョセフ・コットンが車庫の閉じ込めた後にレコードの音量を上げるところも恐い。助かったチャーリーは恋人の刑事に連絡しようとするも、なかなか捕まらない。ラストは街を去ることにしたジョセフ・コットンを駅に見送りに行った姪のチャーリーを、列車から降りれなくして突き落とそうとする。しかし、誤ってジョセフ・コットンが列車から落ちてしまい、街では彼の盛大な葬儀は行なわれる。姪のチャーリーが、人を信じられず憎んでばかりいた叔父のことを恋人の刑事に語り、映画は終わる。叔父は金に目がくらんで強盗殺人をしたのではなく、金持ちの未亡人の強欲ぶりと退廃した生活、汚い社会を憎んで事件を起こしたのだ。事件の真犯人が明らかにされるのではなく、そういう汚い世の中を憎むことしか出来なかった哀れな叔父のことを語って終わるのだ。

家の中の階段と外階段が効果的に使われる。階段の上から下の様子を伺う目線。刑事から逃れるように外階段から逃げる叔父。叔父に会わないように外階段を使う姪のチャーリー。事件の疑いが晴れて、階段の上から振り返って見下ろす叔父のジョセフ・コットンとその視線の先には、扉の前で立ち尽くす姪のチャーリーがいる。その俯瞰ショットの光と影が素晴らしい。また家の中の階段を指輪を嵌めて降りてくる姪を見て、彼女はすべてを知っていることを叔父が確信する場面。夜、家の前で「仲良くしようじゃないか」と殺人犯の叔父に話しかけられ、「早く出て行って」と告げる姪とのシルエットの2ショットもいい。あるいは、夜の図書館で指輪のイニシャルから真実を知ったときのクレーンアップしていく俯瞰ショット。また、刑事から何か言われたに違いないと、ジョセフ・コットンが姪のチャーリーをバーに連れ込んで座らせ、「君は世の中のことを何もわかっていない」と語りながら、紙ナプキンを首を絞めるようにねじる仕草に、彼の怖さを垣間見させる演出。バーで働くチャーリーの友人がエメラルドの指輪を見て、「これが手に入るなら死んだって構わない」という場面も、叔父の憎しみと同じように世の中の理不尽さ、裏側が垣間見える。大げさに人を殴ったり、殺したりする場面など見せなくても、心理的に怖さを演出できるサスペンスが作れることをヒッチコックは教えてくれる。


1942年製作/108分/アメリカ
原題または英題:Shadow of a Doubt

監督:アルフレッド・ヒッチコック
製作:ジャック・H・スカーボール
原作:ゴードン・マクドネル
撮影:ジョセフ・バレンタイン
音楽:ディミトリ・ティオムキン
美術:ジョン・B・グッドマン、ロバート・ボイル、A・ガウスマン、L・R・ロビンソン
キャスト:ジョセフ・コットン、テレサ・ライト、マクドナルド・ケリー、パトリシア・コリンジ
写真引用コピーライト ブレーントラスト
☆☆☆☆4
4 7

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2026年01月>
日 月 火 水 木 金 土
    123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031