これはもうタイトル通りの日本映画史に残る珍作である。阿鼻叫喚の地獄が描かれるグロテスクなホラー映画だ。監督は「怪談映画の名手」として知られる中川信夫。『東海四谷怪談』(1959)などの怪談映画が有名だが、監督・中川信夫の人生を描いたドキュメンタリーでは、「怪談・恐怖映画は、全97作品中8作品しかない」と語られており、作品一覧を見ても時代劇や人情ものなど多種多様な映画を撮っている。新東宝の大蔵貢製作の「エロ・グロ路線」で怪談・幽霊ものなどヘンな映画を拒まずになんでも撮った職人監督ということだろう。
前半は地獄ではなく、現代劇だ。天知茂という役者は、なんだか得体の知れない不気味で異様な役が多い。以前に見た『憲兵と幽霊』(1958)でも極悪非道な憲兵というダークヒーローを演じていた。これも中川信夫監督作品だった。仏教大学の教授(中村虎彦)の地獄に関する講義から始まる本作は、学生である清水四郎(天知茂)が教授の娘・幸子(三ツ矢歌子)と婚約するも、その帰り道、車を運転していた田村(沼田曜一)は酔っ払いのヤクザ者を轢き殺してしまう。同乗していた四郎が止めるも田村はそのまま走り去り、ひき逃げで男は死ぬ。婚約という幸福の絶頂から人殺しの罪を背負う地獄へと転落。そう、この映画は四郎の周りの人間が次々と死んでいく物語だ。そして常に死神のように四郎につきまとう田村は、疫病神であり、人の秘密を知っている悪魔だ。教授が戦争で仲間の水を奪って殺した過去も知っている。婚約者の幸子は交通事故で死亡し、教授の妻は狂って四郎を恨み、四郎は轢き殺したヤクザ者の恋人(小野彰子)とその母(津路清子)からも命を狙われる。母の病気の知らせを受けて田舎に帰った四郎。天上園という養老施設を経営している父(林寛)は、愛人(山下明子)と暮らしており、病気の母はほったらかし。隣には父の友人の画家(大友純)が地獄の絵を描いており、その娘が死んだ幸子ソックリで三ツ矢歌子が二役を演じている。その娘は、四郎の妹であることが後にわかるのだが、病気の母が亡くなり、愛欲と人間の業による罪と恨みや争いが乱れ狂う。誤診をした医師や罪もない人間を犯人にした刑事、誤った記事で人を追い詰めた記者など、人殺しの罪の背負ったものたちが集まってきて、最後は天上園の十周年記念の宴席で、酒を飲んで大騒ぎしながら、腐った魚を食べた施設の老人たちは次々と死に、登場人物たちも毒殺や転落事故、自殺などでみんな死んでいく。まさに地獄絵図だ。
この前半の現代版はとても良く出来ている。ピンクの傘をクルクルと回す着物姿の三ツ矢歌子。その傘はソックリな田舎娘も持ち、狂った母も持つ。四郎の命を狙う情婦は赤い下着と赤い傘だ。吊り橋から落ちていく赤い傘が印象的だ。田舎の天上園という看板と蒸気機関車、線路なども効果的に使っている。そしていつでも四郎のそばに突然現われる田村(沼田曜一)も不気味に描かれている。死神となって白粉まで塗って拳銃片手に出てきたときは笑ってしまったが。宴会場面で四郎に迫る女たちの欲望、酒宴の狂乱の演出も見どころだ。
後半は閻魔大王も登場しての壮絶な地獄描写。スタジオのセットを使って、禍々しい照明と血の海や炎や針の山で亡者たちがもがき苦しむ。悪魔たちが鉈を振りかざし、血飛沫が舞う。多くのエキストラを動員して、手や足だけを出させ、首を晒し、三途の川や賽の河原も出てくる。婚約者の幸子が身籠もっていた赤子の泣き声とその赤子を追いかける四郎。亡者たちの行列、横たわる無数の骸骨。ノコギリで肉は裂かれ、手首は切断され、皮を剥がれて内臓が剥き出しになるグロテスクな描写の連続。人々は喚き、叫び、自分が犯した罪に苦しめられ続ける。まぁ、もうこれは言葉では説明できない。見てもらうしかないだろう。そんな人間の業と欲にまみれた凄まじい奇妙な映画です。
1960年製作/100分/日本
配給:新東宝
監督:中川信夫
脚本:中川信夫、宮川一郎
企画:笠根壮介
製作:大蔵貢
撮影:森田守
美術:黒沢治安
音楽:渡辺宙明
録音:中井喜八郎
照明:石森浩
キャスト:天知茂、三ツ矢歌子、沼田曜一、中村虎彦、宮田文子、林寛、徳大寺君枝、山下明子、大友純、大谷友彦、宮浩一、新宮寺寛、泉田洋志、津路清子、小野彰子、石川冷、山川朔太郎
☆☆☆3
写真引用

国際放映
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