「『悲情城市』『戯夢人生』に続く、ホウ・シャオシエン監督が描く“台湾現代史”3部作の完結編」と言われているが、台湾の歴史に詳しくないと分かりにくい。ホウ・シャオシェン得意のワンシーン・ワンカットの長回しを多用している上に、物語が台湾の白色テロ時代の実在の人物たちを描く映画『好男好女』を撮影するためのリハーサルなどの歴史再現パートとそれを演じる女優の現代パートが並列して描かれ、説明もなく行ったり来たりしているのだ。
現代(1990年代)の女優、梁静リャンジン(伊能静)の元には毎日ファックスが送られてくる。それは梁静の盗まれた過去の日記の断片のようだ。無言電話にも悩まされている。最初に小津安二郎の『晩春』の原節子が自転車を軽快に走らせる場面の映像がビデオ画面で流れている。ホウ・シャオシェンの小津へのオマージュだろうが、なぜこの自転車の場面なのか。全体的に暗く重いものを抱えているこの映画の伊能静にあって、原節子の表情は異様に明るく溌剌としている。そのミスマッチがなんだか印象的だ。
女は一方、白色テロの物語を描く映画の撮影に参加し、蒋碧玉ジャン・ピーユを演じている。1940年、日本統治下の台湾から医療隊を組織して抗日戦に参加しようと中国大陸の広東省の恵陽へやって来た蒋碧玉や恋人の鍾浩東チェン・ハオトン(リン・チャン)、友人たち夫婦など5人。台湾語で話す彼らと中国の広東語の軍隊では、通訳を介さないと話が通じない。結局彼らは、日本のスパイとして捕らえられ銃殺刑されそうになるが、危うく難を逃れる。蒋碧玉の産まれた子供は中国で養子として引き取られ、1945年抗日戦は勝利で終わる。そして5年にわたる戦いを終えて一行は台湾に戻る。
歴史パートはモノクロで描かれ、現代パートはカラーで描かれる。梁静にはかつてチンピラの恋人のアウェイ(ガオ・ジェ)がいた。二人が絡み合う鏡のショットの長回しは艶めかしい。部屋でのミラーボールのダンスシーンや小便シーンの長回しなどもいい。しかし、アウェイが浮気したことから2人は言い争いになる。子供が出来たかもしれないと彼女が言うと、俺の子か?と喧嘩になる。このシーンも梁静がメイクする鏡のショットを使っている。その後、酒やヤクに溺れる梁静。アウェイはクラブである夜、チンピラたちのいざこざで射殺される。酒に溺れるようになった梁静は義兄(金介文)と飲み歩くようになるが、義兄の恋人から仲を疑われ、言い争う。バトミントンをして遊ぶ体育館のような空間が不思議な場所だ。激しい女同士のつかみ合いが演じられる。
台湾に戻った蒋碧玉はラジオ局に勤務し、夫の鍾浩東は中学校の校長になった。台湾はニ・ニ八事件を経て、中国国民党は戒厳令を敷き統制が強まっていった。そんななか国民党の支配に危機感を抱いた鍾浩東らは社会主義を理想に掲げ、「光明報」という機関紙を発行する。しかし「光明報」が国民党に摘発され、鍾浩東、蒋碧玉らは捕らえられ、尋問を受け、投獄される。鍾浩東は再教育のために移送され、蒋碧玉は証拠不十分で釈放される。その後に朝鮮戦争が勃発。台湾は世界の反共包囲網の前線となる。
梁静は、アウェイが死んで示談金を受け取った。その示談金もなくなり、いろんな男と寝たが、ちっとも楽しくない。かかってくる無言電話に、「アウェイ、早く帰ってきて。私、引っ越したから、ここがわからないのね」と、死んだアウェイへの思いを溢れさす場面はせつない。そして何度か歌われたアウェイが好きな歌を泣きながら歌うのだ。蒋碧玉は、鍾浩東が処刑されたという知らせを受け、鍾浩東からの手紙が語られ、泣き崩れる。演じる梁静と蒋碧玉の二つの人生は大切な人を失ったということで重なりあう。
撮影隊は映画「好男好女」の撮影に広州に出発して映画は終わる。撮影隊出発の前日、74歳の実在する蒋碧玉が亡くなったことをナレーションが告げる。蒋碧玉はもう見ることが出来ない私たちの映画「好男好女」。「この映画を、鍾浩東、蒋碧玉及び 50年代の政治的受難者たちに捧げる」という献辞が字幕で入る。
抗日戦争に参加するため台湾から中国に渡り、台湾でも国民党の戒厳令下の政治的弾圧(白色テロ)に抗し、「光明報」を発行して抵抗運動をした政治的信念のあった鍾浩東、蒋碧玉の人生と、女優の梁静とチンピラの恋人アウェイの人生をなぜ重ね合わせたのだろうか。愛するものを失った喪失感は普遍的なものであり、時代を超えて必死に生きている様を変わらぬものとして描いたのだろう。愛する男との子を宿した女と、宿せなかった女との対比もある。ワンシーン・ワンカットが物語をわかりにくくしているが、淡々とした描写と、描かないことで浮き上がるせつない思いというものもある。
1995年製作/108分/台湾・日本合作
原題または英題:好男好女 Good Men, Good Women
配給:松竹富士
監督:ホウ・シャオシェン
製作:水野勝博、市山尚三、シェ・ピンハン、キン・ジェウェン
製作総指揮:奥山和由、ヤン・タンクェイ
原作:ジャン・ピーユ、ラン・ボーチョウ
脚本:チュー・ティエンウェン
撮影:チェン・ホァイエン
美術:チェン・ホァイエン
音楽:ジャン・シャオウェン
キャスト:伊能静、リン・チャン、ガオ・ジェ、ウェイ・シャホェイ、ラン・ボーチョウ、ツァイ・チェンナン、ルー・リンチン、リー・ナンフォン、キン・ジェウェン
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写真引用

1995 松竹株式会社・FFEIII
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