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2025年12月09日17:43

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「不信のとき」今井正〜男を慕う女と男を利用する女の二重性〜

『若尾文子映画祭』より、有吉佐和子原作、今井正監督の『不信のとき』を劇場鑑賞。女優・若尾文子は、やはり増村保造監督か、川島雄三監督のものがいい。本作も有吉佐和子原作で、女の怖さに翻弄される男たちが戯画的に描かれていて面白い物語なのだが、川島雄三監督あたりのほうがもっと軽やかで洒落た作品になっていたような気がする。左翼系ヒューマニズム映画の名匠、実直な今井正監督にはちょっと似合わない題材だったのではないだろうか。

子供を産むという女性ならではのミステリー。セックスをするだけの男には理解し得ない女性の謎と肉体。新宿の風俗店や銀座のクラブなどで女遊びをしながら、自分勝手な男たちが女の怖さに翻弄されていく。

冒頭は、印刷会社の社長・三島雅夫と商事会社の宣伝部員の田宮二郎が、新宿のヌードスタジオに女の裸を見て楽しむシーンから始まる。小さな個室で服を脱ぐ女性たちに金を渡す三島雅夫の好色爺さんぶりは、いつも通りにハマリ役。川島雄三の『雁の寺』(1962)でも三島雅夫は若尾文子と共演し、好色爺さんを演じていた。三島雅夫は、店に出るようになったばかりの素人同然の蓮っ葉な若い女(加賀まりこ)に夢中になって、一緒に暮らそうとマンションを与えて口説き落とす。そんな裸の女たちには興味を示さなかった田宮二郎だったが、銀座のクラブのホステスの若尾文子には興味津々。若尾文子に誘われるがままに、彼女のアパートへ。そしていい仲になった田宮二郎は若尾文子から「あなたの子供が欲しい」と言い出されるのだ。田宮二郎の妻は、岡田茉莉子。いいところのお嬢さんで書道家。二人の間には子供が出来なかった。病院で調べたこともあったらしいが、妻の側に問題があったと田宮二郎は聞いていた。

すぐに若尾文子に子供が出来て、地元の静岡で出産。妻の目を盗んで生まれた女の子に会いに行って喜ぶ田宮二郎。静岡から帰ってくると、今度は岡田茉莉子にも子供が出来たと聞かされる。出来ないと聞かされていたはずなのに・・・。やがて岡田茉莉子も出産。男の子を産む。妻と愛人、それぞれに子供が生まれ、会社でも部長に出世。順風満帆な生活を送っていた田宮二郎だったが、深夜に愛人宅、若尾文子の部屋で急性盲腸で苦しみ出す。急いで若尾文子が服を着させて、家にタクシーで送り届けたあと、岡田茉莉子が救急車を呼んで入院。病気も一段落した頃に、若尾文子と岡田茉莉子が病室で鉢合わせ。愛人と子供の存在が、妻の知られるところとなる。

若尾文子の部屋で女同士の対決。妻の岡田茉莉子は、若尾文子の娘は、「夫の子供ではない」と断言。若尾文子は、田宮二郎のことを「もう愛していない」と宣言し、「妻にして欲しいとも思わないし、静岡で店を出すお金を出してくれればそれでいい」と言い放つ。家に帰った田宮二郎は、愛人と子供のことを妻に詫び、妻・岡田茉莉子から衝撃の事実を聞かされる。妻との間に出来た子供は、人工授精によるものだと言うのだ。前に病院で診てもらったとき、本当の原因は夫にあり、「あなたは無精子症なの」と告げられる。だから、愛人との間に生まれた女の子もあなたの子供ではないはずだと言うのだ。若尾文子に田宮二郎は、「娘は本当に俺の子供か?」と詰問し、「妻との子供は人工授精によるものだ」と言うと、若尾文子は「そんな卑劣なことを言う男だと思わなかった」とブチ切れられる。そして愛人と子供を作ったことを会社に暴露され、窮地に陥る田宮二郎。印刷会社の会長となった三島雅夫も、加賀まりことの間に女の子が生まれていたのだが、加賀まりこは子供を置いて突然失踪。好き勝手に女遊びをしていたツケが男たちに回ってきたのだ。冷え切った夫婦関係になった田宮二郎と岡田茉莉子。そんなとき、田宮二郎はかつて子供が出来て別れた人妻・岸田今日子とデパートで再会する。そして岸田今日子から、「この男の子の本当の父親はあなただ」と言われるのだ。なにが真実だか分からない田宮二郎は苦笑いして映画は終わる。

若尾文子、岡田茉莉子、そしてかつての愛人・岸田今日子。3人のそれぞれの女に子供が生まれた。女たちの嘘と真実。しかも妻は他人の男の精子で夫の知らぬ間に人工授精で子供を産んだ。かつて夫から「子供さえ産めれば完璧なのになぁ」と呟かれたことが理由らしい。若尾文子との子供も、岸田今日子との子供も、本当のところはわからないままだ。精子をばらまくだけの無責任な男の身勝手さが有吉佐和子によって見事に断罪されている。辛辣なコメディでさえあるのだが、わりと生真面目に男女の滑稽な姿が描かれている。女の嘘を男は見抜けない。好き勝手に遊んでいたと思う男は、女たちの企みによって操られていたのだ。好きな男を慕う女の姿と、腹の底で何を考えているのか分からない女の怖さの二重性を演じている若尾文子の魅力は伝わってくる。岡田茉莉子もしたたかな色気を振りまいている。

なお、この作品で田宮二郎は映画界追放になった。宣伝ポスター(原案)において、主役の田宮の名が4番手扱いになっていたことに抗議し、大映の永田雅一と揉めたのだ。結果的に刷り直したポスターの序列は希望通り田宮がトップとなったが、永田雅一は契約を残したまま、田宮を解雇した。さらに五社協定を持ち出し、他社の映画にもテレビドラマにも田宮を使わないように通達した。このため田宮は大きな転換期を迎えることとなり、一部マスメディアではこの大映解雇が「田宮の人生の歯車が狂い始めたきっかけ」とも言われている。(ウェキペディア・田宮二郎の項より引用)


1968年製作/119分/日本
原題または英題:The Time of Reckoning
配給:大映

監督:今井正
脚色:井手俊郎
原作:有吉佐和子
企画:三輪孝仁、本田延三郎
製作:永田雅一
撮影:小林節雄
美術:渡辺竹三郎
音楽:富田勲
録音:高橋温生
照明:渡辺長治
編集:鈴木東陽
キャスト:田宮二郎、岡田茉莉子、若尾文子、加賀まりこ、三島雅夫、岸田今日子、中野ひろみ、松村ゆりか、永井智雄、秋月竜、篠田三郎、菅井きん
☆☆☆3
写真引用コピーライトKADOKAWA1968
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