マックス・オフュルス監督の1948年のアメリカ映画。マックス・オフュルスはドイツ出身で、後にフランス国籍を取得、アメリカでも活躍した女性映画の巨匠と言われている。ドイツで映画を制作していたが、ナチス台頭とともにドイツからフランスに亡命。フランスで映画を何本か製作し、第二次世界大戦中の1941年に渡米。ハリウッドでこの『忘れじの面影』(1948)や『魅せられて』(1949)など5本の作品を製作。1950年にフランスへ帰国し、『輪舞』(1950)、『快楽』(1952)、『たそがれの女心』(1953)、唯一のカラー作品『歴史は女で作られる』(1955)を製作。製作中だったモディリアーニの伝記映画『モンパルナスの灯』(1958)はジャック・ベッケルによって完成された。1957年54歳で死去。ジャック・ドゥミはデビュー作の『ローラ』(1961)をオフュルスに捧げている。
シュテファン・ツヴァイクの1922年の中編小説『未知の女の手紙』の映画化。究極の純愛メロドラマだ。可愛らしい10代の少女から30代までを演じきったヒロインのジョーン・フォンティーン。生涯を通じて一途に一人の男を思い続けた女の愛の悲劇である。1900年頃のウィーン。翌朝に決闘が行なわれることになっている一人の男が雨の中、馬車から降りてくる。ステファン(ルイ・ジュールダン)は、男の名誉のために決闘するなんてくだらないと、夜中に逃げるつもりでいた。そんなステファンのもとに一通の女性からの手紙が届けられる。そこにはステファンを思い続けたリザ(ジョーン・フォンテイン)の生涯が綴られていた。手紙を読みながら、リザの視点でステファンとの出会いからの物語が回想される。そして、この手紙が届いたとき、リザはすでに死んでしまっているというのだ。「手紙が届けば私が誰だったか思い出せるでしょう」と女からの手紙は始まっていく。
「人間には誕生日が二つあります。生まれた日と人生が動き始めた日」とリザが語る「動き始めた日」とは、ステファンが隣に越してきたときだ。新進のピアニストだったステファンのピアノの演奏を隣で聴きながら、10代のリザはステファンへの思いを一方的に募らせていく。ほとんど会話もしないのに、ピアノの演奏が自分のために弾いているのだと妄想しながら。いわゆる少女の憧れなのだが、ステファンは何も知らずにピアノの演奏と女遊びに夢中のようだ。リザは母の再婚とともにウィーンを離れてリンツに移り住み、中尉から結婚を申し込まれるが、ステファンを忘れられずにキッパリと断わり、ウィーンに戻って来て一人暮らしを始める。18歳になったリザは、ピアニストとして成功したステファンと念願の再会するのだが、ステファンはもちろんリザのことを覚えていない。美しい女性に目がないステファンは、その夜の予定をキャンセルしてリザとデートをする。冬の遊園地で世界各地を旅する列車に乗り、貸し切りのホールで二人きりのダンス、そして思い出の部屋で一夜を過ごすのだ。ステファンはミラノへ演奏旅行に行くことになり、「2週間」だけだと言いながら、もうリザの元には戻ってこなかった。その後、一人で子供を産み、ステファンと名付け、裕福な貴族と再婚したリザだったが、夫とオペラを観に行った時、ピアニストとして落ちぶれていたステファンと出会う。ステファンは、リザのことをハッキリと覚えていないながらも、どこかで会った女性だと声をかけてくる。自分の人生がステファンとともにあるリザは、せっかく掴んだ再婚と子供との生活を捨て、ステファンの元へと行く。愛する子供と「2週間」だけと言って列車で別れを告げる。「2週間」という列車での別れのシーンが反復される。「2週間」は「二度と会えなくなる不吉な期間」なのだった。その列車ではチフスの病気が発生し、息子も感染して死んでしまう。すべてを捨ててステファンに会いに行ったリザだったが、ステファンはリザのことを思い出せなかった。多くの出会った女のうちの一人としてしか思い出せないのだ。そしてリザもまたチフスに感染し、病院からステファンに最後の手紙を書いたのだ。
美しいクラシックの音楽と流麗なカメラワーク。何度も出てくるステファンの家の入り口と階段のセット。天才音楽家でありながら、女たちにちやほやされて、幸せの女神を見失ってしまったろくでもない男の人生のデカダンスが描かれる。少女時代から男を一心に思い続けるジョーン・フォンテインがせつなく美しい。ステファンに生涯仕えた言葉を発しない唖の召使ジョン(アート・スミス)だけが、隣に住んでいたリザのことを覚えていたという演出も上手い。見事なメロドラマである。
1948年製作/86分/アメリカ
原題または英題:Letter from An Unknown Woman
配給:東宝
監督:マックス・オフュルス
脚本:ハワード・コッホ
原作:シュテファン・ツバイク
製作:ジョン・ハウスマン
撮影:フランク・プラナー
美術:アレクサンダー・ゴリッツェン
音楽:ダニエル・アンフィシアトロフ
録音:レスリー・I・カレー
編集:テッド・J・ケント
キャスト:ジョーン・フォンテイン、ルイ・ジュールダン、マディ・クリスチャンズ、マルセル・ジュルネ、アート・スミス、キャロル・ヨーク、アースキン・サンフォード、オットー・ウォールヂス
写真引用

文輝堂
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