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2025年11月28日15:10

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「ゴダールの探偵」ジャン=リュック・ゴダール〜裏返しの世界で演じられる虚構〜

難解な映画といえば、やはりゴダールだろう。初期の60年代のアンナ・カリーナ時代のゴダール映画は大好きだ。『はなればなれに』(1964)をはじめとして、歌あり踊りあり、アクション=動きがあって、テンポがあって、オシャレでキュートで軽やかで、映画を作る喜びに満ちている気がする。それが1968年に「ジガ・ヴェルトフ集団」を結成し、政治の季節を経て、1979年『勝手に逃げろ/人生』で商業映画に復帰して以来、ゴダールの映画はなかなか取っつきづらく、映像的な魅力もあるのだが手強い映画になっている。そんな作品群の中で未見だった『ゴダールの探偵』を見た。若いジュリー・デルピーもこの映画がデビュー作だと知って。ルイス・ブニュエルにしても、アラン・レネもロブ・グリエも難解といわれてきた映画たちも、歳を重ね多くの映画を見てきただけに、分からないなりに楽しめるようになってきた。だから未見のゴダール映画も見ていこうと思うのだが、この映画はまったく破綻しているし、物語の体裁さえ成していない。中断され、解体され、バラバラにつなぎ合わされ、事件の謎も解決したのかさえよく分からない。まったく理解できないし、正直あまり面白いとも思えなかった。

「探偵」とタイトルにあるように、フィルム・ノワール的な映画へのオマージュを込めた犯罪と逃亡と探偵による追跡の映画だろうと思ったのだが、形ばかりの探偵や刑事は出てくるのだが、事件の謎ははぐらかされ、人々はピストルで次々と撃たれるのだが、なにがなんだかよく分からないまま映画は終わる。監視の映画ではある。コンコルド・ホテルのベランダにカメラを据えてなにやら監視している探偵たち。ベランダに設置しているビデオカメラと女性の脚と風に揺れるスカートの裾がなんとも美しく艶めかしい。2年前にこのホテルの部屋で起きた王子?殺人事件の謎を解決しようと、刑事イジドール(ジャン=ピエール・レオ)とその恋人アリエル(オーレル・ドアザン)、さらにイジドールの叔父の探偵ウィリアム(ローラン・テルズィエフ)とアンヌ(アンヌ・ジゼル・グラス)が部屋にいて、入れ替わり立ち替わりしながら外を撮影し続けているのだ。「クルマと女と拳銃があれば、一本の映画ができる」とうそぶいたと言われるゴダールだが、この映画はホテル内で完結しているため、「クルマ」さえ出てこない。部屋の中を人物が出入りしたり、意味もなく服を脱いだり着たりが反復され、人と人がぶつかったり、三角関係の男と女が接近して離れたり、行ったり来たり、右往左往したり、レストランでの食事やビリヤードをしたりするのだが、スリリングな動きや躍動感は全くない。女と拳銃、そして監視し合う4組の人間たちの群像劇である。

刑事イジドールや探偵ウィリアムのほかに、ホテルの部屋にはパイロットのエミール(クロード・ブラッスール)とその妻フランソワズ(ナタリー・バイ)がいて、フランソワズがかつて付き合っていたボクシングの興行師であるジム(ジョニー・アリディ)とボクサーのタイガー(ステファン・フェラーラ)や女たちがいる部屋がある。ジムはエミール夫婦に金を借りており、さらに巨額の借金に苦しんでいた。やむなくイカサマ試合を仕組もうとしていて、その他にも4000万という巨額を不正も絡んでいてマフィアに狙われている。マフィアのボス(アラン・キュニー)はそんなジムを監視していて、女の子もつれてホテルでファミリーでやってきている。そんな4組の人間たちの描写が次から次へと展開され、ゴダールお得意の本の引用・朗読が何度も行なわれ、クラシック音楽は突然挿入され、盛り上がったかと思うと突然中断される。音楽は心理描写とまったくシンクロしていない。そして物語は一向に進まず停滞し、横滑りしていく。

唯一物語らしい物語と言えば、フランソワズ(ナタリー・パイ)と夫のパイロット・エミール(クロード・ブラッスール)夫婦、そしてジム(ジョニー・アリディ)の三角関係が描かれたりはしている。キャンドルグラスに触れるフランソワズの手にエミールが手を触れ、その手をかわし、今度はジムの手にフランソワーズが手を触れる。そんなレストランのシーンがある。金をめぐる人間たちのトラブルであり、拳銃で脅し、イジドール(ジャン=ピエール・レオ)はボーイになったり、ホテルの裏側などあらゆるところに登場し、監視し続ける。

フランソワズにはもう一つの名前がある。ジュヌヴィエーヴという名前。二つの名前。「表と裏」というのが映画のキーワードになっている。「ポルノ映画はなぜ"X"と?」「鏡に映しても読める字だからよ。」「"O"も裏返しても同じだわ。」というやり取りがあったり、「私が裏返しで、あなたが表向き?」、「うわべだけ。裏が表になったみたい。」なんていう台詞もある。そして二年前の王子殺人事件は、どうやら殺し屋が受付の顧客表を反対側から見て、部屋番号の999号の客の代わりに、666号の客が殺されたらしいことが判明する。まさに見間違えの表と裏。なんという馬鹿らしいオチ。

「みんな演劇でしかないんです。演劇は演じるもの。映画は演じられるもの。勝ち負けは、すでに演じられている。」演じられている虚構の世界である映画で、最後にみんなピストルを手にしだす。撃たれた発砲音と撃たれたアクション。次々と倒れていく男たち。
死は虚構として演じられるほかない。「この惨めな国では言葉が王だ。真の王子は注釈で、彼が一人でその真のまなざしで事を動かしている。」「愛は永遠?あの金はどうした?」「言うより死ぬ方がまし。」「死人はうんざり。」という刑事イジドール(ジャン=ピエール・レオ)とそのアリエル(オーレル・ドアザン)のやりとりで映画は終わる。

結局、何が何だか分からない映画であり、ビリヤードの球のように人々が近づいて、ぶつかり合い、離れていく。愛が演じられ、金をめぐってピストルでの殺し合いが演じられ、イジドールは誤って叔父を撃ち殺してしまう。叔父の探偵は死の間際で本を読んでくれと言うのだ。本や言葉がゴダールはどれだけ好きなのかと思う。


1985年製作/98分/フランス
原題または英題:Detective
配給:マーメイドフィルム、コピアポア・フィルム
劇場公開日:2023年4月29日

監督:ジャン=リュック・ゴダール
製作:アラン・サルド
脚本:アラン・サルド フィリップ・セトボン、ジャン=リュック・ゴダール、アンヌ=マリー・ミエビル
撮影:ブルーノ・ニュイッテン、ピエール・ノビオン、ルイ・ビイ
キャスト:ジャン=ピエール・レオ、ジョニー・アリディ、ナタリー・バイ、クロード・ブラッスール、アラン・キュニー、ローラン・テルジェフ、オーレユ・ドアザン、エマニュエル・セニエ、ジュリー・デルピー、ステファヌ・フェラーラ、アンヌ・ジゼル・グラス
☆☆☆3
写真引用 THE DETECTIVE (C)1985-STUDIOCANAL IMAGE
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