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2025年10月23日17:45

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「フィラデルフィア物語」ジョージ・キューカー〜結婚前夜のドタバタ・コメディ〜

『若草物語』(1933)、『ガス燈』(1944)、『マイ・フェア・レディ』(1964)など俳優の演出に長けていたと言われる名匠ジョージ・キューカーの1940年のロマンチック・コメディである。キャサリン・ヘプバーンやジェームズ・ステュアート、イングリッド・バーグマン、ジュディ・ガーランド、オードリー・ヘプバーンなど数々の俳優たちを演出して評価された監督である。

本作は、結婚前夜に婚約が解消される映画であり、どう展開していくのか分からない恋の複雑な人間模様はスクリューボール・コメディと言えるかもしれない。『或る夜の出来事』(1934)も『赤ちゃん教育』(1938)も婚約が決まっているカップルが、別の男女と出会って邪魔が入り婚約は解消され、別のカップルが出来上がる話だし、『ヒズ・ガール・フライデー』(1939)も婚約が解消され、元夫との仲が復活する物語で、その意味ではこの『フィラデルフィア物語』と同じ構造だ。この映画は、婚約者がいるにも拘わらず、結婚式当日のまさに式の直前まで、誰と誰が結婚するのか分からないというスリリングで複雑な男女関係の物語だ。蓮實重彦氏は、スクリューボール・コメディはハリウッドの「ヘイズ・コード」との闘争から生まれたものだと指摘している。夫婦が寝室をともにすることすら描けなかったハリウッドの「ヘイズ・コード」から、ベッドを必要としない恋愛劇が生まれ、直接的な愛を描けない不自由さから、そこに至るまでの過程をおもしろ可笑しく描く工夫が生まれた。

「コードの支配の力学に最も忠実な振る舞いを演じることがコードの禁止作用を崩壊させ、最もコードから自由な振る舞いを創造するという政治性の実践が「ロマンティック・コメディー」によって最高度の達成を示している歴史的な現実に、人はもっと真剣に驚かねばならない」
(『ショットとは何か 歴史編』蓮實重彦 「スクリューボールまたは禁止と奨励」より)


映画は、ケイリー・グラントとキャサリン・ヘプバーンの玄関先での夫婦喧嘩のシーンから始まる。そして2年後、フィラデルフィアの大富豪ロード家の長女トレイシー(キャサリン・ヘプバーン)は、貧困から身を起こして出世したジョージ・キットリッジ(ジョン・ハワード)と結婚する。トレイシーは、「自分にとても厳しい分、誰もそれについていけない」女王さまだった。元夫のデクスター(ケイリー・グラント)は、彼女が求める完全さについていけず、酒浸りに日々となり、それが離婚の原因となったが、彼女への愛は変わらずにある。その上流階級の結婚式を雑誌記事にしようと、小説家で記者のマコーレイ・コナー(ジェームズ・スチュワート)とその恋人で写真班のエリザベス・イムブリー(ルース・ハッセイ)が結婚前夜の屋敷に潜入する。デクスターはトレイシーの間違った結婚を止めようと、トレイシーの父のダンサーとのゴシップ記事を差し止める条件で、記者たちの宿泊を許可してもらう。そしてトレイシーは酒に酔った前夜のパーティーで、コナーといい感じになってプールで泳ぎ、2度ほどキスをしてしまうのだ。婚約者のジョージ、そして元夫のデクスター、さらに新たな相手のコナーという3人の男たちが、トレイシーをめぐって複雑な関係になっていく。コナーにはイムブリーという恋人もいるのだ。

婚約者がいるにも関わらず結婚前夜のパーティーで別の男に恋をするなど不謹慎でいい加減な女性にも見えるが、それがちっともそうは見えないところがキャサリン・ヘプバーンの魅力であり、高慢で女王気取りだと自分の欠点を指摘されて、落ち込みながら変化を見せていくキャラクターの面白さだ。シャンパンに酔って前夜のことをほとんど覚えていなかったのが、妹や周りの人々に指摘されて思い出して混乱していくところも面白い。婚約者に前夜の自分のしたことで別れを告げ、結婚式のオルガンの演奏が始まり、待っている招待客たちを前にして、さぁ、どうする?というところで、元夫のデクスターが、「もう一度、2年前の結婚式の続きをします」とトレイシーに伝言して助け船を出しつつ、再びプロポーズをする演出がニクい。「本気なの?」と驚くトレイシーと「本気さ」と返すデクスター。かつて新婚旅行で乗った二人乗りのヨットを思い出しながら、二人はやり直すことを決める。なんともメチャクチャな展開なのだが、ロマンチック・コメディとして楽しめる。人はどこまでもいい加減で、フラフラと気持ちは揺れるし、混乱する。変わらぬ永遠の愛など幻想に過ぎないかのように、ジタバタするし、恋に迷う。結婚直前のそんな迷走ぶりがコメディとして楽しめるのは、人間の描かれ方に、どこか大らかな寛容さが感じられる。元々は舞台で演じられていたもので、その作劇の面白さは今見ても変わらない。数日間の物語のなかで、人間関係が同時進行で複雑に入り組むほど、見ている方はその展開に目が離せなくなる。


1940年製作/アメリカ
原題または英題:The Philadelphia Story

監督:ジョージ・キューカー
脚本:ドナルド・オグデン・スチュワート
原作戯曲:フィリップ・バリー
製作:ジョセフ・L・マンキウィッツ
撮影:ジョセフ・ルッテンバーグ
作曲:フランツ・ワックスマン
キャスト:ケイリー・グラント、キャサリン・ヘプバーン、ジェームズ・スチュワート、ルース・ハッセイ、ジョン・ハワード、ローランド・ヤング、ジョン・ハリデイ、メアリー・ナッシュ、バージニア・ウェイドラー、ヘンリー・ダニエル、ライオネル・ペープ、レックス・エヴァンス
写真引用コピーライト ブレーントラスト
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