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2025年07月31日16:21

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「ラブホテル」相米慎二〜階段、自転車、歌、雨〜

久しぶりに見た相米慎二の日活ロマンポルノ映画。脚本は石井隆である。劇画漫画家・映画監督の石井隆は村木哲郎という男と土屋名美という女を執拗に描き続けた。この作品も『天使のはらわた』シリーズの1本ということになる。『天使のはらわた 赤い眩暈』『死んでもいい(1992)』『ヌードの夜』『天使のはらわた 赤い閃光』『夜がまた来る』など独自の石井ワールドを石井隆自ら監督した作品も多いが、本作は脚本だけで、相米慎二が監督した。ちなみに『ヌードの夜 愛は惜しみなく奪う』(2010)は『ヌードの夜』の17年ぶりの続編のレビューだ。石井隆の世界は言ってしまえばエロスとタナトスの世界である。世界からはじき出され、取り残されたような男と女の性的描写には、つねに死の気配が満ちている。

さて、相米慎二監督の本作もまた死の気配から始まる。借金の取り立てヤクザに妻(志水季里子)が犯され、人生に行き詰まって自殺しようとしている男・村木哲朗(寺田農)が死ぬ前にラブホテルで女を道連れにしてやろうとホテトル嬢・名美(速水典子)を呼んだ。村木は名美の性的姿態を見ているうちに死ぬ気が失せてしまった。そして二年後、タクシー運転手として働いていた村木は名美を見かけ、客として横浜の夜の海ヘと乗せた。岸壁で靴を脱いで海に入っていこうとする名美を村木は止める。あなたは二年前に自分の命を救ってくれた天使だと村木は名美に言うのだ。

事務所で妻が犯される場面を鏡の反射で見せ、空っぽになった事務所で村木が窓から飛び降りようとする場面を、天井に止まるハエからズームアウトして長回しワンカットで見せてしまうのも相米らしい演出だ。石井隆得意の降りしきる雨、ハエが自殺の邪魔をするのを音で表現し、カメラは窓から覗き込み雨が降りしきる歩道を見下ろす。雨、海のイメージを通じて「死」と接近する。

さらに相米慎二が大好きな自転車と階段が印象的に使われる。村木の安アパートの前には長い階段があり、村木は早朝に会社から自転車で帰り、別れた妻と公園で待ち合わせをして、妻とその長い階段を自転車を押しながら降りてくる。その階段は、名美が村木のアパートに来たときも印象的に描かれ、最後に名美と妻が階段ですれ違う場面で映画は終わる。名美は階段を昇り、降りてくる妻とすれ違ってから振り返り、二人は視線を交差させるのだ。そして子どもたちが出てきて、桜吹雪が舞うという相米監督らしいラストシーンになっている。愛が交錯する階段。

相米慎二映画には欠かせない「歌」も随所に出てくる。妻が口ずさむ童謡の「赤い靴」が最初と最後で使われ、名美が夜の海へと行くタクシーのラジオから流れる山口百恵の「夜へ」が劇伴のように名美のテーマとして見事にハマっている。村木は後にそのレコードを名美にプレゼントし、名美は会社社長との不倫が妻にバレて、そのレコードをかけながら恨みの電話をかける。そして、もんた&ブラザーズ「赤いアンブレラ」も二人のデートシーンに出てくる。相米慎二は歌謡曲が大好きなのだ。

名美が夜に村木のアパートを訪ねてきたときの列車が通り過ぎる光と音、降りしきる雨、アパートの部屋の前に座り込む名美の姿は、まさに石井隆の劇画漫画のワンシーンのようだ。石井隆の劇画世界と相米慎二のカメラの長回しにより人物をじっくりと見つめていく演出が上手くハマった映画と言えるだろう。


1985年製作/88分/日本
配給:にっかつ

監督:相米慎二
脚本:石井隆
企画:成田尚哉、進藤貴美男
プロデューサー:海野義幸
撮影:篠田昇
美術:寒竹恒雄
録音:八木隆幸
照明:熊谷秀夫
編集:冨田功
選曲:林大輔
助監督:榎戸耕史
キャスト:速水典子、寺田農、志水季里子、益富信孝、中川梨絵、尾美としのり、木之元亮、伊武雅刀、佐藤浩市
写真引用コピーライト日活
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