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2025年06月04日21:06

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「ノーバディーズ・ヒーロー」アラン・ギロディ〜中断される愛欲と集ってくる多様な人たち〜

アラン・ギロティ監督作の3作目、と言ってもそれは私が見た順番であり、『湖の見知らぬ男』(2013)、『ノーバディーズ・ヒーロー』(2022)、『ミゼリコルディア』(2024)が製作した順だ。『湖の見知らぬ男』がセックスをしまくった後での愛と欲望と罪に引き裂かれる男たちの物語だった。『ミゼリコルディア』はセックスをしないで愛と罪と欲望が錯綜する映画だった。それに比べ、この『ノーバディーズ・ヒーロー』はセックスがいつも途中で中断される愛欲がままならないコメディと言えるだろう。そこにホームレスのアラブ系青年が絡んでくる。「娼婦への愛に悶絶する男と街で起きたテロ事件を描いた社会派コメディ」だ。

独身男性メデリック(ジャン=シャルル・クリシェ)は決してカッコいい男ではない。どこか冴えない中年男といった感じだ。電子タバコを手放せない。メデリックがランニング中に見かけた売春婦イザドラ(ノエミ・ルボフスキー)にひと目ぼれし口説こうとするが、彼女の嫉妬深い夫(ルノー・ルッタン)に邪魔されてなかなかうまくいかない。メデリックは「売春に反対だから、タダで君を抱きたい」と言う。なんだかヘンな主張だが、メデリックはイザドラに電話番号を渡し、後日連絡が来てホテルで落ち合う。このイザドラという売春婦もちょっと太めの年上の中年女性で、決して誰もが夢中になる女性というわけでもない。しかも電話番号をいきなり渡してきたヘンな男を気に入ったようなのだ。

イザドラのホテルの外にも聞こえるような大きな喘ぎ声が凄いのだが、そのセックスの途中でクレルモン=フェラン市の中心部で自爆テロ事件が起きる。そのニュースを見て、「こんなことしてられない。帰らなきゃ」と言うイザドラ。なんとかイキたいとメデリックが夢中になっているところに、夫が部屋に入ってきてセックスは中断され、「金を返してやれ」と夫に言われ、払ってもいない金を受け取る。そしてイザドラは夫と共に部屋から出て行く。テロ現場を通りながら自宅のアパートに帰るメデリックだが、アラブ系の青年セリム(イリエス・カドリ)に声をかけられ、食事をする金をせびられて渡す。セリムはまたアパートに現れ、雨宿りでアパートの中に入れてくれと言う。メデリックは服を貸すが、警察に通報してセリムがテロと関わっていないか調べてもらう。後日、証拠もなく釈放されたセリムはアパートに毎日のようにやって来て、セデリックは部屋に上げて泊めたりもする。映画は、このセリムとアラブ系の若者たちとのいざこざ、メデリックとイザドラに嫉妬深い夫が絡んだゴタゴタが複雑に絡まり合っていく。メデリックの仕事のパートナーである背の高い女性フロランス(ドリア・ティリエ)からもメデリックはセックスを迫られるのだが、部屋にあげることさえしない。さらにアパルトマンの住人たちのアラブ青年たちとの過激な銃撃戦まであり、いろいろとメチャクチャなことが起きる。

メデリックはイザドラと、大聖堂の教会の中で、イザドラの家で、メデリックのアパルトマンの部屋など様々な場所で、セックスを試みるのだが、その度に彼女の夫や警察、近隣住民などにより妨げられ、一度として成就できない。結局最後は、メデリックが夫の暴力からイザドラを救うつもりで拳銃を携えてやって来るも、イザドラは夫の元に戻っていく。一方、メデリックにはあまり興味のない人物たちが続々とメデリックのもとに集ってくる。メデリックのことをゲイとして好きなセリム、そのセリムを好きなアラブ系少女、さらにフロランス、アパルトマンの偏屈な老人たち。愛欲は思い通りにならないのに、いつのまにかまわりの人々に愛されてしまう男のコメディだ。

アラブ系青年の自爆テロという今日の社会的な題材を取り入れつつ、愛欲がままならないコメディとして描いている。何が正しくて、何が罪なのかもよく分からない。それぞれの価値観と好みや欲望。「セックスしなくても一緒にいるだけでいい」。アラブ系青年との距離感もそれぞれ違っていて、メデリックがヒーロー的な振る舞いをするわけでもない。美男美女の俳優ではないクセのある登場人物たちが生き生きと描かれているのが魅力的だ。


2022年製作/100分/フランス・ベルギー合作
原題または英題:Viens je t'emmene
配給:サニーフィルム

監督:アラン・ギロディ
製作:シャルル・ジリベール
脚本:アラン・ギロディ、ローラン・ルネッタ
撮影:エレーヌ・ルバール
美術:エマニュエル・デュプレ
衣装:カディア・ゼガイ
編集:ジャン=クリストフ・イム
音楽:グザビエ・ボシュロン
キャスト:ジャン=シャルル・クリシェ、ノエミ・ルボフスキー、イリエス・カドリ、マイケル・マゼロ、ドリア・ティリエ、ルノー・ルッタン、フィリップ・フレトン、ファリダ・ラウアジ、ミベック・パッカ、イブ=ロベール・ビアラ、パトリック・リガルド
☆☆☆☆4
(C)2021 CG CINEMA / ARTE FRANCE CINEMA / AUVERGNE-RHÔNE-ALPES CINEMA / UMEDIA
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