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2025年05月09日22:48

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「今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は」大九明子〜死んだ人は、そこにおるねん〜

まず驚いたのが、原作がお笑いコンビ・ジャルジャルの福徳秀介だということ。こんな女の子の台詞が書けるんだ!という驚きと、しかも愛の告白シーンのまわりくどい長台詞にビックリ。その原作の恋愛小説を等身大の女性を描くのがうまい大九明子が脚本を書き、映画化した。大九明子監督と言えば、松岡茉優の『勝手にふるえてろ』(2017)、岡山弁の青春映画『でーれーガールズ』(2015)、のん主演の『私をくいとめて』(2020)、黒川芽以の『美人が婚活してみたら』(2019)など、どれも女性の脳内の妄想やぐちゃぐちゃした恋愛感情などの葛藤が描かれる。本作も、とてもチャーミングな恋愛映画になっている。

オープニングは雨の中、傘もささずにヘッドホンをした女の子の後ろ姿から始まる。『BAUS映画から船出した映画館』と同じくまたしても後ろ姿だ。そして傘を差した男の子の後ろ姿が映し出され、その二人がすれ違う。おそらく、映画のなかである事故が起きた後に桜田花(河合優実)が一度だけ学校へ行ったという日なのだろう。「大音量の音楽をかけて、校内を歩いた」と言っていた。外界をすべてシャットアウトせずにはいられない心境。友達を作らない女の子の河合優実が凛とした潔さを持った魅力的な女性を演じている。学食で背筋を伸ばして一人で蕎麦をすすっている姿が美しい。お団子頭は周りの目を気にしないための無敵の防御態勢。髪を上げているので、首筋がすらっと長く見えてキレイだ。現在朝ドラの『あんぱん』でも存在感を発揮している。河合優実はドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』が素晴らしく、その後TBSドラマ『不適切にもほどがある』にも出演し、今ノリにノッている女優だ。彼女のための映画だったとも言える『ナミビアの砂漠』も記憶に新しい。一方の小西徹(萩原利久)も友達が少ない学生。いつも傘をさしている。晴れていても日傘を差し、あまり人が通らない道を歩く。他の学生と目を合わさなくていいように、傘は自己防御だ。唯一の友達が山根(黒崎煌代)。大分出身なのに奇妙な大阪弁を話す男で服装も個性的。そして銭湯のお風呂掃除のバイト仲間のさっちゃん(伊東蒼)とは、気兼ねなく話せる女友達だ。この二人の存在感が映画を魅力的なものにしている。

物語はこの孤独な男女、桜田花(河合優実)と小西徹(萩原利久)が「セレンディピティ」(思いがけない偶然がもたらす幸運)だと言うほどの運命的な出会いをする。二人とも孤独で友達が少なくて、引きこもりで、大切な肉親を亡くしその心の傷を抱えている。犬が好きで、お互い好きな場所を教えあい、桜田花が「毎日楽しいって思いたい。今日の空が一番好き、って思いたい」と亡くなった父から教えられた言葉をつぶやくと、それは小西徹の半年前に亡くなった大好きな祖母の言葉と同じだった。そんな偶然が重なりながら、二人は喫茶店のメニューに笑い、「オムライスの謎」を確かめようとする。しかし、ある事故をきっかけにして二人は会わなくなってしまう。待ち合せに彼女が来なかったことで、小西徹(萩原利久)の妄想が暴走するところが面白い。そして傷心の中で、彼は走る。走って階段を駆け上がる。それは恋にウキウキして校内の坂を上っていた姿を山根が見たときのものと対照的な走るアクションになっている。

さらに音が重要なモチーフになっている。学校内のでかいチャイムの音を屋上で聴く二人、銭湯の店主宅のポストに深夜に鍵を落としたときの大きな音、スピッツの「初恋クレイジー」の前奏、テレビの大音量・・・。残念だったのは、小西徹(萩原利久)の最後の愛の告白は、「初恋クレイジー」をテレビの大音量で二人で聴いていて、彼女に聴こえないであろうからこそ言えたはずだが、それがうまく伝わっていないような気がした。音楽が終わって初めて音がなくなって、告白が聴こえるという仕掛けがわかりづらかった。

そして、この映画の最も魅力的に輝いていたのは、さんちゃんを演じた伊東蒼だろう。暗い街灯の下の路地での長い長い愛の告白。まわりくどい悲しい告白を一貫してロングショットで撮り続けた。伊東蒼の顔はほとんどわからない。それでも魅力的なのだ。だから最後の回想での彼女のアップはいらないと思った。小西徹(萩原利久)がバイトに戻ってきて、一緒に働きながら足の指に思わず力が入っていたり、「初恋クレイジー」の前奏の魅力を語りながら、踊るように跳ねるように浴槽掃除をする場面の嬉しさの表現。これがあったからこその切なさが、最後のセリフで表現されていた。「さちせ(幸せ)」「このき(好き)」という言葉遊びもニンマリさせられた。

「死んだ人は、おるねん。こころの中とがじゃなくて、そこにおるねん。」と桜田花(河合優実)が言ったように、死者を感じながら生きていくことがこの映画のテーマでもある。だからさっちゃん(伊東蒼)の「その子に告白するときこっそり覗き見してチェックしたろうか」というセリフがいつまでも心に残る。「私のおらんところで私のことを思い出して聞いてほしかった」という切ない恋心は、「いないところで思い出す」=「死者を思う」にもつながることなのだ。だから喫茶店のマスターの安齋肇は、「オムライス」を上手に作る人のことをいつまでも忘れないようにメニューを工夫しているのだろう。


2024年製作/127分/G/日本
配給:日活

監督・脚本:大九明子
原作:福徳秀介
製作:藤原寛、吉澤啓介、永山雅也、古賀俊輔、松本光司
プロデュース:中村直史、古賀俊輔
プロデューサー:中澤晋弥、黒田優太、松浦ちひろ
共同プロデューサー:馬場省吾 長坂淳子
撮影:中村夏葉
照明:常谷良男
録音:小宮元
美術:橋本泰至
編集:米田博之
音楽プロデューサー:田井モトヨシ
キャスト:萩原利久、河合優実、伊東蒼、黒崎煌代、安齋肇、浅香航大、松本穂香、古田新太
☆☆☆☆4

(C)2025「今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は」製作委員会
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