1950年当時の銀座の街の様子が映し出されるのが楽しい。銀座4丁目の和光ビルがあり、都電が走り、夜のネオン街が描かれる。工事中だった「トルコ風呂・温泉のデパート」(東京温泉という温浴施設が銀座にあったらしい!)の看板も映し出される。
銀座の街を少年が一人で歩き、通りがかりのオジサンに「今何時?」なんて話しかける場面から始まる。そして銀座の繁華街から少年が歩いて行くと裏にまだ庶民的な住宅があり、路地がある。その路地を走る少年。長唄教室の看板のある家の2階に銀座のバーで女給をしている雪子(田中絹代)が住んでいる。その一人息子が少年の春雄(西久保好汎)だ。銀座で十何年、女給として働き続けてきた女と一人息子の物語だ。好きだった男(三島雅夫)は、子供が出来ると冷たくなり、昔は羽振りが良かったが今は落ちぶれて田中絹代に小遣いをせびりに来る情けなさ。成瀬映画の情けない男たちの一人である三島雅夫が演じている。情けなくても子供には優しく、橋の上で少年と出会うと小遣いをあげたりする。
成瀬映画でよく登場する孤独な少年、そして路地、チンドン屋や紙芝居屋の太鼓の音も相変わらず描かれている。銀座の酒場では、まだ子どもたちが花を売りに来たり、流しの伴奏で歌を歌って小遣いを稼いだりするシーンがあるのが面白い。さらに客がヘタな長唄を流しの伴奏で披露し、女給たちがうんざりしている場面もある。カラオケのない時代はこういうヴァイオリン、ギター、アコーディオンなどの流しの演奏者が商売として成立していたのだ。田中絹代が田舎から出てきた真面目な青年(堀雄二)を銀座を案内する場面で、流しの演奏者とすれ違い、女給であることを隠していた田中絹代は、「音楽家の方とお知り合いですか?」などと言われてヒヤヒヤする。バーで飲み逃げした客と出会って、「ドロボウ!」と叫ぶと、堀雄二が捕まえて騒ぎになる場面もある。
バーを続けるための金策で、男の世話になろうとしてケチなエロオヤジの東野英治郎に倉庫に連れ込まれ言い寄られて逃げ出したり、昔の女給仲間の花井蘭子に頼まれて、若い真面目な青年(堀雄二)を2日間東京を案内して、星の話をされてロマンチックな気分になり、彼と田舎で暮らすことを夢見たりする。しかし、子供の春雄が家に帰ってこないというトラブルがあり、妹分の香川京子に堀雄二の世話を頼むと、そのまま二人はいい仲となり、仄かな希望も奪われてしまうのだ。かくして、かつての情夫の三島雅夫との腐れ縁を続けながら、子供を抱え、銀座の女給として生きていく現実が続くのであった。
『秋立ちぬ』(1960)の乙羽信子も少年を連れて銀座の裏の叔父の八百屋の家に世話になる母と息子の物語だった。乙羽信子は途中で加東大介と駆け落ちしていなくなってしまったが。銀座の繁華街の裏で暮らすという設定は同じだ。まだ子供が遊ぶ公園があったり、橋と川があったり、庶民の暮らしがあった。一方、夜の街の女の話といえば、『女が階段を上る時』(1960)の高峰秀子もあった。華やかな夜の街で金に苦労しながら生きる女の物語は同じである。本作で、堀雄二が空に輝く6000ほどの見える星のほかに、10億もの見えない星があることを話し、その話を受けて田中絹代が「銀座だって目に見える銀座という星の裏に、目に見えないちっぽけな星がたくさん隠されているんですわ」と語る場面がある。まさに、銀座という華やかでケバケバしい化粧の裏側で、ささやかに懸命に生きる女たちがいるということか。本作で成瀬巳喜男作品の観賞19本目となる。
1951年製作/87分/日本
配給:新東宝
演出:成瀬巳喜男
脚本:岸松雄
原作:井上友一郎
製作:伊藤基彦
撮影:三村明
美術:河野鷹思
音楽:鈴木静一
キャスト:田中絹代、西久保好汎、香川京子、花井蘭子、三島雅夫、堀雄二、東野英治郎、田中春男、小杉義男、津路清子、春山葉子、明美京子、落合富子、岡龍三、清川玉枝、柳永二郎、小倉繁、竹中弘正
☆☆☆3

国際放映
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