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2025年03月29日20:35

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「生きるべきか死ぬべきか」エルンスト・ルビッチ〜演じることで騙すナチ風刺コメディ〜

エルンスト・ルビッチの見事な社会風刺的な喜劇だ。「演じるということ」は、虚構を生きるということであり、嘘をつくということでもあり、人を騙すということでもある。最近Netflixで話題になった実際の事件をドラマ化した『地面師たち』(2024・大根仁)もまた、「演じること」によって企業から金を騙し取る詐欺師たちの物語であった。詐欺師という題材は映画と相性がいい。女性を騙し続けた犯罪者の映画『復讐するは我にあり』(1979・今村昌平)の緒形拳も、「演じること」の巧みさとその裏側にある複雑な人間の闇を演じていた。『スティング』(1973・ジョージ=ロイ・ヒル)という洒落た映画もまたポール・ニューマンとロバート・レッドフォードが「演じること」でギャングたちを騙して金を奪う痛快な映画だった。古沢良太脚本の『コンフィデンスマンJP』も演じ騙すことによって、観客も騙される面白さがあったし、ビリー・ワイルダーの『お熱いのがお好き』でも、女装して「演じること」でピンチを切り抜ける喜劇であった。古今東西、「演じること」「変装すること」は映画の虚構そのものであった。役者とはある役を演じることだし、その役者がさらに物語の中で「演じる二重構造」の中で、観客も何が本当だか分からないまま騙されつつ、誤解と混乱のドタバタが起きたり、演じることの嘘を楽しむのであった。その「演じること」の古典的な名作が本作『生きるべきか死ぬべきか』なのかもしれない。「演じること」を武器に、ナチス占領下のワルシャワという緊迫した状況の中で、ピンチを切り抜けるサスペンス的喜劇に仕立て上げた名作である。

1939年ワルシャワの街角の人々の驚く視線の先にヒトラーが突然現れるくシーンから始まる。そしてゲシュタポ本部が映し出され「ハイル・ヒトラー!」の敬礼の挨拶が繰り返される。しかし、それはお芝居の舞台であったことが明かされ、観客はまず騙される。風刺劇「ゲシュタポ」の稽古風景。チョビ髭でヒットラー演じる役者が「ハイル!マイセルフ!(私に万歳)」とアドリブを言って演出家に怒られるところは笑える。冒頭のシーンは役者がヒトラーに似ていることの自信をつけるために街角に立っていたのであった。ヒトラーを演じる映画と言えば、言うまでもなくチャールズ・チャップリンの『独裁者』(1940)を思い出す。これはその二年後の1942年の映画であり、まだ戦時中に製作されたことに驚く。いずれもナチの暴力と残虐性を喜劇によって風刺した作品である。

風刺劇「ゲシュタポ」の公演中止を政府から言い渡され、劇団はワルシャワで「ハムレット」を公演していた。俳優のヨーゼフ(ジャック・ベニー)がハムレットを、妻のマリア(キャロル・ロンバート)がオフェーリアを演じていた。妻のマリアは、若いポーランド空軍のソビンスキー中尉(ロバート・スタック)から手紙をもらって求愛されていて、夫ヨーゼフが「生きるべきか、死ぬべきか…」の長ゼリフの場面を演じている間、楽屋で中尉との逢瀬を楽しんでいた。ヨーゼフは、肝心の台詞の場面で客が途中で退席することに役者としてショックを受けるのだった。

情勢が悪化する中でドイツ軍がワルシャワに侵攻、ワルシャワの劇場や街は破壊され尽くされる。ロンドンに配属されていたソビンスキー中尉は、ワルシャワに向かったシルスキー教授(スタンリー・リッジス)がナチのスパイであることを知り、家族の情報や地下組織のメンバーの情報がナチに伝わり収容所送りになるのを防ぐため、英国情報部の協力を得て、単身ワルシャワに帰国する。ナチスに抵抗している地下組織と接触し、劇団連中が「ゲシュタポ」の衣裳であるナチの制服を着て、シルスキー教授を迎える命懸けの大芝居をうつのだ。教授の陰謀を未然にくいとめた一座の人々は、やがてヒトラーがポーランドを訪れたチャンスを利用して、ポーランドからロンドンへ脱出する計画をたてる・・・。

「この世は舞台、人はみな役者」と『お気に召すまま』の台詞を書いたのはシェイクスピアだが、生きるために「役を演じ」、「人を騙し」、現実を舞台に変える。シェイクスピアの『ベニスの商人』のシャイロックの台詞も何度か引用される。「刺されたら血が出るし、くすぐられたら笑うだろ?毒を盛られたら死ぬだろう?不当に扱われたら復讐するだろ?」。演劇と現実が重なっていく。

画面の外で銃声が聞こえ、舞台の幕が開くとシレツキー教授が舞台のように倒れたり、見せないことを効果的に使った演出が見事だ。付け髭が重要な小道具になっており、シルスキー教授の死体と今ここにいる男と、どちらが本物か?という騙し合いで使われる。観客も一瞬騙されたりする演出も上手い。キャロル・ロンバードは夫と愛人の三角形ながらもまったく気にせずに、堂々とナチス側の人間とキスして見せたり、スパイとなることを引き受けるかのように演じている。夫と愛人が不倫のことで揉めていても、今は「彼を殺す唯一のチャンスよ」と言ったりする美しく強い女だ。ヨーゼフもちょっと間抜けな男で、嫉妬から興奮して芝居がバレてしまうのも笑える。最後はヒトラーを演じた男にみんな騙されていくのが痛快。みんなヒトラーのチョビ髭の偶像に服従しているだけなのだ。ちょっと出来過ぎの結末ながら、喜劇なのだから楽しめばいい。


1942年製作/アメリカ
原題または英題:To Be or Not to Be
配給:リュミエール・シネマテーク

監督:エルンスト・ルビッチ
脚本:エドウィン・ジャスタス・メイヤー
製作:アレクサンダー・コルダ
撮影:ルドルフ・マテ
音楽:ウェルナー・R・ハイマン
キャスト:キャロル・ロンバード、ジャック・ベニー、ロバート・スタック、フェリックス・ブレサート、ライオネル・アトウィル、スタンリー・リッジス、シグ・ルーマン、トム・デューガン
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