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2025年03月11日19:10

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「女が階段を上る時」成瀬巳喜男〜「顔」を作って生きていく女〜

女の人生をいつも見事に描く成瀬巳喜男作品である。菊島隆三が自らのシナリオをプロデュースする第一回作品で、銀座のバーのマダムの華やかさとその裏側の影を描いた。「女が階段を上がる時」とは、店に出るときのママの覚悟のようなものであろうか。バーのママである圭子(高峰秀子)が店の階段を上る時に気持ちを切り替え、バーのママの「顔」になる。「階段を上る」行為とはその「顔」になるための儀式なのだろう。映画では圭子のナレーションが何回か入るが、最初のほうで「私は階段を上る時が一番嫌だった。上ってしまえばその日の風が吹く」と彼女の心境が語られる。圭子は本来、バーのマダムのような水商売向きの女ではない。したたかに客の男たちの欲望と駆け引きをしながら、お金を落としてもらうような接客業に向いているタイプではない。結婚したが夫を交通事故で早くに亡くし、マネージャーの小松(仲代達矢)に声をかけられ、この世界に入った雇われママである。その優しかった夫のことをいつまでも忘れられないでおり、「二度と他の男を愛さない」という手紙まで書いて夫の骨壺に入れたというのだ。だからバーのママでありながら、身持ちが堅い。いろんな客たちがママを目当てに店に集ってくるのだが、いつもはぐらかしてばかりいる。店の女の子たちが、「ママは誰を旦那にするのか」と賭けをするほど、ママの気持ちは誰にもわからない。

自分の店から独立したユリ(淡路恵子)に客たちを次々と奪われ、店の売り上げが下がっていった。そんなとき、上客の美濃部(小沢栄太郎)から圭子は泊りがけのゴルフに誘われる。店の階段を昇りながら圭子は「どうしよう、覚悟しなければならないところに追い詰められた」と迷うが、結局は美濃部の誘いを断わって別の店へ移る。関西の実業家の郷田(中村鴈治郎)から愛人になる代わりに金を出資するから「自分の店を持たないか?」と誘われるが、それもやんわりとかわしつつ、顧客に出資を募って店を出そうと画策する。ところが好きな客である大手銀行の支店長の藤崎(森雅之)に断られ、それもうまくいかない。そんなとき、成功してたように見えていたユリ(淡路恵子)が借金で首が回らなくなって狂言自殺をすると聞かされる。それで金の催促を待ってもらおうと言うのだ。ところがユリは本当に死んでしまった。圭子が線香を上げに行った実家でも金を取り立てに来る男たち。この世界が嫌になってきたそんなある日、圭子自身も胃潰瘍で血を吐いて店で倒れてしまう。

佃島の実家で療養をする圭子。銀座のネオン街とは風景が変わり、海の景色や昔ながらの町並みにほっとする。しかし実家でも、母の賀原夏子や姉に逃げられた義理の兄(織田政雄)からもお金を無心される圭子。兄の子供は小児まひで手術費も出せない。いつまでも金と男に振り回される圭子。

そんなとき親身に思いを寄せ続けてくれたプレス工場の社長の関根(加東大介)にプロポーズされ、結婚して夫婦になることを決意。ところが関根は妻子持ちの嘘つき男であることがわかりショックを受ける。プレス工場のある広場で関根の妻から事情を聞く場面、子どもたちが三輪車でグルグル回り、煙突がたくさんある工場街の殺風景な広場の風景が秀逸だ。ヤケ酒をあおり、もともと好きだった藤崎(森雅之)に身体を委ねた圭子だったが、その藤崎も翌日大阪に転勤することが決まっていた。さらにショックを受けた上に、もともと圭子に好意を寄せていた小松(仲代達矢)からも迫られるが、小松とも訣別し、一人で夜の女として生きていく覚悟を決める。藤崎が大阪へ旅立つ駅のホームに菓子折りを持って見送りに行き、奥さんにも挨拶し、もらった株券を突き返して女の意地を見せる圭子だった。

高峰秀子が自ら映画の衣装を担当。男に振り回されないで銀座のバーのママとして生きていこうとしつつも、金と男に苦しめられて、がんじ搦めになっていく。高い家賃のアパートに住み、高い香水をつけ、いい着物で着飾って見栄を張らないと生きていけない銀座のママ。派手に見えても出費が嵩む苦しい生活。男からのアプローチをかわすのも大変だ。後半、圭子の人生が急に動きだす。後輩の死から始まって、トランプ占いの言葉の呪縛もあり、婚約して水商売をやめようとするも男に裏切られ、好きな男からも見放されていく。それでも、したたかに一人で生きていくしかない女の人生。

小沢栄太郎、中村鴈治郎、加東大介、森雅之、仲代達也といろんな男たちが圭子に迫ってくるが、この映画で最も効果的に機能しているのが加東大介だ。一番遊び人に見えなくて、圭子のことを「水商売には向いてない」、「不憫に思っている」などと言っておきながら、自分が妻子持ちであることを隠し騙していたのだから。また、イイ男の森雅之がおいしいところを持っていくズルさもいつも通りの感じだ。「キレイな人ね」などと妻から言われる森雅之の困ったような顔がなんともいい。特別なカメラワークはないが、ママを演じなければ生きていけない高峰秀子の光と影の表情と欲望を見せるそれぞれの男たちのズルさが面白く描かれている。

1960年製作/111分/日本
配給:東宝

監督:成瀬巳喜男
脚本:菊島隆三
製作:菊島隆三
撮影:玉井正夫
美術:中古智
音楽:黛敏郎
録音:藤好昌生、下永尚
照明:石井長四郎、猪原一郎
編集:大井英史
衣裳:高峰秀子
キャスト:高峰秀子、森雅之、加東大介、中村鴈治郎(2代目)、仲代達矢、小沢栄太郎、団令子、淡路恵子、細川ちか子、賀原夏子、織田政雄、北川町子、中北千枝子、塩沢とき、柳川慶子、野口ふみえ、横山通乃、園田あゆみ、佐田豊、菅井きん、谷晃、本間文子、山茶花究、千石規子、沢村貞子、多々良純、藤木悠、瀬良明、三津田健、田島義文、十朱久雄、河美智子、東郷晴子、若林映子
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