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2025年03月07日13:55

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「ANORA アノーラ」ショーン・ベイカー〜光とカラフルな色彩の世界から白の世界へ〜

第97回アカデミー賞で作品、監督、主演女優、脚本、編集の5部門を受賞した話題作。2024年・第77回カンヌ国際映画祭でパルムドールも受賞している。そんなに受賞するほどの作品なのか?という気もするが、良作であるのは間違いない。ショーン・ベイカー監督の『レッド・ロケット』(2021)は軽いノリで楽しめた作品だ。口先だけの元ポルノスターの「最低で最高な」映画だった。あれもセックスワーカーでポルノ男優として活躍していたバカな男の話だった。過去にポルノ出演経験があるサイモン・レックスという俳優が演じていてハマっていた。本作もストリップダンサーというセックスワーカーを新星のマイキー・マディソンが体当たりで演じた。ショーン・ベイカーはそんなキャスティングが上手いのだろう。2017年の『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』も観ている。魔法の国ディズニーランドの隣で貧しい人々が暮らす安モーテルが舞台で、悪ガキの女の子たちの夏の物語だった。少女の母親が詐欺まがいで安香水を高値で売ったり、売春をしたりして警察に捕まり、少女の哀しみの現実が描かれ、最後はファンタジーのように魔法の国のお城を目指す話だった。フロリダの青い空とカラフルな色彩が印象的だった。いずれにせよ、ショーン・ベイカーの映画に出てくる登場人物は、ロクデモナイ人間たちが多い。まともな人間はほとんど出てこないと言ってもいい。本作もまた、シンデレラストーリー的にストリップダンサーがロシアの金持ちのロクデモナイお坊ちゃんと結婚することになり一瞬夢を見るが、現実的に酷い目に遭わされるコメディ的な悲劇だ。まったくロクデモナイくだらない若者たちの物語だ。

<ネタバレあります.ご注意ください。>

前半はロシア系アメリカ人のアニーことアノーラ(マイキー・マディソン)がストリップダンサーとして働くクラブの賑やかで騒がしい性的接客の様子がしばらく続き、アニーが家まで街を歩く場面で初めて彼女の一人でいる姿が描かれる。しかし、ロシア人の御曹司イヴァンと出会ってからの乱痴気騒ぎはほとんど内容がない。ただただ躁状態が続き、酒とクスリとセックスに明け暮れる怠惰でお気楽な日々が続く。だからベガスでみんなで大騒ぎして、その後二人が盛り上がって結婚しようがどうでもいい気分になる。ところが、イヴァンの父親の手下たちが家にやって来るところから、やっと物語が動き始めるのだ。

スクリューボール・コメディのように次々とドタバタがあり、物語が展開していく。迫る男たちからイヴァンは逃げていなくなり、一人残されたアニーは手を縛られながらも大暴れ。足で蹴飛ばして男の鼻の骨をへし折るわ、レイプと叫んで口をスカーフで塞がれるわ、凶暴なアバズレぶりを発揮。部屋の中は花瓶やガラスが割れて散乱し、男たちも手を焼く。イヴァンの両親たちが翌日の昼にロシアからニューヨークにやって来ることになり、それまでに3人の男たちとアニーはイヴァンの行方を捜すことにする。捜している途中で車が違法駐車でレッカーされそうになるが、暴走して逃げ出したり、寒い夜にトボトボと歩いたり、イヴァンが仲間たちと来ていたカラフルなアイスクリーム屋をメチャクチャに壊したりする。いろんな店を探し歩くが、なかなかイヴァンは見つからない。疲れ果てた男たちの愚痴が溢れていく。そして泥酔した姿でアニーが働いていたクラブに現れたことを聞きつけた3人は、店に乗り込んでやっとイヴァンを確保する。その店でアニーに、「どうせ2週間で離婚されるわ」と嫌味を言っていた同僚とアニーは立ち回りの大喧嘩をする。結局、ロシアから両親が到着し、アニーとイヴァンの結婚を無効にするように言われ、イヴァンも「アメリカ最後の楽しい思い出だった」と言いながら、離婚を承諾。アニーのシンデレラの夢は泡と消えた。

この映画の面白いところは、そのあとの監視役のイゴール(ユーリー・ボリソフ)とアニーとのやり取りだ。離婚のサインをさせられた後、アニーとイゴールはイヴァンの豪邸で翌日まで一緒に過ごす。最初に電話のコードでアニーの手を縛ったイゴールは、イヴァンを探している途中から、アニーのことを哀れに思ったのか、気になりだしていた。寒い中で歩いているときにスカーフを渡したり、離婚成立後に「アニーに謝罪すべきだ」と言ってみたり、二人になった家でも「アニーよりアノーラの名前の方がいい」、「君があの一族の家族にならなくて良かった」、「アニーの力になりたい」と言い出すのだ。離婚が成立して物語の決着がついたかと思ったのに、なんだか長々と二人のやり取りを描写するなと思ったら、車の中での二人のラストシーンがあった。イゴールが車でアニーを送っていく日は、朝から雪が降り出していた。そして車の窓ガラスも降り積もる雪で覆われていく。アニーはイゴールに身体で感謝を伝えようとするが、イゴールは愛だと勘違いして引っぱたかれる。しかしイゴールがいたことで、やっとアニーは最後に涙を流すことが出来たのだ。

クラブのなかの華やかな光と色彩の世界、あるいはイヴァンの豪邸でのパーティーやベガスで遊ぶ場面、結婚する場面まで光と派手な色彩に溢れていた。それが後半、冬の寒さが強調され、色が失われていき、最後は真っ白な雪だ。華やかな色彩を夢見たアニーだったが、結局そんな華やかな世界に入り込むことは出来ずに、白い雪に覆われて初めて自分の気持ちに向き合うことが出来たのだった。そんなイカレ女とイカレ男たちのロクデモナイ暮らしから、ささやかな愛の希望を一瞬でも夢見て破れる物語だ。どんなロクデモナイ人生でも、ささやかな夢を見ることの一瞬の輝きをショーン・ベイカーは描きたいのかもしれない。

イゴールはアルメニアからやって来た男だ。最後にアノーラを送った車のことを、「アルメニアのおばあちゃんの車だ」と言う。アルメニアからアメリカに渡ってきた移民としての思い、ロシアの金持ち一族に対する反感もあるのだろう。それがアノーラへの共感と愛につながっていった。ちなみにイゴールを演じたユーリー・ボリソフは、『コンパートメントNo.6』でもいい味を出していた。

個人的には本作よりも『レッド・ロケット』のくだらなさのほうが好みではあった。

2024年製作/139分/R18+/アメリカ
原題または英題:Anora
配給:ビターズ・エンド

監督・脚本:ショーン・ベイカー
製作:アレックス・ココ、サマンサ・クァン、ショーン・ベイカー
製作総指揮:グレン・バスナー、ミラン・ポペルカ、アリソン・コーエン、クレイ・ペコリン、ケン・マイヤー
撮影:ドリュー・ダニエルズ
美術:スティーブン・フェルプス
衣装ジョスリン・ピアース
編集:ショーン・ベイカー
音楽監修:マシュー・ヒアロン=スミス
キャスト:マイキー・マディソン、マーク・エイデルシュテイン、ユーリー・ボリソフ、カレン・カラグリアン、バチェ・トブマシアン
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