日本では，特に，シリアについては，お互いに真逆な情報が飛び交っています。下記は，私が素人なりに，客観的に調べた結果です。素人の強みは，世間等の批判や評判を臆することなく，自分の意見を述べることできることにあります。いわゆる世間の有識者は，非難されることを恐れて，口を閉ざしている方々多いので，私が敢えて，正論を述べます。
[中東における宗教集団]
日本や西洋の国家の概念を中東に持ち込むと非常に混乱する。中東では，それぞれに国民という意識がなく，帰属意識は，宗教集団または部族にしかない。これを，アラブ史の泰斗であったヒッティ（レバノン出身）は，「中東に民族なく，宗教あるのみ」と喝破している。つまり，民族国家としてのシリア国民としての意識よりも，イスラム教スンニ派という意識が先に立つ。レバノンも同様で，レバノン国民としての意識よりも，キリスト教マロン派であるか，イスラム教スンニ派であるか，ドルーズ派であるか，そちらの意識が先に立つ。そのため，宗教集団が結社のようになり，宗教集団に内と外では，国籍が違うような関係になってしまう。したがって，いわゆる”国民国家”というものが成立しうるか，相当に疑問。
[宗教構成]
以上の観点から，シリア国民の宗教構成をみる必要がある。シリア国民の約７割はイスラム教スンニ派。イスラム教アラウィ派（少数派）が20%強。キリスト教徒（シリア正教）も１割近くいる。ところが，アサド大統領自身は，少数派のアラウィ派。アラウィ派とキリスト教徒は，政治的に同盟関係にあり，シリアにおいて，政治の主導権を握っている。
[アサド政権の性格]
アサド政権は，キリスト教徒と政治的に同盟している関係もあり，他のムスリム政権とは異なり，世俗主義（宗教と政治を切り離している）を貫いている。これは，アサド大統領自身が公の場で髭を剃って現れることが象徴している。また，大統領夫人もヒジャブ（ムスリムの女性が被るヘッドスカーフ）無しで，公の場に現れている。これは，他のムスリム政権のように，宗教法であるイスラム法を前面に出すと，キリスト教徒との政治的同盟関係を維持できなくなるためと，推測している。
アサド政権は，スンニ派を排除しているというわけではく，政府の閣僚には，多数のスンニ派の大臣がいる。ところが，スンニ派と言っても，一枚岩ではない。アルカイダやISISのようなイスラム原理主義者が最も多いのがスンニ派。アサド政権の大臣となっているのは，穏健派。原理主義か原理主義に近いスンニ派は，少数派（アラウィ派＋キリスト教徒）に政治の主導権を握られていることに強い不満を持っている.
[複雑な合従連衡]
シリアの外交関係においては，三国志の世界どころではない，複雑奇怪な対立関係の力学による複雑な合従連衡が渦巻いている。スンニ派対シーア派の対立，アラブ諸国対イスラエルの対立，ペルシャ民族（イラン民族）対アラブ民族の対立などである。ここでの勢力関係が変化すれば，平衡が崩れ，必ず他国に影響する。これが，各国が，シリアの動向に無関心でいられない所以である。この複雑な対立構造を頭に入れておかないと，関羽や劉備玄徳のように，戦う相手を間違える。常に，何を目的として，合従連衡を行っているかを把握する必要がある。
[ロシアの姿勢]
ロシアとシリア政府は協力の道を歩み続けた。この協力関係の歴史は古く、ソ連とシリアの関係史にまでさかのぼる。ロシアにとって，アサド政権が倒れてもらったら困る。その主な理由は，以下のとおりである。
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�� 天然ガスにおける輸出シェアの維持。
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タルトゥス港は，旧ソ連時代からの東地中海における戦略的根拠地。この根拠地の有る/無しで，東地中海における海軍力のプレゼンスが全く違う。特に，21世紀になって，イスラエル沖に大規模なガス田が発見されたことで，さらに戦略的な価値が増している。イスラエルは，この新発見の富を防衛しなくてはならない。アメリカには，もはや頼れないということになれば，当然，ロシア海軍に期待せざるを得ない。特に，イスラエルを敵視しているシリアを抑え込むには，ロシアの協力が不可欠である。
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ロシアは，トルコでのイスラム過激派の動きが活発化していることを気にしている。ロシアは，チェチェンの悪夢を二度と経験したくはない。仮にアサド政権に代わる新政権がイスラム過激派勢力と連携すようになれば，ロシアの安全保障が脅かされることになる。
�� 天然ガスにおける輸出シェアの維持
天然ガスは，ロシアの大切な輸出品である。ロシアには，資源と兵器しか売るものないとまで言う人もいるほどである。いずれにしろ，天然ガスにより，ロシアは，外貨を効率的に獲得できていた。この観点から，ロシアは，欧州ガス市場の独占的地位を狙っていた。
当面，ロシアの天然ガスと競合するのは，主に，安価なカタール産の天然ガスと，アジェルバイヤンのガス田（シャーデニスガス田）である。これまでのところ，両ガス田は，LNG化しない限り，ヨーロッパ市場に天然ガスを供給することができなかった。ところが，アジェルバイヤンのガス田は，トルコを経由しするトランス・アナトリアン・パイプラインによって，ヨーロッパ市場に供給することを意図している。他方，ロシア側はこれに対抗するために，黒海，ルーマニア，ギリシャを経由して，ロシアの天然ガスをヨーロッパ市場に供給することを計画していた。
欧州ガス市場の独占的地位を狙うという観点からすると，シリアの地政学的な位置は，エネルギ資源生産地のユーラシアや中東から，大消費地であるヨーロッパへのとうり道にあたる。これまでのところ，安価なカタール産の天然ガスを，液化せずに欧州市場へ供給する手段はないが，仮に，アサド政権が倒れ，親ロシアでなくなると，安価なカタール産の天然ガスが，シリア経由にパイプラインを通じて，地中海まで運ばれる可能性も出てくる。これは，ロシア経済にとっては，外貨獲得の手段を失い，大打撃となるので，何としても阻止する必要がある。
なお，イスラエルの天然ガス開発によって，ロシアやアラブ諸国が深刻な悪影響を受けることはない。ロシアやアラブ諸国のガス生産は，地上のガス田からであり，イスラエルのような海底ガス田からではないので，コストが十分に低いからである。なお，シリアにおいても，ロシアの企業（ソユーズネフチ・ガス）と組んで，海底ガス田の開発を進めている。
以上のように，ロシアは，自国の国益にそってアサド政権を援助し続けている。しかしながら，プーチン氏もスンニ派国家に嫌われるアサド政権を支援しながら，それと同時に親イスラエルの姿勢を見せなければならないという，難しい芸当をせまられているのである。
[米の姿勢]
米の姿勢は，何が何でもアサド政権を倒し，親米政権を樹立することにある。その主な理由は，以下のとおりである。
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�� 石油利権
とされている。これらは，ロシアと真逆の理由。
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ロシアに代わり，タルトゥス港を米の第6艦隊の根拠地にできれば，東地中海における海軍力のプレゼンスを誇示できる。さらに，21世紀になって，イスラエル沖やシリア沖になどに，大規模なガス田が発見されたことで，さらに，米の資源利権の確保が非常に有利となる。
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ペトロダラ利権は，サウジの協力が欠かせない。アサド政権は，反スンニ派＆反イスラエルという立場で，イランと同盟関係にある。ところが，サウジにとっては，イランは，スンニ派対シーア派の対立関係，ペルシャ民族（イラン民族）対アラブ民族の対立関係にある。イランを弱体化させることは，サウジの感心を引き，最終的に，ペトロダラ利権を温存するという米国の利権にかなことになる。そのため，反スンニ派＆反イスラエルを目指したイラン・ヒズボラ・シリアの同盟関係の弱体化は，アメリカの最大の外交目標となっている。
�� 石油利権
アサド政権は，米軍の撤退とテロリスト集団が占拠していた油田とガス田の返還を求めている。しかしながら，米国は，ISIS鎮圧後も自己の権益として維持するために米軍を駐留させている。
上記に加えて，長期的には，ロシアを欧州ガス市場から締め出すことも意図していると推測している。安価なカタール産の天然ガスと，アジェルバイヤンのガス田（シャーデニスガス田）を，シリア経由のパイプラインの敷設により，ヨーロッパ市場に天然ガスを供給することによって，ロシア経済に大打撃を与え，最終的にロシアの解体を目指そうとしているのである。
以上の理由により，CIAは，トルコ南部に陣取り，反アサド勢力を支援してきた。ここで注意すべきは，シリアのアサド政権に対しては，ロシアとトルコは，敵対関係にある。現在，やや，ロシア寄りの姿勢を見せているのは，独ソ不可侵条約みたいなものだと判断している。
原理主義か原理主義に近いスンニ派の政治上の不満につけこんで，米は，アサド政権を倒すために，アサド政権に対しテロ活動を行っている反政府組織を援助し続けている。反アサド勢力を支援しているCIAは，坊主憎けりゃ袈裟まで憎いとばかりに，こともあろうに，アルカイダやアルス・ヌララ戦線などアメリカに対して敵意をもっているテロ集団にも，援助を行っている。”アメリカ側が武器や弾薬を送ろうとすると、結局はこうしたテロリストの手に渡ることになる”と非難されているのはこのためである。米国は，反アサド勢力が政権を取ったとしても，その政権が，アサド政権よりも手に負えなくなるリスクを全く考慮できていない。米国が絡むと事態が悪化するのは，このためである
[2011年の内戦以降の状況]
少数派（アラウィ派＋シリア正教）に支配されているスンニ派は，20年以上にわたって憤懣を燻ぶらせていた。2010年末にチュニジアやエジプトから始まった「アラブの春」の影響が，シリアにもおよび，2011年に内戦が始まり，アサド政権が倒れる可能性が出てきた。このとき，米英は，アサド政権も倒れることを期待。しかしながら，シリア政府軍(アラウィ派が多数)は，思惑通りには崩れなかった。それもそのはず，アサド政権が倒れると，それを支えていたアラウィ派とシリア正教徒は，スンニ派から大弾圧を受けることは必定。それだけに，軍のアサド政権に対する忠誠心は高い。反政府活動を行うスンニ派の市民に対し，発砲命令を拒否することはあり得ない。
/ロシア側/
このようなシリアの危機が始まると、ロシアは，当初からアサド政権に外交的・経済的支援を行った。まず，プーチン氏は，政府側と反政府側の両者に交渉のテーブルに着くように求めた。プーチン氏の要請は，下記の２つ。
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�◆仝鮠弔侶覯漫せ団蠕�府の要職に就くのは，シリア国民に限られること。
これらの条件は，プーチン氏は，アメリカの気にらない暫定政権ができあがって，アメリカから横やりを入れられることを防止するためだったとされている。
しかしながら，この内戦は長引き，虐殺行為の報道が相次いだ。これは，アラウィ派が多数を占めるシリア政府軍は，スンニ派に対し武力弾圧を行うことに，ほとんどためらうことがなかったためであるとされている。
2013年，アサド政権が，化学兵器により，数千人もの死者をだしたとき，米国（当時，オバマ政権）は，シリア政府に対し，ミサイル攻撃を始めるかに見えた。このとき，プーチン氏は，アサド政権に化学兵器を廃棄するように説得し，アメリカの介入を押しとどめたとされている。これによって，アメリカとの直接対決を避け，シリアのアサド政権を救うことができたのである。これにより，ロシアがアラブ世界にピースメーカとしての役割を果たしたことを印象付けることの成功した。まさに，プーチン氏の外交的勝利である。
さらに，2014年1月，ロシアは，西側諸国が飛行制限空域を設定することや，懲罰目的の航空機による攻撃を行うことを防止するために，シリアに高度な武器（装甲車，監視機器，レーダ，電子戦機材，ヘリコプタ部品，無人車，自動追尾ミサイルなど）を供給している。ユーゴ内戦のときには，ロシア自体がガタガタで，有効な軍事支援を行えなっかったため，NATOに好き勝手（空爆など）を許してしまった。同じ轍は踏まないという意思を感じさせる。
/米側/
他方，アメリカは，和平を探るのではなく，アサド政権を倒すために，内戦を煽る方向へと舵を切っている。お気に入りの反サダト勢力の支援を活発化させて。さらに，当時のオバマ政権と，米国メディアは，シリア内戦における悪玉がプーチンであると喧伝してきた。プーチンは，冷酷無慈悲な恐怖政治を行う極悪非道のアサド政権の側にいると主張してきたのである。
2015年には，ISIS等のイスラムテロ集団が，ユーフラテス東岸の油田とガス田を占領した。米軍は，ISIS鎮圧を大義名分としてシリアに出兵，油田とガス田を占拠し，駐留を開始。2018年に，ロシアとイランの支援を受けたシリア軍が彼らに対する大規模な軍事攻勢を開始し，ISISのテロリストたちを押し返した。しかしながら，米軍は，ISIS鎮圧後も，相変わらず，シリア国内駐留を続けている。これは，テロリスト集団が占拠していた油田とガス田を，自己の権益として維持するためである。
さらには，アメリカは，シリア民主軍（ほとんどがYPGとPKKの部隊で、約6万人の戦闘員）という新たな部隊を創設し，反サダト勢力の支援を行っている。反サダト勢力の活動がエスカレートし，仮に，シリアで活動するロシア軍事顧問団に犠牲者がでるようなことになれば予測不能な事態もあり得る。
[総括とお願い]
以上が，私が調べたシリア情勢。あまりにも，合従連衡が複雑でアウトラインの把握ですら容易ではない。特に，残念ながら，ロシア側の情報があまりにも少なく偏りがあることが危惧される。上記に加えて，アサド氏がプーチン氏と共闘した動機は。チェチェンを制圧したプーチンと組んで，イスラム原理主義を封じ込めるためではないかと予想しているのですが，それを裏付ける情報を見つけられませんでした。皆さまからの，意見や情報の紹介，コメント等を期待します。
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