たまたま、『壁とともに生きる わたしと「安倍公房」』(NHK出版新書)という漫画家のヤマザキマリによる「安倍公房」論を読んでいたところだったので、2021年9月のシスカンパニーの舞台『友達』をWOWOWで放送し録画していたものを見た。だから実際の舞台を観ているわけではないので、演劇レビューではない。
安倍公房の戯曲を現代風にアレンジした作品。上演台本・演出を手掛けたのは、気鋭クリエイター、演劇人(劇団「た組」)であり、ドラマ脚本家(「きれいのくに」「ももさんと7人のパパゲーノ」など)、映画監督(『わたし達はおとな』(2022年))でもある加藤拓也氏だ。安倍公房の1967年の不条理演劇を、SNSやスマホ漬けになっている現代人の孤独と結び付けた。キャストが豪華だ。鈴木浩介、有村架純、林遣都、浅野和之、キムラ緑子、山崎一。
一人暮らしをしている男(鈴木浩介)のところに突然見知らぬ9人の家族がやってきて、「孤独はよくない」、「人とつながるのは素晴らしい」などと「隣人愛」を押し付け、9人の家族は部屋に住みついてしまう。男が警察を呼んでも弁護士に相談しても事態は解決せず、「民主主義の多数決だ」と言いながらいろいろ勝手なルールを決められてしまい、男は家事の仕事を押し付けられる。しかも財布も管理され、奇妙な共同生活が始まる。男の婚約者には関係を誤解され、この9人家族の長男の林遣都に奪われてしまう。まさに不条理な世界が、突然男の日常に侵食してくるのだ。わけも分からず、理不尽な世界に巻き込まれていく男・鈴木浩介がハマっている。有村架純も優しい面と残酷な面を見せながら、意味不明な家族の一員を演じている。
原作の戯曲がどういう設定になっているかわからないが、舞台中央の床に扉があり、その扉を開けると舞台下の奈落から9人の家族がぞろぞろと部屋の中に上がり込んでくるのが面白い。地下の世界から湧き上がってくるような人々の不気味さがある。これは加藤拓也の演出によるものかもしれない。「隣人愛」を押し付けてくるこの奇妙な家族は何の寓意なのか?新興宗教集団のようでもあり、かつての時代であれば政治団体なのかもしれない。なんらかの共同体が個人の世界を侵食していく物語だ。集団の怖さであり、それは社会の民主主義という共同性、国家でもある。また台詞に会ったように「世間」という同調圧力でもある。有無の言わせぬまま、個人の自由は「世間」のルールに従わされていく。「共同幻想」のようなもの。
スマホ片手に「個」に分断させられている現代において、どう社会や世間とつながりを持っていくか?昨今の旧統一教会の問題を見ていると、あっという間に何らかの「共同性」に絡めとられてしまう弱さを現代人は持っているのかもしれない。そんなことを考えながら、このブラックコメディの舞台を興味深く見た。
去年はケラリーノ・サンドロヴィッチの演劇ユニット、ケムリ研究所によっても、安倍公房の『砂の女』が上演されたらしい。安倍公房が時を経て現代で再評価されているのかもしれない。
『友達』 シス・カンパニー
収録日:2021年9月25日
収録場所:東京 新国立劇場 小劇場
作:安部公房
演出・上演台本:加藤拓也
出演:浅野和之 山崎一 キムラ緑子 林遣都 岩男海史
大窪人衛 富山えり子 有村架純 伊原六花 鈴木浩介
西尾まり 内藤裕志 長友郁真 手塚祐介 鷲尾真知子
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