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2019年08月12日00:20

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小さな会話、その10

「僕だって頑張ってるから」
 たまに、この人は、どうしてエロ本屋になったのだろうか、と、考えさせられるような人がいた。男にも女にもいた。いい意味でも、悪い意味でもいた。この男は悪い意味のほうだ。背は高いが見た目がいいというほどのこともない。頭は確実に悪い。読書はしない。カメラなどの趣味もない。何しろ、何ごとにも興味がないのだ。スポーツが好きなわけでもない。むしろ嫌いなのだ。ギャンブルが好きなわけでもない。絶対にやらない。美味しいものが好きなわけでもない。高級料理も安料理も同じ味だと言い張る。音楽も好きでなければ芸術も、花も鳥も月も好きではない。いや、とにかく興味がないのだ。
 いくらエロ本屋でも、本ぐらいは読まないと、仕事にならない、と、そう言っても、本なんか面倒だ、アニメや映画があるんだから、そのほうがいい、と、そう彼は言った。もちろん、エロ本屋にはそうした強者もいることはいた。たとえば、とにかく口先が流暢で女にモテるタイプの男だ。そうした男は大事だった。しかし、彼は、知ったがぶった教えたがりで、どちらかと言えば女には嫌われるタイプなのだ。知ったかぶって相手の言うことはいっさい聞かないが頭がいいわけでもないのだから困ったものだったのだ。頭も悪く、女にもモテず、それでいて読書もしないような男でも、ただ、ただ、スケベというのもいた。それはそれで大事だった。スケベに敏感だし、女にはモテないから撮影現場で行き過ぎのトラブルを起こす。トラブルは困るが、行き過ぎた撮影は歓迎出来た。その上、行き過ぎをその男のせいに出来るので、それはありがたかったりしたのだ。お尻を使われるなんて聞いてないんですけど、と、女が文句を言っても、そうですよねえ、このバカ、お前は今日でクビな、と、言っておけば、女の溜飲が下がるのだ。
 しかし、知ったかぶった教えたがりは、絶対に自分が嫌われる立場には立たない。バカにされることに過剰なほど拒絶反応を起こしてしまうのだ。
 エロ本屋たちの撮影現場はバカで成り立つものなのだ。バカがバカを叱るから、女たちは恥を忘れて自分を晒せるのだ。
 バカにもなれず、スケベにもなれず、プライドばかり高くて、本も好きでない男。どうして彼がエロ本屋になったのか分からなかった。本を読まない人間に校正は出来ない。そもそも本が好きでないなら本など作れるはずもないのだ。女の子に好かれたい尊敬されたいとは思うようだが、そんなものはエロの企画には結びつかない。その上、尊大で怠慢なので、現場での小間使いの役割りもしない。
 しかし、それならエロ本屋なんて辞めたらいいのに、と、そう言っても、彼は、自分は自分なりに頑張っているのに、どうしてそんなことを言うのか、と、怒るのだった。
 もちろん、そんな人は、めったにいなかった。めったにいなかったそんな人が今のマニア世界には増えたような気がするのだ。文学でもなく、変態でもなく、小間使いでもなく、スケベでさえない。ただ、異性の注目を集めたい、異性に尊敬されたい、それだけの理由でマニア世界にいる人たち。そんな人もいるよ、マニア世界なんだから、と、それならよかったのだ。エロ本屋にだって、そんな人はいたのだから。しかし、そんな人ばかりになってしまったら、もう、マニア世界は終わりなのではないだろうか。筆者はそれが不安なのだ。それが寂しいのだ。

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