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2018年07月31日17:10

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あれはやっぱり怖かった、その11

 後になって考えればまったく怖いくないことが、その場では、ものすごく怖かったということがある。いくつかある。
 その沼にはいろいろな因縁があるので、オカルト取材は避けていた。しかし、オカルト雑誌を作っていれば、いつか行くことになるところの千葉の沼。筆者とエロ雑誌仲間の男と二人で取材に行った。その男にも因縁がある。その沼に因縁のある男二人で、そこに行かなければならなくなったことが、まずは、怖かった。彼のワンボックスカーにレコード店が販促に使うアイドルのポスターが入っている。廃棄するために積んであるのだ。廃棄するのは写真だけなのだが、角材とべニアで作られたポスター台ごと筆者たちは沼に持ち込んでいた。
 これを深夜にそっと沼に流すのだ。船のように台は水面に浮く。三メートルほど流したところで写真を撮る。写真を撮り終わったら台に付けておいたロープを引くのだ。これで水面に写る幽霊の出来上がりなのだ。
 懐中電灯を工夫してストロボを使わずに撮る。それが幽霊らしさの演出だった。二人はそんなことばかりしていたので作業は手慣れていた。
 筆者はカメラにフィルムを入れ、三脚を用意してから、同行の男が先に準備を進めている沼の際に向かった。大型の懐中電灯が二本、良い具合に水面を照らしている。相変わらず良い腕だ、と、そう思い、二本の懐中電灯の間に三脚を設置。水面を狙う。いつもなら、女性アイドルのポスターを使うところなのだが、その日は男性グループのポスターだった。なるほど、その意外性がかえってリアリティを煽るのだ。一言相談してから決めるべきだとは思ったが、悪くないアイディアなのだ。
 ボスターは水をかぶり、三人組の男性アイドルは、それが誰か分からない状態にある。服装さえよく見えない。しかし、三人がそこに浮いているようには見えるのだ。筆者は夢中でシャッターを押した。
「ごめんごめん、今、流すから」
 後ろから声がした。大きな女性のポスターを抱えている。
「いや、今回のは、これで十分じゃないか。最高だよ」
「今回って」
「だから、それ」
 そう言って水面を見たが、そこには何もなかった。しばらく震えてシャッターさえ押せなくなっていた。仕事はしなければならないし、同行した彼には私に何が起こったのかが分からなかったので、全て作業を一人でやってくれた。
 そして、ポスター台を沼から回収したところで、彼が叫んだ。見たのだ。水面に写る三人組らしい男たちを。
 二人は、それから東京にもどるまで一言も発せずにいた。しかし、車が都内に入る頃には、どちらからともなく、同じように考えるやつがいるものなんだなあ、と、言い出した。そして、同じオカルトをやる者として、沼からきちんとポスターを回収しないとはマナーが悪過ぎると怒った。
 しかし、その瞬間は、本当に、心臓が止まるかと思うほど怖かったのだった。
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