Hilty思想のエッセンスをまとめましたのでアップします。今回は，質素な生活に関する部分。なお，原典にアクセス可能なように，引用箇所を明示しています。なお，（イタリック）は，読みやすように，私が追加した箇所です。
(事前コメント)
キリスト者のみならず心ある人であればだれでも[ルカによる福音書6章25-34]にあるような質素で心が平安な生活（論語や菜根譚にも同じような記述がある）を送りたいと希望しています。でもなかなか実行できません。ヒルティによると，その最大の敵は， 虚栄心という偶像であるとしています。
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[虚栄心という偶像を廃した質素&平安な生活]
人生の財宝は，堅固な道徳的確認，精神の良い教養，愛，誠実，仕事の能力と仕事の楽しみ，精神および肉体の健康，そして，ほど良い財産である(ヒルティ，”幸福論，第1部”岩波文庫ｐ151より）。（このため），教養を積んだ人は，外見にも，住居や飲食などにも，あまり大きな価値をおくことはない。したがって，贅沢は自分にふさわしくないもの，他人に対しては不正なものとして用心深くさけるだろう。 (ヒルティ，”幸福論，第2部”岩波文庫ｐ166より）。
（このような），善き行為を妨げる大きな障害物は，(人間，富，名誉などによる)偶像である（ヒルティ，”幸福論，第3部”岩波文庫ｐ266より）。とにかく，これらものは，他の効用よりもまず人間の虚栄心に役立つものである（からである）(ヒルティ，”眠られぬ夜のために，第1部”岩波文庫ｐ120)。虚栄心と名誉心は，常に悪い印である。なぜなら，どちらも結局は，自己否定に基づくものであって，そうした自分の内的不満を，うわべを装うことや，他人の好意ある判断で補おうとするものに他ならないからだ(ヒルティ，”幸福論，第2部”岩波文庫ｐ100より）。
（また），人がこの富の偶像から自由にならない限り，精神的自由のことなどまるで問題にならない(ヒルティ，”幸福論，第1部”岩波文庫ｐ212より）。実際的に言えば，決して財産に「心をかけ」てはならない。あるいは，財産を生活の最大事，努力の最終目標と考えたり，財産の多寡によって人間や身分を測ってはならない。富の神マンモンにつかえることは，まさしく魂の病であって，やがては，一種の狂気にもなりかねない。気高い人は誰でも，この病気にかからぬよう十分細心に心を配らねばならない（ヒルティ，”幸福論，第2部”岩波文庫ｐ260より）
実際に名誉ある地位は，富についで，信仰にとって，この世のある限りの最も危険なものである。福音書も，[ルカによる福音書16章15, ヨハネによる福音書5章44,&6章15] にあるように，これについては，いささかの疑点をも残していない。全く自分の意志でしかも頻りに焦ってそれを求めたりて，わざわざそうした危険に赴く者が，自分のより良き生命，かけがえのない価値ある生命を失うにいたるのは，全くの理の当然である(ヒルティ，”幸福論，第2部”岩波文庫ｐ264より）。キリストが「不義な」財神マンモンについて語り，富者の天国にいることのむずかしさを容赦なく告げ，他人から名誉を受けるものは信仰に入りがたい（と説かれたのは，このためである）(ヒルティ，”幸福論，第1部”岩波文庫ｐ211より）。
安逸と享楽をなによりも尊ぶ者は，[ローマ人への手紙8章21](にある)「神の子たちの栄光の自由」を受けるにふさわしくない(ヒルティ，”眠られぬ夜のために，第1部”岩波文庫ｐ216より）。名誉や享楽のみを負っていると，人は結局，第3者に従属する奴隷になってしまう(からである).(ヒルティ，”幸福論，第1部”岩波文庫ｐ153より）。
(これらによる破滅を避けるためには），神のみを畏れ，神のみに使えること，神の他いかなる偶像をも拝せず，ことに人間や財産，名誉を崇拝しないことである (ヒルティ，”幸福論，第2部”岩波文庫ｐ247より）。（言い換えれば），およそ地上のものは，あまりこれを重要視しては，ならない。われわれが，「天に頭を差し入れて」生活していれば，地上の多くのものは，時期にどうでもいいものになってくる。主要事さえうまくいっていれば，その他の小事に重きを置く必要はない(ヒルティ，”幸福論，第1部”岩波文庫ｐ236より）。神の恵みにあずかることを，全て人生の宝や，その点での他人の優越よりも，高く評価するようになれば，その人は，ねたみや虚栄心への素質をも，自ら捨て去ることができる(ヒルティ，”眠られぬ夜のために，第2部”岩波文庫ｐ237より）。
（したがって），利己主義の克服，特に享楽欲の克服こそ，真の教養の秘訣，すなわち，その出発点であり，それを開く本当の鍵である(ヒルティ，”幸福論，第2部”岩波文庫ｐ178より）。(つまり），人間の必要な真の教養には，…（中略）…生来の官能性と生来の利己主義とをより高い関心によって克服すること（が必要である）(ヒルティ，”幸福論，第2部”岩波文庫ｐ178より）。
（このためには），人生の主要事は，常に自分の義務を行い。これに反する心の傾向や異論をあまり気にすまいと，断固たる決意を抱くことである。その次に，これを実行しうるためには，神を信じ，神と常に結ばれていなければならぬという信念が加われば，事はすでに成ったのであり，心は堅固になり，真っ直ぐな道が開けてくる(ヒルティ，”眠られぬ夜のために，第1部”岩波文庫ｐ139より）。力づよい信仰は，生まれながらの利己心を完全に捨てて，己の意志を残らず神に委ねることによって，はじめて得られる(ヒルティ，”幸福論，第3部”岩波文庫ｐ70より）そして，事の成否は，神に委ねるべきである(ヒルティ，”眠られぬ夜のために，第1部”岩波文庫ｐ210より）。
享楽が生活の原理とされたり，官能（最もひろい意味での）が人生の支配力となる場合は，超感覚的事物に対する一切の信仰が間違いなく死んでしまう。官能の支配力と超感覚的なものへの信仰というこの2つの力は，一人の人間のなかで永らく併存することはできないものであって，いずれか一方が碩を譲らなければならない。たとえば，聖職者ががつがつ飲食しているのをみたら，もうそれだけでその人の信仰の程度をはっきりおしはかることができる(ヒルティ，”幸福論，第2部”岩波文庫ｐ266より）。
（また），苦難や禁欲を喜ぶ心の傾向も危険である。これは，時として，密かな名誉欲と結びつくことが（あるからである）。…（中略）…ただ，肉体的快感を重んじ過ぎたり，それをあまりのさばらせてはならないというだけである(ヒルティ，”幸福論，第2部”岩波文庫ｐ270より）。[マルコによる福音書14章4-10,1ヨハネによる福音書12章4]。（また），徹底した厭世家は，常に虚栄心が強い。彼らは，その厭世主義によって多少とも人にこう理解させたがっているのである。すなわち，自分の流儀を見てもらえばわかるように，自分はそこらの賤しい愚民どもとは，元来，別の人種の人間なのだと(ヒルティ，”幸福論，第2部”岩波文庫ｐ100より）。
（さらに），健康に対する配慮も，今日ではもう立派な偶像であって，これに多くの犠牲がささげられる。健康とても，人がそれを正しい仕事のために使わないから，いったい何の価値があろうか。健康は，それを正しく利用しない人に，長く留まるものではない(ヒルティ，”幸福論，第1部”岩波文庫ｐ237より）。
どんなに信仰の進んだキリスト教徒でも，あくまで自然な人間らしい生き方をすべきであって，隠者や柱頭に静坐した苦行者のような生活をしてはならない。そして，人生の価値と使命とを，享楽にも，苦悩や禁欲にも求めず，もっぱら神の意志と委託に従うところの行いに求めなければならない(ヒルティ，”幸福論，第2部”岩波文庫ｐ271より）。
（このように），極端な禁欲主義に陥らず，しかも，（偶像を廃した）気高い簡素な生き方をするのは，すでに遺伝によって高貴に生まれついた魂の確かなしるしである。反対に，贅沢に満足を感ずるのは，成り上がり者の特徴である(ヒルティ，”幸福論，第2部”岩波文庫ｐ193より）。
神のみ心を完全に，しかも，それのみを行おうと一旦決心したならば，まず，たえまなく働き，人間に許された全ての手段を忠実に用い（なければならない）(ヒルティ，”眠られぬ夜のために，第1部”岩波文庫ｐ136より）。
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(事後コメント)
曾野綾子さんは，著書（”善人は，なぜまわりの人を不幸にするのか” 詳伝社黄金文庫版，p116）において，“板谷神父の「（人間に）誤解されるのはどうでもいい」という明快な言葉が，改めて輝くように私の心のなかで響いた。私にも神がいてよかった，と思った”と著わしておられます。初めてこの言葉に接したとき，どのようにしたら，ここまで達観できるのかと，疑問でした。ヒルティにより，“虚栄心という偶像を廃し，人生の価値と使命とを，神の意志と委託に従うところの行いに求めること”だできるようになればいいのかと，思ったものです。
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