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2017年03月27日16:37

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アブ街あの頃(その6)

 渋谷に来ると、懐かしい故郷に帰って来たような錯覚を持つ。どうしてなのだろうか。確かに、渋谷で先輩と会社をやっていたことがあった。しかし、それはエロの仕事ではなかったので、そう懐かしいものでもないのだ。
 道玄坂を上ると百軒店街があり、その先にトロピカルという喫茶店があった。今はもうない。その先の角、交番の手前に寿司屋があり、その二階も喫茶店だったはずなのだが店名は覚えていない。今はない。百軒店街の中にも、その奥にもSМクラブがあった。とても親しくしていたクラブもあった。
 その先、シアターコクーンに向かう道にも何軒かのSМクラブがあった。その中に、ものすごく親しくしていたクラブがあった。場所も覚えている。このマンションだというのをはっきりと覚えている。昔、ここを何度も通ったのだ。マンションはまだあった。今はもう店はないのだから中には入れないが、玄関を開けると細く長い廊下があり、その突き当りに受け付けの机があり、その奥に女の子たちの控室があった。時間がないと、その廊下で撮影をしたものだった。狭い廊下で撮影し、狭い廊下でインタビューを行った。そこまで思い出せるのに、その店の名前も、その店にいたオーナーのことも思い出せないのだ。そんなこともある。
 元の道にもどり、道玄坂をさらに上った。
 筆者のマイナー雑誌に最初に広告を入れてくれた店がそこにあったはずだった。サロンをはじめてからも、その店は健在だと噂を聞いた。こんなことなら、その店の場所を確かめて行ってみればよかったかと後悔しながら、道元坂を下りた。渋谷取材に車で来るときには決まって停めていた立体駐車場に車は停めてある。そこは昔のままだった。
 そのまま帰ろうかとも思ったのだが、もう二つだけ行ってみたいところがあるので足を伸ばした。
 二軒ともパブだ。二軒ともにカウンターバーのようなSМパブだった。二軒ともに筆者は大好きだった。しっかりと場所も覚えていた。しっかりと場所は覚えているのに、そこに懐かしさのようなものはなかった。
 不思議な街なのだ渋谷は。
 たまに、観光で来ている無縁の土地にノスタルジーを覚えることがあるが、渋谷はそんな街なのだ。昔も、そして、今も。何もかもが懐かしい。それなのに何も思い出がない。不思議な街なのだ。
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