『インヒアレント・ヴァイス』
善人などいない。これはハードボイルドのクリッシェだ。PTAのこのテクスト、リアリティのレヴェルでこのことよく表わしている。現実の世界で善人などいない。マーテョンドノヴァンがそれを最もよく表わしていた。秀逸である。
PTAのテクストはアメリカ映画だ。アメリカ人をまず観賞者の対象にしているといった意味で、彼のテクストはアメリカ映画なのである。「自由」も「平等」も、やり方によっては悪にも良いことにもどうだってなる。人々はその「言葉」を見ていながらも、内実が違っている世界で生きている。或いは、それが生まれ得ない世界で生きている。現在に生きる人々がゴーストとして在る。
かつてはまだ不和があった。だから、ヨリを戻せる。しかし、現在はその和それ自体があるのかないのか分からない現状であり、そうしたなかでPTAはゴーストである我々にかつてのアメリカを表わす。信念でも真理でもないもの、それを生きている我々に呼び覚まさせている。
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