『
夏をゆく人々』
イタリア映画祭で先行上映があり、そこでは観れなかったが、映画祭での仮タイトルは『ザ・ワンダーズ』。
さて、どちらの方が内容とあっているのだろうかと思いながら久々の岩波ホール…。
アリーチェ・ロルヴァケル監督は長編2作目でカンヌ映画祭グランプリという偉業を成し遂げたことが喧伝されているが、まさに若き才女というのがピッタリか。
答えをはっきり示さない、見る人によって解釈が変わる可能性のある作品だろう。
イタリアの片田舎で昔ながらの養蜂業を営む一家の話。
貧しいために新型の機械の導入などは到底無理な経済状況。
厳格な父と、まともに学校にも行かせてもらえていないと思われる四人娘。
きっと息子が欲しかったのだろうことは容易に推察がつく。
養蜂業は力仕事の側面があるので、男手は欲しい。(それと古い男社会の価値観を持つ父親像からも)
そこに更生施設のプログラムで、長女と同年代の少年が試験採用される。
父と同じドイツ系の子…。
女性だけの時は(一応は)平等に扱われていたのだが、この少年の存在が曲がりなりにもバランスが取れていた家族の力関係に変化をもたらす。
長女は蜂を扱うのが天才的に上手い。これは天性なのだろうか?
脱線するが、監督も劇中の家族と同じく父がドイツ人で母がイタリア人なんだそう。
とすれば、ヒロインの少女は監督の分身か?アリーチェには有名な女優のアルバが姉にいるので、ポジションは少し違うか。
いずれにしろ姉妹という組み合わせは一緒なので、どこかヒントくらいにはなっているのかもしれない。(一家の母親役に姉アルバをキャスティングしているくらいだし…)
話を戻すと、地元で昔ながらの手法で農業を営む人々を取材するTV番組が登場する。
こんな辺鄙なところにも文明が訪れようとしている。
長女と父親の関係を探ってみると、古い世界の代表が厳格な父親で、娘が逆ということなのか。
イタリアにも近代化の波が押し寄せ、それを止めることはできない。
ロケの見事さと子供たちの愛らしさは誰もが認めるところではないか。
今となっては古典的機材である16ミリにこだわった撮影も作品のテーマと重なる想いがする。
そもそも素材となるハチミツ自体が追憶を示すものか。
幻想とも現実ともつかない最後のショットこそ監督の想いが伝わるようだ。
おそらく原題に近いであろう『ザ・ワンダーズ』はなるほどとは思う。
詩的な邦題は仕方ないかな…。(笑)
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