『
奪還者』
豪州と終末世界の組み合わせというと『マッドマックス』シリーズが思い浮かぶ。
おりしも新作が発表になるタイミングで、『アニマル・キングダム』で一躍脚光を浴びた豪州人デヴィッド・ミショッド監督による終末映画が公開。
舞台は世界経済崩壊から10年後の世界。
そこではあらゆるものが価値を失ってしまっている。物質的なモノばかりではなく精神的なモノさえも…。
一度、失った信頼感を取り戻すのは容易でないことは誰しも経験していることだろう。
一人の孤独な男エリックが、愛車を盗まれて取り返そうと探しまわる。
いったい、なぜそれほど固執するのか…。
そこに隠された謎を紐解くと彼の喪失感の大きさが伝わる。
エリックは無秩序になってしまった世界に、何か価値あるモノを取り戻そうとしているのか。
いくら周囲が無法であっても自分も身勝手になると大義がなくなる恐れもあるので共感を得るのは難しいかもしれない。
それでも不思議な魅力を感じさせるのは、おそらくは彼が常に正直に生きているからに違いない。
原題「The Rover」には様々な含みもあろうが主人公を表す「流浪者」という意味だろう。
孤独な主人公エリックを演じたガイ・ピアースも強烈な存在感を見せるが、少し知恵おくれ気味の若者レイを演じたロバート・パティソンは完全に役者として一皮むけた感がある。
口下手でキチンとコミュニケーションが取れないエリックと、家族から見捨てられたレイの奇妙な友情が横の広がりを見せる。
雄大な豪州の景色をスーパー35mmでとらえたナターシャ・ブライエ撮影監督の映像が魅力的。自然の美しさとともに圧倒的な力に人間の無力感を感じさせる。
デジタル撮影だったらここまで表現できたのだろうか?
大事なキーワードは、月並みだが<信頼>なんだろう。
そう考えると、この世界に希望は残っているのだろうかと心配にもなる。
7月25日より公開
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