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2013年11月12日12:22

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藪の中

 昨日の昼休み、文藝春秋12月号に掲載されている村上春樹さんの新作『ドライブ・マイ・カー』をドトールで読んでいるときのことだった。ぼくのすぐうしろで詐欺かもしれない会話が聞こえてきた。
「1年に10歳若返ります」という怪しげな声がしたのでピンときた。耳をそばだて、何気なくうしろを振り返った。
 70歳ぐらいの男と60歳ぐらいの男がテーブルをはさんで座っており、60歳ぐらいの男が相手に熱心に説明していた。
「私も驚いたのです。湯船に浸かっていて、何だかゴミみたいなものが浮かんだのですが、これは何と自分の皮膚。つまり若返って代謝がよくなってそういう現象が起きたのです」
「それは事実ですか?」と70歳ぐらいの男が冷静な口調で尋ねた。
「私は自分が体験したことしか話しません。最終的には35歳まで若返ります」
「それは科学的に証明されているんですか?」
「あー」と60歳ぐらいの男は面倒くさそうに否定し、「科学とか、そういう話じゃないんです」と訳の分らないことを言った。そして、それが飲み薬なのかどこかに通院するのか知らないが、とにかく、若返らせてくれる先生を紹介するのに30万円が必要なのだと説明していた。
 こんな鉄板な怪しい話を70歳ぐらいの男性がまったく相手にしていないなら楽観できるのだが、興味もないならわざわざ男に会うこともないだろうと思われ、ぼくは何かしたほうがいいのかなと思いを巡らせた。
 そうしていると、情けないことに、眠ってしまった。前回の日記で電車で座るとすぐに熟睡してしまうと書いたが、眠いのはドトールでも同じだった。ハッと目覚めたときには30分近くが経過していた。
 何気なく、うしろのテーブルを振り返った。
 老人が二人座っていた。先ほどの70歳ぐらいの男と同年代とおぼしき男で、60歳ぐらいの怪しい男はいなくなっていた。
 これはどう解釈すべき話なのだろう。
 若返りの話はどうなったのだろう。70歳ぐらいの男は、また別の怪しい話を聞かされているのだろうか。今度の男性は声が低く、何を話しているのか全然聞きとれない。
 それとも今いる二人は実は刑事で、さっきの男の容疑を固めているところなのだろうか。

 とにかくぼくは自分が関わる話ではなさそうだと判断し、ドトールをあとにした。
 そういうわけで真相は藪の中である。
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