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2026年01月22日20:13

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「汚名」アルフレッド・ヒッチコック〜愛とスパイ活動の板挟みのラブ・サスペンスの名作〜

アルフレッド・ヒッチコックがイングリッド・バーグマン主演で撮った映画は3本ある。『白い恐怖』(1945)とこの『汚名』(1946)、『山羊座のもとに』(1949)だ。『汚名』の相手役はケーリー・グラント。ケーリー・グラントもヒッチコック作品が多い。『断崖』(1941)、『汚名』、『泥棒成金』(1955)、『北北西に進路を取れ』(1959)の4本。ハワード・ホークスのコメディ『赤ちゃん教育』(1938)、『ヒズ・ガール・フライデー』(1940)など、ケーリー・グラントはどちらかというと軽快なお喋りで女性を口説き、快活に動き回る二枚目の印象が強いが、本作では愛する女性を他の男の懐に女性スパイとして潜入させる苦渋の男を演じており、口数は重い。ひたすら本心の愛情を押し殺して、イングリット・バーグマンに対して非情に接する。この映画はサスペンスよりもラブストーリーの要素が強い。愛とスパイ活動との板挟みという意味では、ブラッド・ピットとマリオン・コティヤールのスパイ同士の夫婦という『マリアンヌ』(2016)を思い出したが、この映画の影響を受けているのかもしれない。多くの映画に影響を与えたヒッチコックの名作の1本と言えるだろう。

冒頭のケーリー・グラントは後頭部しか映らない。アリシア(イングリット・バーグマン)の父は国家反逆罪のスパイとして裁判で裁かれる場面から始まり、その憂さ晴らしで開いたパーティーで、アリシアは酒をたんまり飲んで酔っ払う。そのパーティーにいたのがアメリカの連邦警察官のデブリン(ケーリー・グラント)という男。ずっと後ろ姿しか最初は出てこない。デブリンを見て気に入ったアリシアはパーティーのお開きの後、「ピクニックに行こう」と酔っ払い運転をしながらドライブに出かかる。警官に制止されるも、デブリンが警察官であることで飲酒運転は見逃される。リオ・デジャネイロでナチ一味の動きを探る諜報活動をしていたデブリン、首謀者セバスチャンをよく知っているアリシアを利用する目的で近づいたのだった。ところが二人はすぐに愛し合う仲になっていく。酒浸りの日々から変わろうとするアリシア。

リオ・デ・ジャネイロのホテルの一室でキスをし合う二人のシーンが妙に艶めかしい。何度もキスを交わしながら、電話で自分への伝言がないか確かめるデブリンだが、その電話で話ながらも、二人のキスは止まらない。なんでも、ヘイズ・コードの自主規制(キスは1回につき3秒以内)から逃れるために、喋りながらのキスを繰り返したそうなのだが、それが逆に艶めかしいシーンになっている。このシーンのイングリット・バーグマンの色気を見るだけもこの映画の価値はある。セバスチャン邸に入り込むスパイとしての指令が上司から下り、それをデブリンが愛するアリシアに伝える。もともと彼女に好意を持っていたセバスチャン(クロード・レインズ)は、すぐにアリシアに夢中になり、結婚しようと言い出す。セバスチャンの懐に飛び込むjために肉体関係を持ち、情報を聞き出すアリシア。その報告を聞くデブリンは、自らが命じたにも拘わらず、裏切られたような気持ちになるも、結婚を相談に来たアリシアにも冷たく「問題ない」と言い放つ。

ワイン、コーヒー、鍵などの小道具が効果的に使われる。原子爆弾のウラニウム鉱が入ったワインが隠してあるワイン貯蔵庫の鍵を手に入れて、デブリンが潜入する場面のサスペンスがこの映画の見どころだ。アリシアが鍵を盗んだ直後に右手の手のひらにキスするセバスチャン。盗んだ鍵を握っていると思った右手を開くがそこにはなく、左手に握った鍵を抱き合いながら素早く床に落とすアクション。そしてパーティーのロングの俯瞰ショットからアリシアの左手に隠し持っている鍵のアップまで、クレーンカメラが寄って迫っていく。パーティーで少なくなっていくワインボトルにハラハラしながら、貯蔵庫に忍び込む手はずを相談する二人。二人のことを監視するようなセバスチャンの視線。ワイン係の執事の動きや階段を降りてくる影。そして咄嗟にキスをして誤魔化す二人。張り詰めたサスペンスのなかで、二人の愛が一瞬、甦る。

セバスチャンがアリシアがスパイだと気づいた場面の俯瞰ショットも上手い。明るい部屋の光が暗い1階の広間に伸び、長い影とともに階段を昇ってくるセバスチャン、そして苦渋に満ちた横顔がアップになる。母親の部屋に相談しに行って、「アメリカのスパイでした」と言う場面の上からの顔のアップ。印象的な映像だ。ラストも階段を上手く使っている。毒殺されそうになるアリシアを部屋から救い出したデブリン。アリシアを抱きかかえながら階段を降りていく。仲間に知られないように付きそうセバスチャンと母。階下で様子を見守る一味のメンバー。彼女がスパイだったと分かったら、そんなスパイと結婚した間抜けなセバスチャンは殺される。その緊張の視線のサスペンスのなかで、階段を降りていくアクションもドラマチックな場面になっている。車に乗れずに残されたセバスチャンは、死刑台のような玄関前の階段を昇っていく。扉の前で不審気にセバスチャンの見ている二人の男とセバスチャンの後ろ姿のショットで映画は終わる。影と光の演出が見事なラストシーンだ。


1946年製作/アメリカ
原題または英題:Notorious

監督:アルフレッド・ヒッチコック
脚本:ベン・ヘクト
撮影:テッド・テズラフ
音楽監督:C・バカライニコフ
音楽:ロイ・ウェッブ
編集:スローン・ウォース
キャスト:ケーリー・グラント、イングリッド・バーグマン、クロード・レインズ、ルイス・カルハーン、レオポルディン・コンスタンティン、ラインハルト・シュンツェル、モローニ・オルセン
☆☆☆☆4
写真引用コピーライトブレーントラスト

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