ネタバレあります。
極力台詞を抑制し、アクション中心にシンプルに復讐を遂げていく男を描いたハードボイルド映画。多くの映画監督に影響を与えているカルト的作品。なるほど、男は亡霊のようだ。
フィルム・ノワールの定番ともいうべき裏切りと復讐のドラマを、ヌーヴェルヴァーグの型破りな手法とアメリカ西海岸発祥のサイケデリック・カルチャーを交えて描き、それまでのハードボイルド映画を刷新した。マーティン・スコセッシ監督は、「ヌーヴェルヴァーグの新たな表現を初めてクライム・アクションに応用し、ジャンルを再定義した」と讃え、スティーヴン・ソダーバーグ監督は、自作の中で「何度も盗ませてもらった」と告白している。また、クリストファー・ノーラン監督は、「主人公のアイデンティティの問題に切り込んだこの作品は、とにかく素晴らしい」と賛辞を惜しまない。(公式HPより)
最初、あまり説明のないままに、いろんな映像が時間軸を交錯させながら描いていくので混乱する。主演のウォーカーはリー・マービン。最初の舞台は脱出不可能と言われた刑務所アルカトラズ、サンフランシスコ湾に浮かぶ小島だ。ドン・シーゲルがクリント・イーストウッド主演『アルカトラズからの脱出』(1979)で、この刑務所を舞台にした脱走劇を描いている。1962年に閉鎖され、今は廃墟となった刑務所で、組織が金を受け渡しをしているという情報を知ったウォーカー(リー・マービン)と戦友マル(ジョン・バーノン)は、その金を横取りする。深夜に光とともに広場に降りてくるヘリコプター。金を受け取った男たちを殺して金を奪う二人。ところが、マルはウォーカーを裏切り、銃を発砲する。そしてウォーカーの妻リン(シャロン・アッカー)と一緒に逃げるのだ。「夢だ、これは夢だ…」。薄れゆく意識の中、ウォーカーの脳裏でさまざまな記憶と幻想が交錯する―。
よく分からない男たちがぎっしりと集っている中で(第二次世界大戦に従軍した兵隊たちの同窓会らしい)、ウォーカーはマルに押し倒される映像が挿入される。「助けてくれ」と言うマル。この強奪作戦は金に困ったマルから誘われたのだろうということが、後からく分ってくる。マルとウォーカーは親友同士だった。ウォーカーは妻のリンと出会い恋愛関係になり、マルも含めた三角関係のようになっていたことが回想される。車の中での3人、真ん中のリンがウォーカーのサングラスを取って自分でかけて、それをマルに渡す青春映画のような美しい回想がある。トリュフォーやゴダールの映画のような男2人と女1人の三角関係。そしてウォーカーの妻になったはずのリンは、マルと関係を持つようになり、二人はウォーカーを裏切って逃げたのだ。
長い廊下を靴音をコツコツとさせてウォーカーが歩く。ウォーカの復讐の始まりだ。無限に続くような奇妙な鏡の映像が挿入される。メイクするリンの目のアップ。鏡。リンの部屋に飛び込んで、拳銃をベッドにぶっ放すウォーカー。彼の怒りが伝わる場面だ。しかし、マルはすでにどこかへ消えていた。罪の意識から薬を飲んで自殺するリン。美しい脚が無造作に投げ出されベッドで横たわっているリンを発見するウォーカー。そして、いつの間にかリンの死体はなくなっており、ベッドには白い猫がいる。そして家具も何もなくなった空っぽの部屋で一人ウォーカーは座り込む。香水や化粧水などのビンが割れ、極彩色の色が混じり合うサイケデリック映像。なんの説明もなく、奇妙なカットが次々と積み重ねられる。すべては幻覚なのか。
マルを探すため自動車販売会社を訪ね、試乗車を暴走させるウォーカー。サイケデリックなゴーゴークラブのステージの裏で暴れる場面では、スクリーンに女の顔が大写しになる。映像的な遊びが随所に挿入される。そしてリンの妹クリス(アンジー・ディッキンソン)に再会したウォーカー。マルはリンとうまくいかなくなり、妹に手を出そうとしていた。ホテルの最上階のペントハウスで暮らすマルを、ウォーカーはクリスと望遠鏡で覗く。黄色い服のクリスと黄色の望遠鏡、黄色のシャツのウォカーといったように色彩設計も工夫を凝らす。クリスと抱き合っている隙に、部屋に忍び込んだウォーカーはマルを裸で追い詰め、ホテルの上から落下させる。
裏切り者のマルを殺しても、ウォーカーの復讐は止まらない。マルの上にいる組織に、俺の金「9万3千ドルを返せ」と、ボスと思われる男たちに迫っていく。貯水場のような場所での銃撃、プールのある豪華な別荘に忍び込んだウォーカーとクリスはベッドで抱き合うが、抱き合って回転する度に、クリスはリンになり、ウォーカーはマルになる。2人の男と姉の妹という2人の女が絡み合うこの映画は、代わりになる男と女をそれぞれが捜し求める奇妙な幻の関係のようである。
最後は再び、ヘリコプターが空から降りてきてお金とブツを交換する。ウォ-カーに金は渡されるはずなのに、ウォーカーは金を受け取るために姿を見せない。その場所は、最初のアルカトラズ刑務所跡地ではなく、その小島が見える場所であり、アルカトラズにズームインして映画は終わる。
この奇妙な復讐劇は、もともと死ぬ間際のウォーカーの幻想だったのか。あるいは死の遣いである亡霊としてのウォーカーの復讐劇なのか。ハッキリしたことは分らないが、亡霊ウォーカーが妻のリンを自殺させ、裏切り者の親友マルを裸で自ら誤って落下させた。ウォ-カーは、誰もいないベッドや電話に銃をぶっ放すが、自らの銃で人を殺してはいないのだ。組織の男たちも、罠を仕掛けて組織の者同士で殺させているのだ。ウォーカーは幻の殺し屋なのだ。マルがなぜウォーカーを裏切ったのか、妻のリンが何を思ってマルと逃げたのか、映画は何も描かない。ウォーカーの復讐心とリンへの思いだけが描かれているのだ。いろんな人に影響を与えたカルト的作品なだけに、とても面白く奇妙な犯罪映画だった。多くの語らないリー・マーヴィンがカッコいい。
1967年製作/92分/G/アメリカ
原題または英題:Point Blank
配給:コピアポア・フィルム
監督:ジョン・ブアマン
原作:リチャード・スターク
製作:ジャド・バーナード、ロバート・チャートフ
脚本:アレクサンダー・ジェイコブス、デビッド・ニューハウス、レイフ・ニューハウス
撮影:フィリップ・H・ラスロップ
美術:ジョージ・W・デイビス、アルバート・ブレナー
編集:ヘンリー・バーマン
音楽:ジョニー・マンデル
キャスト:リー・マービン、アンジー・ディキンソン、キーナン・ウィン、キャロル・オコナー、ロイド・ボックナー、マイケル・ストロング、リースジョン・バーノン、シャロン・エイカー、ジェームズ・シッキング、サンドラ・ワーナー
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写真引用(C)2025WBEI
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