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2025年07月15日18:40

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「淑女は何を忘れたか」小津安二郎〜大阪娘が夫婦の間を掻き回す戦前のコメディ〜

小津安二郎のトーキー第2作。1937年の小津出征前の戦前の作品である。小津作品には欠かせないカメラマンとなった厚田雄春と最初の仕事だそうだ。ローアングルで動かない小津スタイルはまだ確立されておらず、移動撮影が数カ所(大学の教室、桑野通子と斎藤達雄の歩きショット)ある。山の手のブルジョワ階級の家庭内コメディ。

高級車のサイドミラーとフェンダーの後ろにカメラを固定させて移動するちょっと変わった映像で始まる。運転していた坂本武と飯田蝶子のブルジョワ夫婦。狐?の襟巻きをしたマダム飯田蝶子がお屋敷の前に降り立つ。『長屋紳士録』(1947)の飯田蝶子とは雰囲気がまるで違う。家の前にいた屋敷の息子の服装もお坊ちゃま風。女主人の栗島すみ子と未亡人の吉川満子、そして飯田蝶子の女性3人の台詞の掛け合いがバカバカしくて面白い。この女性3人が物語の中心なのかと思いきや、飯田蝶子も吉川満子もあまり出てこず、この屋敷の主人である大学のドクトルこと医学博士の教授の斎藤達雄と粟島すみ子夫婦、そして大阪から遊びにやって来た姪の節子(桑野通子)、そして教授の部下である岡田(佐野周二)が主な登場人物。この映画では、姪の節子を演じる桑野通子が好奇心旺盛な現代娘で、この夫婦を、そして映画全体を引っ掻き回している。大阪弁でポンポン言いながら、車は運転するし、タバコを吸って酒も飲む。遊び放題、好きなことし放題の勝ち気な大阪娘だ。『宗方姉妹』(1950)の高峰秀子であり、『彼岸花』(1958)の山本富士子であり、『秋日和』(1960)の岡田茉莉子の役回りだ。

いつも週末にゴルフをする斎藤達雄だが、その日はあまり気乗りがしない。そんな夫を泊まりがけのゴルフに送り出し、妻の粟島すみ子は友達の飯田蝶子らと芝居見物。渋々家を出た斎藤達雄は部下の佐野周二のところにゴルフバックを置いて、「今晩泊めてくれ」と言う。そして、馴染みのバーへ繰り出すのだ。そこへ姪の桑野通子がやって来て、「おじさま、芸者がいる料亭へ連れて行って」と言い出す。芸者の踊りも見てすっかりご機嫌の桑野通子。斎藤達雄は「もう酒はいい」と言っているのに、グイグイと酒を飲み続ける。そして酔って歩けなくなり部下の佐野周二に家まで送らせる。深夜1時過ぎに酒に酔って帰ってきた桑野通子をガミガミと怒り続ける粟島すみ子だが、桑野通子は勝手に寝てしまう。一方、伊豆でゴルフをしていることになっている斎藤達雄は、伊豆から奥さんにハガキを出すように友人の坂本武に頼んでいた。ところが翌日は雨。ハガキには「いい天気でゴルフ日和」なんて書いてしまった。ゴルフに行かなかったことがバレると気を揉んで、桑野通子にハガキを上手く妻に見せないようにしてくれと頼むのだが、粟島すみ子はハガキを見て、ゴルフに一緒に行ったはずの坂本武が雨の中のゴルフで風邪を引いたという話を聞く。それで不審に思った妻は夫を問い詰めるのだった。

なんてことはない嘘を夫がついたばかりに、夫婦の間に出来てしまった亀裂。激怒する妻に対し、ひたすら許しを請うおじさんを見て、桑野通子はもっと夫らしく毅然とした態度で臨むようにけしかける。すると斎藤達雄は妻の粟島すみ子に平手打ちまでしてしまうのだ。結局、桑野通子が真実を告げ、斎藤達雄は手をあげたことを謝り、納得した様子の粟島すみ子。「おばさんから謝らせればいいのに」と釈然としない桑野通子だったが、「女房には下手に出て、花を持たせてやるのが夫婦円満の秘訣だ。」「逆手だよ」と言うと、「逆手かぁ。いいこと聞いた。」と妙に納得した桑野通子。そして大阪に帰っていったのだった。ラストは、夫婦で仲睦まじくコーヒーを入れて、チャイムの音とともに明かりが一つずつ消えていく。夫婦間で久しぶりのセックスがほのめかされて終わる。

1階が和室。2階が洋間となっており、書斎もあるような教授の部屋がある。姪が酒まで飲んで夜更かししたことを「キツく叱ってください」と妻に言われ、行動をともにしていたのに妻の前で叱るフリをする斎藤達雄と叱られるフリをする桑野通子。妻がいなくなったことで普通の会話に戻ると、部屋の扉がまた開く。それでまた叱るフリを始める二人だが、誰も入ってこない。桑野通子が確かめに行くと、風で扉が開いただけだった。「なんや、風や」と言って叔父さんのボディにパンチをする桑野通子。そんなコメディ的要素が描かれる。この映画では、斎藤達雄と姪の桑野通子が、同じようにハットを被り、コートを着て歩く2ショットがある。さらにバーのカウンターで二人ハットを被りながら酒の飲む。そんな二人の相似形が叔父さんと姪の間で演じられるところが小津らしい。ちなみに吉川満子の息子の家庭教師としてやって来る佐野周二だが、算数の問題に苦戦している。そこへ息子の友達の突貫小僧(青木富夫)が入って来て簡単に解いてしまうのだ。そして地球儀を回して国当てゲームをするのだが、流行歌のようなヘンな歌を歌いながら遊ぶところも面白い。

そして伊藤宣二の音楽がハワイアン風、スチールギターにウクレレといった陽気な音楽なのだ。姪の桑野通子のイメージなのだろう。1937年は日中戦争開戦の年だが、なんだか軽いタッチのコメディ映画で、時代がまだ明るかったことを示している。


1937年製作/71分/日本
配給:松竹

監督:小津安二郎
脚本:伏見晁、ジェームス・槇
撮影:茂原英雄、厚田雄春
音楽:伊藤宣二
キャスト:粟島すみ子、桑野通子、斎藤達雄、佐野周二、坂本武、飯田蝶子、八雲恵美子、上原謙
☆☆☆3
(C)1937松竹株式会社
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