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2026年09月29日21:43

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「スミス夫妻」アルフレッド・ヒッチコック〜演技と反復のロマンチック・コメディ〜

アルフレッド・ヒッチコックの殺人事件もスパイも出てこないアメリカで製作した唯一の純コメディ作品。1941年製作、ヒッチコックがアメリカに渡った第3作で、夫婦のロマンチック・コメディであり、スクリューボール・コメディと言える。なかなか離婚出来ない『新婚道中記』(1937)や離婚に至らない『結婚5年目』(1942)と同じ流れにある喧嘩しつつも離婚しない夫婦の物語だ。

ニューヨークで弁護士をしているデイヴィッド(ロバート・モンゴメリー)とアン(キャロル・ロンバード)のスミス夫妻は結婚して3年たち、お互いへの愛情は変わらないものの、最近は喧嘩ばかり。しかし喧嘩しても仲直りするまでは寝室を出ないルールを二人で決めている。おかげでデイヴィッドは3日間会社に行かず寝室に籠りきり。過去に最長8日間という記録もある。召使が朝食を運びに来ても、アンはベッドに寝ていて、デイヴィッドは一人でトランプをしている。喧嘩はするものの仲はいいのかもしれない。それがあるとき、結婚手続きの管轄区域の違いによる法的不備から、結婚の無効を言い渡される。結婚をし直せばいいだけの話なのだが、そのことをデイヴィッドがすぐにアンに言い出さなかったことで、アンが怒りだし、話がややこしくなる。

結婚していて結婚生活を3年もしているのに、法的には結婚していないことになった二人。独身だと言って百貨店に勤めだしたアンは、百貨店の社長に食事に誘われ、それを見たデイヴィットは嫉妬に駆られ、彼女の職場に乗り込んで大騒ぎ。独身しか雇えない百貨店で、独身なのか既婚者なのかの言い合いになって、結局はクビになるアン。そして今度はデイヴィッドの同僚の弁護士ジェフ(ジーン・レイモンド)と付き合い始め、両親に紹介して婚約までしそうになる。それもデイヴィッドが妨害して、その度にムキになってアンは反発して、ますますジェフに近づき、彼の優しさにほだされていく。

アンとジェフがデートの最中に遊園地の遊具が故障して、高いところで宙吊りになったまま身動きが取れなくなる場面がある。雨が降り、びしょびしょに濡れながら空中で我慢している二人。高いところから下を見下ろす恐怖のサスペンスが大好きなヒッチコックだが、サスペンスでもないのに本作では二人を高みで宙吊りにさせる。どれだけ上下の高低差の演出が好きなのかと思う。そんなことがあっても我慢強く、優しいジェフ。彼の部屋で暖炉の前で髪を乾かす色っぽいアンを前にしても、ジェフは紳士的に振る舞う。アンは体を温めるように普段は飲まない酒を飲ませると、ジェフは酔ってフラフラになる。それでも自制する。

そんな酔っぱらったジェフを反復するように、最後にデイヴィッドがアンが来るのを待ちつつ、雪山のコテージで気を失う場面がある。妻のアンの心を取り戻したいデイヴィッドは、寒さを堪えるために酒を飲み過ぎたのか意識を失い、うわ言を言う。しかし、それは彼女の同情を引こうとするデイヴィッドの演技だった。一時は「可哀そうに」と心配したアンだったが、デイヴィッドの演技だとバレてしまい、また喧嘩は再燃。今度はアンが帰り支度をする隣のデイヴィットに、壁越しの嘘の演技で応酬する。デイヴィッドに自分を諦めてほしいための彼女の演技は、再び彼にやきもちを妬かせ、二人はさらに熱い喧嘩になる。そんなデイヴィッドを殴ることもしない冷静なジェフに、熱くなっているアンはガッカリする。気が強く激昂するアンにジェフの恋も冷め、親も現れて二人の婚約は破綻。結局、喧嘩するほど仲がいいデイヴィッドとアンの二人ということで、夫婦は元鞘に戻ってハッピーエンド。

演技すること、騙すこと、嘘をつくことは、ロマンチック・コメディの定石であり、この「演技」に騙されたりしつつも愛を確認する作業こそがハッピーエンドへの道である。愛していても、強がって冷たくしたり、喧嘩したり、愛は演技の駆け引きでもある。『特急二十世紀』では死にそうな演技をして、愛する女に契約書にサインさせたし、『レディ・イヴ』は詐欺師として騙し続ける女の話だった。ビリー・ワイルダーも『お熱いのがお好き』などでも変装や演技を効果的に使う監督である。ロマンチック・コメディではないが、エルンスト・ルビッチの『生きるべきか死ぬべきか』は、ゲシュタポに扮して命がけの演技で生き延びるコメディだった。

雪のコテージで気を失ったデイヴィッドの髭をアンが剃刀で剃る。最初の家での喧嘩の後でも髭を剃る場面があった。髭を剃る行為が反復されているのだ。夫が寝転がったまま妻に髭を剃ってもらうアクションこそが、二人の愛を確認するアクションなのだ。その反復が上手く使われている。「演技」と「反復」こそが、コメディの定石であり、欠かせないものだと言えよう。


1941年製作/95分/アメリカ
原題または英題:Mr.and Mrs.Smith

監督:アルフレッド・ヒッチコック
製作:ハリー・E・エディグトン
原作:ノーマン・クラスナー
撮影:ハリー・ストラドリング
音楽:ロイ・ウェッブ
美術:バン・ネスト・ポルグレイズ
キャスト:キャロル・ロンバード、ロバート・モンゴメリー、ジーン・レイモンド、ジャック・カーソン
☆☆☆☆4
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