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2026年09月27日13:19

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「モネと時間旅行」セドリック・クラピッシュ〜写真と絵画の競合関係〜

かつてパリに行った時の「オランジェリー美術館」でのモネの「睡蓮」体験が忘れられなくて、モネの名前に惹かれてこの映画を妻と観に行った。まさにアート・エンターテインメント映画であり、気軽に観られるちょっと出来過ぎの映画である。フランスのセドリック・クラピッシュ監督は、『猫が行方不明』(1996)、『青春シンドローム』(1994)、『PARIS パリ』(2008)、『パリのどこかで、あなたと』(2019)といった作品を見ているが、群像劇が得意で、点と点をつなげて線とし、面とするような構成力の巧みな監督というイメージだ。本作もノルマンディーの屋敷を巡って4人の集まった親族たちの現代と19世紀の「ベル・エポック」の時代のアデルという女性の人生を行き来しながら、時間を超えてそれぞれの人生が重ねられていく構成力が巧みな映画だ。

まさに「オランジェリー美術館」のモネの「睡蓮の間」で、デジタルクリエイターのセブ(アブラム・バプレ)が仕事に悩む姿から物語は始まる。睡蓮の淡い色彩の絵をバックに派手な色彩の服を着たモデル(セブの恋人)を撮影しており、そのモデルの服の色が背景の絵と合わなくて、「絵の色を変えて調整すれば?」などと不遜な発言をするモデル。デジタル加工で何でも処理してしまう現代のアートを風刺するようなシーンがまず描かれる。

そして100年以上にわたり閉ざされていたノルマンディーの屋敷を土地開発のために売ってほしいと、相続権を持つ親族たちが集められる。互いに面識のない30人以上の一族。そのなかから、モデルと歌手の二人の女性の間で揺れるデジタルクリエイターのセブ、定年間近の真面目な中学教師アブデル(ジヌディーヌ・スアレム)、交通関係のエンジニアで仕事熱心だが恋人とトラブルを抱えているセリーヌ(ジュリア・ピアトン)、自由で陽気、少しお節介な養蜂家ギイ(ヴァンサン・マケーニュ)の4人がノルマンディーの古い屋敷の調査に向かう。そして古びた屋敷から印象派らしき絵画、古い写真の数々、そして手紙などが見つかる。4人がそれらの秘密を解き明かしていく中で、かつてこの屋敷に住んでいたベル・エポック時代のアデル(スザンヌ・ランドン)という女性の人生を辿るようになる。映画は現代の4人とベル・エポック時代のアデルを、編集で直接つなぎ合わせて交互に描きつつ、意外な事実にたどり着く。セブが歌手のミュージックビデオを撮影する現代のパリが、一瞬で19世紀のパリの同じ場所へと移り変わるのだ。ノリのいい音楽や扉を閉めるアクションなどで、一瞬で時代が変わる。まさに時間旅行だ。

映画は観客を楽しませるために、屋敷に集まった4人がギイが持ってきた怪しげな薬草で、19世紀の過去へトリップする場面まで描かれる。そこには、ヴィクトル・ユゴーがいて、ルノワールやセザンヌ、そしてクロード・モネと写真家のフェリックス・ナダールがいる。さらに笑えるのが、モネの絵画「印象・日の出」を痛烈に批判した当時の有名な批評家ルイ・ルロワに、アブデルの教え子で現代美術の専門家カリクスト(セシル・ドゥ・フランス)が、「あなたは何も分かっちゃいない!」と食って掛かる場面まであるのだ。モネの絵を、「描きかけの壁紙のほうがまだマシだ」「単なる印象にすぎない」と酷評したルイ・ルロワ。彼の批判が「印象派」の語源になったと言われているそうだ。

19世紀のアデルには、絵描き志望のアナトール(ポール・キルシェ)と写真家の卵ルシアン(バシリ・シュナイダー)の2人の男友達ができる。それはそのまま、アデルの母であるオデット(サラ・ジロドー)がかつて二人の男性との間で揺れていたことと重なり合う。それが写真家のフェリックス・ナダール(フレッド・テスト)と若きクロード・モネ(オリビエ・グルメ)であったのだ。ちょっと出来過ぎの展開なのだが、それはサービス精神あふれるエンタメ映画ならではのことである。写真家を目指すルシアンは、「写真が発明されて、絵画の時代は終わる」と友人の画家志望のアナトールに言う場面がある。現実をありのままに克明に記録する写真の誕生は、現実を写し取る絵画にとっては大きな脅威だった。「本物そっくりに描くこと」は写真にはかなわない。絵画は絵画にしかできない手法を追求する。神話や宗教画などの題材から現実を描く写実主義へ、さらにリアルに現実を描く写実主義的手法から、「時間と光の移り変わり」を捉える「印象派」へ。映画では若きモネが、「印象・日の出」を描いている場面がある。恋人だったオデットが、朝日をオレンジ色に描くモネに、「太陽はこんな色をしていないわ」と言うと、「さっきまではこんな色だったんだ」と言う。色は時間とともに刻々と変わっていく。その一瞬の光と色の輝きを写し取ることこそ、モネの絵画であり、印象派の画家たちの手法であったのだ。それは当時の「写真の誕生」という時代背景があってこその変化だったのだろうと映画を見て改めて思った。

サービス精神あふれるアート・エンタメ映画は、最後に「シヴェルニーのモネの庭」まで描いてくれる。モネは各地へ行く旅をやめて、この庭園に留まり「旅」を続ける。そして刻々と移り変わる色の変化を晩年まで絵に描き続ける。フェリックス・ナダールの写真とクロード・モネの絵画、芸術の大きな転換点ともいえる19世紀のベル・エポック時代の写真と絵画の幸福なライバル関係が描かれている。芸術やアート好きには単純に楽しめる映画である。

<追記>
映画の原題は「La Venue de l'avenir」<未来の到来>といった意味で、邦題に「モネ」を入れたのは日本人がモネ好きだからかと思われる。映画の中で写真の普及だけでなく、「シネマトグラフ」の上映会の話も出てくる。19世紀末の写真、そして映画が誕生する未来への変革期と、現代のAIやSNS、Web会議のデジタル変革期を重ね合わせている。現代の登場人物たちはスマホを手放せず、振り回されている様子も描かれる。そして出演者たちのキャスティングでも、スザンヌ・ランドンもヴァンサン・マケーニュもサラ・ジロドーも二世の役者たちを使っている。親から子へ、過去から未来へと繋げていこうというセドリック・クラピッシュたち製作者側の意図を感じる。


2025年製作/126分/G/フランス
原題または英題:La Venue de l'avenir
配給:セテラ・インターナショナル

監督:セドリック・クラピッシュ
製作:ブリュノ・レビ
脚本:セドリック・クラピッシュ、サンティアゴ・アミゴレーナ
撮影:アレクシ・カビルシーヌ
美術:マリー・シェミナル
衣装:ピエール=イブ・ゲロー
編集:アン=ソフィー・ビオン
音楽:ロブ
キャスト:スザンヌ・ランドン、アブラム・バプレ、ジュリア・ピアトン、ヴァンサン・マケーニュ、ジネディーヌ・スアレム、ポール・キルシェ、バシリ・シュナイダー、サラ・ジロドー、セシル・ドゥ・フランス、オリビエ・グルメ、フレッド・テスト、クレール・ポメ、フランソワ・ベルレアン、フィリピーヌ・ルロワ=ボリュー、バンサン・ペレーズ、バランタン・カンパーニュ
☆☆☆3
写真引用コピーライト STUDIOCANAL - COLOURS OF TIME - CE QUI ME MEUT - Emmanuelle Jacobson-Roques
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