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2026年09月22日13:51

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「我等の生涯の最良の年」ウィリアム・ワイラー〜失うことと戻ってくること〜

アカデミー賞作品賞を始め、9部門の受賞に輝いた1946年のアメリカの国民的な映画。監督は名匠ウィリアム・ウィラー。 興行成績においても、トーキー時代以降、『風と共に去りぬ』以来という大ヒットを記録。第2次世界大戦後のアメリカを舞台に、同じ故郷へ戻ってきた3人の帰還兵が様々な問題に直面しながらも再生していく姿を描いたもの。これを見ようと思ったキッカケは、ポール・オースターの小説『サンセット・パーク』において、登場人物の一人アリスが研究論文に取り組んでいるテーマがこの映画『我等の生涯の最良の年』であり、小説の登場人物たちがそれぞれこの映画について言及していたからだ。つまり、作家のポール・オースターが気になった映画ということであり、おそらく家族を捨てて失踪した主人公のマイルズが、家族のもとに戻るにあたっての戸惑いや「失ったもの」が映画と共通して描かれているからであろう。

映画は、戦争が終わって復員兵の3人が故郷に戻ってくる場面から始まる。飛行機の上から懐かしい故郷を見て喜ぶ復員兵たち。しかし、家族に実際に会うとなると、戸惑いを見せる3人。生きるか死ぬかの殺し合いをしてきた戦場とあまりにも違う日常がそこにあり、妻や子供たちとどう接していいか分からなくなった戸惑いがあるからだ。特に、元水兵のホーマー(ハロルド・ラッセル)はかつて高校フットボールの選手だったが、航空母艦を撃沈された時に負った火傷が原因で、両手ともが鉤型の鉄製義手なのだ。婚約者のウィルマ(キャシー・オドネル)に義手を見せる躊躇、そして義手を見て泣き出す母親が描かれる。義手の訓練を受けてマッチも擦れるし、自分で何でもできると自慢してみせるのだが、周りから可哀そうな目で見られることに耐えられない。実際には、パジャマのボタンを一人ではめられないし、義手を自分一人でつけることもできず、父の助けなくしては生活できなくなっている。かつての自分とは違う者になって戻ってきた自分と周囲との葛藤。

元陸軍歩兵連隊軍曹のアル(フレデリック・マーチ)は銀行マンで瀟洒なアパートで暮らしている。妻ミリー(マーナ・ロイ)とすっかり成長した娘ペギー(テレサ・ライト)、息子ロブの歓迎を受ける。「ジャップ」から手に入れた日本刀を自慢気に息子にお土産として見せるが、息子はあまり興味を示さない。それより原爆の被害のことを逆に聞かれたりする。そして家でどう過ごしていいか分からないアルは、酒場に妻と娘を連れて飲みに出かける。酒で誤魔化さないといられないのだ。

いくつもの勲章を胸に下げるフレッド(ダナ・アンドリュース)。戦時中は陸軍航空軍大尉として爆撃手を務め、3人の中で最も軍の階級が高かった。しかし、戻ってきてもロクな仕事がない。出征前は、ドラッグストアでソーダ売り。出征のわずか20日前に結婚した妻マリー(ヴァージニア・メイヨ)は、実家を出てナイトクラブで働いていて一人暮らし。彼が実家に戻ってきても会えない。酒場を捜し歩いているうちに、アルと妻ミリーと娘ペギー、家にいたたまれなくなって飲みに来ていたホーマーとも合流し、酔っぱらう。妻に会えず酔い潰れたフレッドと夫アルを家に連れて帰るミリーとペギー。フレッドは寝ている最中に戦争のうわ言でうなされるのを、娘のペギーが介抱する。

フレッドは輝かしい勲章があっても仕事がなく、低収入のドラッグストアで働くしかなかった。戦争のトラウマを抱えるも、夫に無理解で遊び好きの妻マリーとうまくいかなくなり、フレッドはアルの娘ペギーに惹かれていく。ペギーもまたフレッドに惹かれていき、夫婦関係がうまくいっていない「二人の関係を壊す」とまで親に宣言するペギー。しかしアルは、娘の幸せを願って、フレッドに「ペギーとはもう会わないでくれ」と頼み、フレッドも了解するのだった。フレッドは、義手のホーマーに「アメリカが参戦した戦争は間違っていた。」と語る客を殴り倒し、職場をクビになる。そして留守中に男を連れ込んでいた妻のマリーにも離婚を告げる。故郷を出ようと旅立とうとしたフレッドだが、空港に鉄屑にされる戦闘機を見て、戦闘機の解体の仕事をするようになる。

銀行の副頭取の地位を手に入れたアルだったが、復員兵に無担保で小口の融資をして頭取にたしなめられる。ある晩餐会で酔った勢いでアルは、「復員軍人への小口融資はアメリカの未来への投資だ」と本音を主張する。この映画では、軍人として命を懸けて戦ってきた復員兵たちが、経済優先のアメリカの日常に飲み込まれ、無視されたかのように扱われる現実が描かれる。

手を失って自尊心を奪われたホーマーは婚約者との結婚を諦めようとしていた。「私を避け続ける貴方を忘れるために明日の朝ブーンシティを離れなさい、と両親が言う。でも私は行きたくない」と婚約者ウィルマはある夜、ホーマーに告げる。自分の情けない姿を晒し、それでもウィルマの愛を確信したホーマーは、二人の結婚を決意する。

ラストは、義手のホーマーとウィルマの結婚式。義手で起用にウィルマの指に指輪をはめるホーマー。立会人となったフレッドは、久々にペギーと再会する。式の傍らで、フレッドとペギーが見つめ合う。別れたはずなのに、愛し合っている二人。ホーマーとウィルマの式が終わると同時に、フレッドはペギーに近づいて二人はキスをする。二組のカップルが生まれ、映画はハッピーエンドで終わる。

復員兵たちのぞれぞの苦悩。それを受け入れていく戦後社会。ホーマーの失った手は、誰もが若い時に持っていたはずの「何かを失うこと」を象徴している。トラウマを抱え、何かを失い、傷ついて戻ってくる。それでも家族や故郷は変わらずあり続け、社会は変わらず経済はまわり続けている。戦争によって壊れていく家族もあれば、新たな関係を築く家族もある。映画はハッピーエンドでアメリカ戦後社会の希望を描く。ポール・オースターの小説で、手を失った兵士の役名「ホーマー」は、『オデュッセイア』を書いた「詩人ホメロスの英語形、オデュッセウスとテレマコスの対面を書いたあの詩人、長い年月を経た末に再会した父と子」という記述があり、故郷に戻ってくることの変節と苦難が、昔から変わらぬテーマであったことを示唆している。「何かを失うこと」にどう向き合って生きて行けるか、新たな関係を築いていけるかがいつだって問われている。


1946年製作/170分/アメリカ
原題または英題:The Best Years of Our Lives

監督:ウィリアム・ワイラー
製作:サミュエル・ゴールドウィン
原作:マッキンレー・カンター
脚本:ロバート・E・シャーウッド
撮影:グレッグ・トーランド
音楽:ヒューゴ・フリードホーファー
キャスト:マーナ・ロイ、フレデリック・マーチ、ダナ・アンドリュース、テレサ・ライト、ヴァージニア・メイヨ、キャシー・オドネル、ホーギー・カーマイケル、ハロルド・ラッセル、グラディス・ジョージ、ローマン・ボーネン、レイ・コリンズ
☆☆☆3
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