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2026年09月15日22:38

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「よき谷の物語」ホセ・ルイス・ゲリン〜川辺に集まる様々な人々の営みが描かれるドキュメンタリー〜

『シルビアのいる街で』(2007)以来のホセ・ルイス・ゲリン監督作品。『シルビアのいる街で』は不思議な街の映画だった。シルビアという女性を追いかける青年の視線の映画であり、さまざまな音に溢れている街の映画でもあった。劇映画なのだが、ドキュメンタリー的で詩的な要素も多かった。同じスペイン出身のヴィクトル・エリセをして「現代スペインで最も優れた映画作家」と言わしめたホセ・ルイス・ゲリン監督。本作は10年ぶりとなる長編監督作で、バルセロナ郊外の集落・バルボナ地区を舞台に、変わりゆく時代と人々の生活を見つめたドキュメンタリーだ。

バルセロナ郊外のバルボナ地区。「よき谷」と名付けられたこの地は川や線路に囲まれ、開発から取り残された陸の孤島であり、大都市の近くとは思えないほど豊かな自然に恵まれている。1920年代に農地として開発が計画されたが、結局放置され、徐々に人々が勝手に家を建てて住み始めた土地なのだそうだ。やがて鉄道や高速道路によって分断され孤立したような状況になり、一部の住人は立ち退かされて行政が建てた高層アパートに移住、残った人たちは満足な行政サービスが受けられない中、開発から取り残されたこの地に住み続けた。さらに近年は海外からの移民もここに住み始めるようになった。そんな様々な人種、言語が入り混じりつつ、過去から現在、未来へと時間が巡り、この土地がある。人々は川辺てくつろぎ、水遊びをして、酒を飲み、歌を歌い、踊ったりして人生を楽しんでいる。

この地区で暮らす人々のインタビューから始まる。人々の様々な思い。妻に先立たれた老人、息子を失った老婦人は「白いデイジーは旅立った息子の花なの」と語る。昔を懐かしむ者、移民を嫌う者、インド、ジャマイカ、ウクライナなどから来た人たち。肩身の狭い思いをしているロシア人もいる。そんな都会のオアシスに鉄道計画が持ち上がり、住民説明会が開かれ、一部の人たちは立ち退きも迫られる。ゲリン監督が3年の歳月をかけてバルボナ地区にカメラを向け記録した。

暮らしのそばを走る鉄道が徹底して描かれる。高速道路を車が走り、鉄道が通過し、橋を車や人々が渡り、最後は工事の音も聞こえてくる。街が壊され、野菜や花、植物を植えていた畑は潰される。畑から木を根っこから抜いて運ぶ老婆がいる。工事をする労働者もまた移民だ。新しいアパートが立ち、移住した人々は昔の暮らしを懐かしむ。「前のままがよかったな」と妹に呟く少年。窓ガラスの反射に風景が映り込む。水遊びをしていた用水路のある川辺は遊泳禁止の看板が立っている。最初に白黒映像で映し出されたこの地区の映像には、羽ばたく鳥の音と川の流れ、木々のざわめき、風の音が聞こえていた。用水路がある川で遊ぶ子供たちは楽しそうだ。遊泳禁止なんて関係ない。植物に話しかけ、愛をこめて育てる人々。子供たちも大人たちも、それぞれがカメラの前で普段通りの会話をしている。そこに作為性は感じられず、カメラも自然に溶け込んでいる。何気ないおしゃべりがなぜこんなに撮れるのだろう。フランスの映画監督ギヨーム・ブラックの映画(『宝島』、『リンダとイリナ』)にも似ているような気がするが、彼の映画よりもドキュメンタリー的だ。

最後は遊泳禁止とされている川辺に、人々が集い、歌い語らい、踊りを踊る。そして少年が列車とともに走ってきて、「警察がやってくる」とみんなに注意する。すると、思い思いに寛いでいた人々が慌てて逃げ出し、川には誰もいなくなる。そして犬が水浴びにやってくる。最後だけやや作為的な演出が施される。川があり、水辺があれば、人々は寛ぐことができる。そして水の音、風の音、音楽・・・。そして語り掛けたくなるような植物が身近にあれば、人は豊かに生きていけるのかもしれない。道路や列車に囲まれながらも、エアポケットのような様々な人々が集う場所が美しく描かれていた。


2025年製作/122分/G/スペイン・フランス合作
原題または英題:Historias del buen valle
配給:コピアポア・フィルム

監督・脚本・編集:ホセ・ルイス・ゲリン
撮影:アリシア・アルミニャーナ
☆☆☆☆4
写真引用Orfeo Iluso - Perspective Films - 3CAT - Los Ilusos Films - Los Films de Orfeo コピーライト 2025
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