1892年ドイツ生まれのエルンスト・ルビッチは、ドイツで話題作を発表し世界的な成功をおさめ、1922年に渡米。「ルビッチ・タッチ」と言われた多くのロマンチック・コメディをハリウッドで製作。ビリー・ワイルダーは弟子であり、彼に多くの影響を与えた。「How would Lubitsch do it?(ルビッチならどうする?)」と書いた額をワイルダーは、自分の机の真向かいに生涯置き続けたそうだ。小津安二郎の初期のコメディにも影響を与えたと言われている。グレタ・ガルボ主演の『ニノチカ』(1939)、ナチス占領下のポーランドからの脱出を計画する芸人たちの姿を、あくまでルビッチ的に描いた『生きるべきか死ぬべきか』(1942)、恋愛コメディの傑作『街角 桃色の店』(1940)など歴史に残る名作も多い。本作は、1943年のルビッチの晩年に近い初のカラー作品。
死後に地獄の入り口にやってきた男が、閻魔大王閣下(レアード・クリーガー)を相手に自らが歩んできた人生を語るというファンタジー的な設定で始まる。地獄の入り口は豪華ホテルのロビーのようなセットで、閻魔大王はスーツを着ていて紳士的。葬式で歌われたクーパー・クーパー夫人の甲高い歌声を人生で避けてきたと語るヘンリー(ドン・アメチー)もネクタイにスーツ姿。自らの人生を「罪深いものだった」と語りだす。見ていてとても心地よく、女性と関わり続けてきた男の人生が流れるように語られていて楽しい。特に妻となるマーサ、ジーン・ティアニーが美しくかわいらしい。ヘンリーでなくても夢中になる。
ニューヨークの上流階級に生まれ、両親に甘やかされて育ったヘンリーは、わがままで女好き。母と祖母に競われるように溺愛され、生後すぐに女の争いに巻き込まれた。乳母から女の裏切りを教えられ、幼い少女からモテるにはプレゼントが必要だと学んだ。そしてフランス語とワインの味を教えてもらった美しきフランス人家政婦と出会い、そして26歳になっても仕事につかず、遊んでばかりいた。そんなヘンリーが街で見かけた美女に一目惚れ。衝撃の火花を全身で感じた。ところがその女性マーサ(ジーン・ティアニー)は、優秀で勤勉な従兄弟アルバート(アリン・ジョスリン)の婚約相手だった。ヘンリー26歳の誕生日パーティーに両親と一緒に南部のカンザスからやってきたマーサ。ヘンリーは街で見かけた美女が本屋で「夫を幸せにする方法」という本を買おうとしているところに声をかけたのだった。「そんな本はいらない」と言って。その美女が従兄弟の婚約者として目の前に現れた。パーティーでクーパー・クーパー夫人が歌うアリアにクシャミを連発して、書斎に逃げてきたマーサは、そこにいたヘンリーに気づく。強引に近づいて、いきなりキスをするヘンリー。一度は書斎から逃げ出したマーサだったが、再びクシャミをして書斎に舞い戻る。そして再びヘンリーはマーサを口説き、一緒に家を抜け出して二人は駆け落ちをするのだ。クシャミの偶然とすれ違っても惹かれ合う二人。カンザスの田舎から抜け出したかったマーサは、従兄弟のアルバートと婚約をしてニューヨークにやってきて、駆け落ちでヘンリーと結婚する。
それから10年後のヘンリーの誕生日と結婚記念日。ヘンリーそっくりの息子がいて、二人は幸せな結婚生活を送っていたと思ったら、マーサが突然の家出。カンザスの実家に戻っていた。精肉業で成功した実業家のマーサの両親は仲が悪く、大きな机の端と端で会話もなく食事しているのが可笑しい。召使が二人の会話をわざわざ仲介する。10年ぶりで実家に戻ってきたマーサは、宝石店の領収書からヘンリーの浮気を疑っていた。カンザスまで祖父ヒューゴ(チャールズ・コバーン)と一緒に迎えに来たヘンリーは、その領収書は店の間違いだと主張して、マーサを連れて帰る。
しかしヘンリーの女好きはその後も続き、45歳になったヘンリーはミュージカルの舞台で見た女優に惹かれて口説こうとする。ところが、その女優は息子と付き合っていた。ヘンリーの息子も父親に似て女好きで遊びまわっていたのだ。その女優に息子と別れる手切れ金を渡して、お腹が出てきた50歳の中年男と彼女に指摘されて、すごすごと帰るヘンリー。
その後もヘンリーとマーサの幸せな家庭生活は続き、お腹が出てきたヘンリーをやっと浮気を疑わずに安心できる、私のものだと感じるマーサ。結婚二十五周年のパーティーで、出遭った書斎で昔の思い出を語る二人。いいシーンだ。亡くなる直前のマーサとダンスする俯瞰ショットが美しい。
孤独な老人になってからもヘンリーの女好きは治らず、息子に小遣いをせびり、若い女性に本を朗読してもらうことを提案する。そんなとき想い出の書斎で、マーサと出会た時に彼女が買った「夫を幸せにする方法」の本を見つける。マーサの想い出に浸るヘンリー。さらに、70歳になってベッドで寝たきりになっても、美しい女性と過ごしていた夢を邪魔されたと看護婦に文句を言う。そのあと夜勤のプロンドの若い美人看護婦が現れて、体温計を口に入れられると、興奮して体温が上昇してヘンリーは死に至る。看護婦が入れ替わるのを鏡で演出し、扉の向こうのベッドを映さないところがオシャレ。
ヘンリーの人生は女性とともにあった。地獄の閻魔閣下は、天国行きを勧める。多くの女性たちやあなたを大好きだった祖父、そしてマーサが君を天国で待っているだろうと彼をエレベータに乗せて、上へ行くことを指示して終わる。
オシャレで楽しいロマンチック・コメディ。何も言うことはない。
1943年製作/アメリカ
原題または英題:Heaven Can Wait
配給:プレノンアッシュ
監督:エルンスト・ルビッチ
脚本:サムソン・ラファエルソン
原作:レスリー・ブッシュ=フェキート
製作:エルンスト・ルビッチ
撮影:エドワード・クロンジェガー
音楽:アルフレッド・ニューマン
編集:ドロシー・スペンサー
キャスト:ジーン・ティアニー、ドン・アメチー、チャールズ・コバーン、マージョリー・メイン、レアード・クレガー、スプリング・バイイントン、アリン・ジョスリン、ユージン・パレット
☆☆☆☆4
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