さて、この映画は背景がかなり複雑なので、まず整理します。
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2025年8月16・17日、NHKスペシャル「シミュレーション〜昭和16年夏の敗戦〜」が2夜連続で放送されました。
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猪瀬直樹「昭和16年夏の敗戦」を原案に、総力戦研究所を描いたドラマと、史実を説明するドキュメンタリーを組み合わせた番組です。
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そこで問題になったのが、國村隼さんが演じた「板倉大道少将」という人物。
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当時、実際に総力戦研究所の所長を務めていたのは、飯村穣陸軍中将です。
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ドラマの板倉少将は、総力戦研究所を率いる立場として登場します。
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若い研究員たちがシミュレーションを進め、「日本必敗」に近づいていくと、
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「今後は不都合な報告は上に上げられない」
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などと言って圧力をかけ、反対する研究員には最前線送りをほのめかす。
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そんな人物として描かれました。
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ところが、飯村穣所長について残されている史料や証言から見える人物像とは大きく違う。
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原案となった猪瀬直樹「昭和16年夏の敗戦」に描かれた飯村穣とも、まったく違います。
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現在、この板倉少将という人物を視聴者が飯村穣所長と結びつけて受け取るのか、そしてその描写によって名誉が傷つけられたのかをめぐり、飯村穣所長のお孫さん、飯村豊さんがNHKなどを相手に裁判を起こしています。
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NHK側は放送時、「登場人物や設定にはフィクションが含まれる」と明示し、ドキュメンタリー部分でも、実際の所長はドラマで描かれた人物とは異なる旨を説明しました。
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映画製作委員会も、「板倉大道少将は創作された人物であり、飯村穣氏をモデルにした人物ではない」としています。
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しかし、私はここに強い違和感があります。
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昭和16年当時の「総力戦研究所」という実在した組織を扱い、実際に起きた出来事を土台にし、その研究所の所長に相当する位置に一人の軍人を置く。
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そして、その人物だけを史実とも原案とも大きく違う性格にする。
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そのうえで「これは架空の人物です」「創作です」と説明されても、私には簡単には切り離せません。
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ましてNHK版は、単なるフィクション映画ではありません。
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ドラマと、史実を説明するドキュメンタリーを組み合わせた番組です。
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そこに、史実にも原案にもない人物像を重要な位置に置けば、視聴者が受け取る歴史そのものの見え方が変わってしまいます。
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私には、物語を盛り上げるために、実在した歴史の中へ制作側にとって都合のよい悪役を置いたように見えました。
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そして、その人物を通して一定の歴史観を視聴者に提示しておきながら、批判されれば「架空の人物です」「創作です」とする。
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私は、これを単なる創作行為とは認めません。
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史実を材料にしながら、歴史の見え方そのものを作り替える行為であり、私は歴史の改ざんだと思います。
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そして2026年7月31日、このドラマ部分を基礎にした映画「開戦前夜」が公開されました。
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NHK版のドラマパート約98分に約40分を追加した、138分の完全版です。
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監督・脚本・編集は石井裕也さん。
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NHK版のドラマパートも、石井裕也さんが脚本・編集・演出を担当しています。
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映画版では、飯村氏側からの指摘を受け、板倉について「所長」という肩書や呼称を使わないなど、混同を避ける変更も加えられています。
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それでも人物造形そのものは維持されました。
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ここまでして、この人物像を残すのか……と、私は驚きました。
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原告の飯村豊さんは、「総力戦研究所の真実――歴史の法廷に立つNHK」という本も出版されています。
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NHKとの事前交渉から放送、BPO、訴訟までの経緯に加え、飯村穣自身の経歴や思想、総力戦研究所の実態を改めて検討した本です。
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さらに研究者・中村陵氏による特別寄稿や、当時の史料も収録されています。
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もちろん、飯村豊さんは飯村穣所長のお孫さんです。
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したがって、完全な第三者ではありません。
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一方で、制作側にも制作側の主張があり、「板倉少将は飯村を描いた人物ではない」と明確にしています。
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そこまで双方の言い分を踏まえても、私にはやはり納得できませんでした。
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私は、歴史ドラマに創作が入ることを否定しているわけではありません。
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しかし史実ドキュメンタリードラマは、歴史ドラマとは違います。
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この二つを混同し、「ドラマなのだから創作でよい」とする言い訳には、慎重な見極めが必要になってくると思います。
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実在した組織、実在した出来事を扱い、その中で史実にも原案にもない人物像を重要な位置に置き、その人物によって歴史の意味まで変えてしまうのであれば、見ている者は誤情報を植え付けられてしまいます。
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どういう立ち位置で作られたのか、見る者がどういう立ち位置で見るのか、考慮する必要があるでしょう。
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史実ではない。
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そして原案の猪瀬直樹「昭和16年夏の敗戦」とも違う。
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その人物像をNHK側が最後まで残したことが、私には非常にもったいなく思えました。
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所長に相当する人物の描き方を原案及び史実に寄せ、歴史の改ざんをしなければ、もっとよい映画になったと思います。
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