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2026年06月19日15:20

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「シラート」オリベル・ラシェ〜地獄の綱渡りの先は?〜

「髪の毛より細く、剣のように鋭い橋」が「地獄」から「天国」へと渡る場所にあるのだという。どうやらイスラム教の終末論からきている言葉のようだが、「シラート」とはそんな困難な道のことを指すらしい。いろいろと話題沸騰のこの映画、ネタバレ禁止とも言われているので、あまり多くのことを書けない。確かに、観客を徹底的に驚かすために作られているようなところがあるので、内容は一切入れずに、映画館で観るとこをオススメする。小さなモニターやスマホで見るべき映画ではない。

まさに地獄の綱渡りだ。生きるか死ぬかの綱渡り。人間は「砂漠」という過酷な環境から文明を築き、長い年月をかけて「砂漠」から遠く離れたところに豊かな社会を作り上げてきたはずなのに、いまなぜ再び「砂漠」へと引き寄せられていくのだろうか。先日観たミケランジェロ・アントニオーニの『砂丘』(1970)もまた物質文明の対極にある「砂漠」に引き寄せられ、シンプルな男と女の幻想を描いて見せた。建造物が何もなく、木や植物も生えていない「砂漠」には、生命の力はなく、虚無しかない。死の世界に近い場所だ。生きること自体が過酷な環境の砂漠で、なおかつもっと過酷な試練が人々を待ち受けている。そんな厳しい世界が描かれる映画だ。

単純な物語だ。父親が娘を探す物語。砂漠のレイブパーティから始まるこの映画は、巨大なスピーカーがまず砂漠に組み立てられる。そして砂漠の中の大音響のもとで、人々が無心に踊り続ける。「レイブ」とは、単純なビートのリズムの反復で、ただただ体を揺らすように踊るもののようだ。それも深夜から明け方まで野外で踊り続けるのだという。その会場で、失踪した娘を探すために写真を見せて、オヤジと息子が人々に聞きまわっている。しかし突然、軍隊がやってきて、レイブパーティーは中止させられてしまう。もっと南でやっているレイブパーティーに娘はいるかもしれないというかすかな希望をもって、オヤジと息子はあるグループのバスと大型車を小さなバンで追いかけていく。まさにロード・ムービーである。もっとパンクな砂漠のアクション映画『マッドマックス 怒りのデス・ロード』みたいな映画かと思ったら、全然違っていた。どちらかというと、ハラハラ、ドキドキの『恐怖の報酬』(1952)である。

しかしこの娘探しの旅は、途中でとんでもないことが次々と起きて、旅の目的そのものがどうでもよくなっていく。まさに生きるための旅、死なないための旅になっていくのだ。目的が見失われ、たたただ旅しているだけ。しかも、第三次世界大戦も起きているような話も出てきて、まさに世界の終末に向けての旅なのだ。人類は、「砂漠」から遠くなはれたはずなのに、またしても「砂漠」のような荒野に舞い戻ってきて、目的も見失い、世界の終わりに向けて進みながら、過酷な試練に耐えているのだ。生きていることが奇跡なのか。砂漠に置かれた巨大スピーカーは人類の墓標のようであるし、レイブの踊りは、神にささげる宗教的な狂騒のようにも見える。無心に忘我の境地で踊り続ける人々。そこには目的も意志も思考も希望もない。体を自然や大地に預け、ただただ揺らすのみ。人類は様々な叡智で、多くのことを成し遂げてきたはずなのに、世界が終わりそうな今、もう何もできずに、音楽に身を任せ、体を揺らすことしかできないのか。

それでも大きな月が出ていた夜の砂漠を走る二台の車の光は美しく、闇夜を照らしてどこかへ向かっていた。無心に歩いた先に、列車にたどり着いた人々を乗せて、人類はどこに向かうのだろうか。そんなことを考えさせられる地獄の寓話のような映画だった。


2025年製作/115分/PG12/スペイン・フランス合作
原題または英題:Sirāt
配給:トランスフォーマー

監督:オリベル・ラシェ
製作:ドミンゴ・コラル、ペドロ・アルモドバル
製作総指揮:エステル・ガルシア
脚本:オリベル・ラシェ、サンティアゴ・フィロル
撮影:マウロ・エルセ
美術:ライア・アテカ
衣装:ナディア・アシミ
編集:クリストバル・フェルナンデス
音楽:カンディング・レイ
キャスト:セルジ・ロペス、ブルーノ・ヌニェス・アルホナ、ステファニア・ガッダ、ジョシュア・リアム・ヘンダーソン、トニン・ジャンビエ、ジャド・オウキッド、リチャード・ベラミー
☆☆☆☆4
写真引用コピーライト 2025 LOS DESERTORES FILMS, A.I.E., TELEFÓNICA AUDIOVISUAL DIGITAL, S.L.U.,FILMES DA ERMIDA, S.L., EL DESEO DA, S.L.U., URI FILMS, S.L., 4A4 PRODUCTIONS

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