トニー・スコット監督の1983年デビュー作である。トニー・スコット監督は2012年68歳の若さで亡くなった。カリフォルニア州サンペドロのヴィンセント・トーマス橋から飛び降り自殺したのだ。1986年の『トップガン』をはじめ、『トゥルー・ロマンス』(1993)、『エネミー・オブ・アメリカ』(1998)、『スパイ・ゲーム』(2001)、『マイ・ボディガード』(2004)、『ドミノ』(2005)、『デジャヴ』(2006)、『サブウェイ123激突』(2009)、そして遺作となった『アンストッパブル』(2010)まで、独特の映像センスと緊張感や躍動感などを描く彼の映画のファンは多い。
デビュー作には、その映画監督の資質がよく出ていると言われる。このゴシックホラーともいえるカトリーヌ・ドヌーヴとデヴィッド・ボウイによる美しきグロテスクなヴァンパイアの物語は、スタイリッシュな映像と光と影を駆使したダークな世界を象徴的に描いている特異な作品だ。美しい音楽と美しい調度品に囲まれ、永遠の美しさとともに暮らしてきたヴァンパイアの耽美的な世界をアーティスティックに描いている。
舞台はニューヨーク。古代からヴァンパイアとして生きるミリアム(カトリーヌ・ドヌーヴ)は、ここ数百年来、恋人ジョン(デヴィッド・ボウイ)と共に人間の生き血をすすり続けてきた。永遠の命、そして普遍の若さを手にしたはずだった二人。しかしある日、ジョンの体に急速な老化が起こったのをきっかけに、医師のサラ(スーザン・サランドン)をも巻き込み、彼らの関係性は大きな変容を遂げていくことに……。
デヴィッド・ボウイ演じるジョンの妖しく美しい顔立ちが、みるみる老醜を晒す老人へと変化していく。その急速な老化を、実験中のサルの凶暴なる異様な変化とともに交互に描いていく。そのサルの変化を観察していた医師のサラが、ヴァンパイアのカトリーヌ・ドヌーヴ演じるミリアムのジョンの次なるターゲットになっていく。
全編が暗い闇の世界だ。屋敷の中も病院の研究所も暗い。シャワーの水の中で語られる「永遠」。炎とともに焼かれる「死」。光はブラインドの縞模様の影を作り、窓の格子状の影が壁に映る。ブラインドの隙間からは入る光と白いカーテンから淡い光が入る程度である。カーテンはいつも風に揺れているし、カトリーヌ・ドヌーヴはいつもヴェールを被っている。揺れる薄い布がヴァンパイアたちの秘密を包むようである。さらにスモークも焚かれ、幻想的な雰囲気は一層演出される。その暗い屋敷の中で唯一光るものが、アリスという少女が写すポラロイドカメラのストロボの光だ。そしてその場でプリントされるポラロイド写真だけが、闇の世界に生き続けたヴァンパイアたちの痕跡を現代に残す。
そして白い鳩たちと薄い透明な布が風に揺れ、髪が乱れ、血が飛び散る。老いたミイラのような者たちがミリアムに襲いかかる場面は美しく幻想的ですらある。過去や死者たち、そして「時間」に復讐される美しきヴァンパイア。美しいものと醜悪なものが表裏一体であることを映画は映しだす。光をとことん抑制し、緻密に闇と影を計算しつくした映像設計があり、トニー・スコットの並々ならぬ映像へのこだわりが感じられる作品だ。
ちなみに、トニー・スコットはこのデビュー作の失敗で3年に渡って完全に干された状態が続いたそうだ。この自己陶酔的で耽美的な作品は、世間に受け入れられなかった。その間、彼はまた古巣のCMやミュージックビデオの世界に舞い戻って、地道に映像作りに臨む日々が続いたそうだ。そして次に撮るチャンスに恵まれた『トップガン』の躍動感のあるアクション娯楽作で、見事に成功を収めたのだった。つまりトニー・スコットは、本来が持っている映像的な芸術的センスが『ハンガー』で発揮され、『トップガン』の躍動感のある娯楽作の成功で、その両方を生かす術を身に付けていったのだろうと思われる。
1983年製作/96分/イギリス
原題または英題:The Hunger
監督:トニー・スコット
製作:リチャード・シェパード
原作:ホイットリー・ストリーバー
キャスト:カトリーヌ・ドヌーブ、デビッド・ボウイ、スーザン・サランドン、クリフ・デ・ヤング、ジェームズ・オーブリー、ジョン・パンコウ、ダン・ヘダヤ
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写真引用@AFLO
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