2026年1月、4Kレストア版にてリバイバル公開。レオス・カラックスが1983年に22歳で発表した長編デビュー作。夜のパリをさまようふたつの孤独な魂の出会いを美しいモノクロ映像で描き、第37回カンヌ国際映画祭でヤング大賞を受賞。アレックス3部作の最初の作品。
この映画は前にも見たのだが、印象に残りづらく取っつきづらい映画だ。孤独な青年アレックスの一方通行な恋愛を描いた映画ではあるのだが、なかなか恋が始まらないのだ。タイトルにあるようにボーイはなかなかミーツ・ガールしないのだ。夜のセーヌ川から始まる。母と子がフロントガラスが割れた車を止めて、一緒に暮らしていた夫の絵をセーヌ川に投げ捨てる場面があり、さまざまな「別れ」が描かれていく。「出会いmeet」よりも「別れ」が描かれている映画なのだ。
アレックス(ドニ・ラヴァン)の恋人フロランス(アンナ・バルダチーニ)は親友のトマ(クリスチャン・クロアレック)のもとに去った。アレックスは河畔でトマを殺そうとする。アレックスの部屋には、パリの地図が貼られており、そこに「自分史」が書き込まれている。初めてキスした日時と場所など過去の記録。そして初めて殺人未遂をした日時と場所が書き加えられる。新聞配達の孤独な青年が印象の悪い家の地図に×印を書き込む中上健次の『十九歳の地図』を少し思い出す。
一方、ミレーユ(ミレーユ・ペリエ)も恋人ベルナール(エリー・ポワカール)と喧嘩別れをした。外に出たベルナールがインターフォン越しに、部屋の中のミレーユと会話をしている。部屋の中でかけている音楽も聞こえてくる。それをそばで聞いていたアレックスは、ベルナールの後をつけてカフェで彼のメモを拾う。ミレーユとベルナールにあてたパーティへの誘いだった。アレックスはそのパーティにベルナールの友人と称して入り込み、ミレーヌの姿を追う。やっとそこで、「ボーイ・ミーツ・ガール」となる。恋人のベルナールが来ないパーティー。ミレーユは、トイレでハサミを使って自分の髪を切る。アレックスはパーティーを抜け出し、あちこちの扉を開け、ハサミを持って手首に当てるミレーユを覗く。自殺の予兆。部屋で一人タップダンスを踊っていたミレーユ。ミレーユは女優を目指していたが、採用されなかったのだ。キッチンで出会った二人は、とりとめなく話し続ける。会話というよりも、アレックスが一方的に喋り続けるのだ。
最後はミレーユのアパート。アレックスはミレーユに電話をかけるが、彼女はベルナールからだと思って電話に出ない。アレックスがかける電話ボックスのガラスは割れている。二人がパーティーで出会ったときもグラスがぶつかって割れ、最初の車のフロントグラスも割れていた。割れたガラスは心が砕け散る傷ついたイメージの象徴のように使われている。そしてアレックスはミレーユの部屋を訪れ、ドアから水がもれているのを見て、風呂場で自殺?と思う。部屋の中に飛び込んだアレックスが床にうずくまったミレーユの背中を抱きかかえる。すると、ミレーユの白いセーターの胸に赤いシミが拡がる。ミレーユはその手にハサミを持っていたのだった。
アレックスは友を殺しそうになり、絶望のうちに夜のセーヌ河畔を歩く。キスしている恋人たちを見つめてコインを投げるアレックス。ヘッドフォンでデヴィッド・ボウイの音楽を聴きながら、目を閉じて空間をまさぐり歩く場面もある。行き場のない孤独と彷徨。アレックスは恋人フロランスと親友のトマに手紙を書いて扉の隙間にこっそり置いてくる。フロランスがトイレに部屋から出てきたのに、直接手紙を渡すようなことはしない。自己完結的に閉じているのだ。パーティーで念願のミレーユに出会って、思いを一方的に語るのだが、ミレーユの思いは恋人のベルナールにしかない。そして悲劇的な結末・・・。友を殺そうとしたアレックスは、好きな女性を助けようとして殺してしまう。次の『汚れた血』では、ジュリエット・ビノシュに出会い、愛を語るも、その思いは届かず、今度はアレックス自身が事件に巻き込まれて死んでしまう。そういう一方的なアレックスの思いが3作目の『ポンヌフの恋人』で、やっと報われるかと思うと感慨深いものがある。あの花火とダンスと音楽の祝祭は、長い間の孤独の彷徨の果てにやっと得られた愛の瞬間であり、川の中へのダイブだったのだ。
パーティーではアメリカの宇宙飛行士や手話で無声映画に携わっていたことを語る聾唖者の老人がいたり、キッチンではマダムが亡くなった主人とテレパシーを通じ合う思い出と割れたカップのことを語る。映画では様々な「別れ」が描かれ、コミュニケーションは不在で一方的だ。
アレックスは、最初にセーヌ河畔で夫に別れを告げに来た母親が落としたチェックのハンカチを拾う。それを恋人フロランスのものだと勘違いして持ち続ける。そこには思い込みと誤解がある。それは『汚れた血』におけるアレックスがバスで見かけた白い服の女と同じでもある。恋には勘違いや誤解がつきまとう。一方的な思いにこそ、幻想としての恋愛の本質があるのかもしれない。哀しげな表情のミレーユ・ペリエが美しい。
1983年製作/104分/フランス
原題または英題:Boy Meets Girl
配給:ユーロスペース
監督・脚本:レオス・カラックス
製作:パトリシア・モラ
製作総指揮:アラン・ダアン
撮影:ジャン=イブ・エスコフィエ
美術:セルジュ・マルソルフ、ジャン・バエウル
編集:ネリー・ムニエ、フランシーヌ・サンドベルグ
音楽:ジャック・ピノー
挿入歌:デビッド・ボウイ、ジョー・ルメール、デッド・ケネディーズ
キャスト:ドニ・ラヴァン、ミレーユ・ペリエ、キャロル・ブルックス、エリー・ポワカール、マイテ・ナイル、クリスチャン・クロアレック、ハンス・メイヤー、アンナ・バルダチーニ、ジャン・デュフロ、フレデリック・シャルボノー、ジャック・ピノー、アンヌ・デューメガール、アルダグ・バスマジアン、エブリーヌ・シュミット、ロベール・プナベント、ジョルジュ・カストール、ドミニク・レイモン、トゥーシュマルク・デロゾー、アルベール・ブローン、ロロ・ピガール
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写真引用(C)THEO FILM
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