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2025年10月29日18:02

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「サリヴァンの旅」プレストン・スタージェス〜失業者で溢れる過酷な現実とお忍びコメディ

フランク・キャプラ『或る夜の出来事』(1934)がヒットして、スクリューボール・コメディが流行した。「スピンがかかりどこでオチるか予測がつかないボール」である「スクリューボール」という言葉から、突飛な行動をとる登場人物が出てくる映画をこう呼ぶようになった。常識にとらわれない登場人物、テンポのよい洒落た会話、つぎつぎに事件が起きる波乱にとんだ物語などを主な特徴とする。

1930年代末からはブロードウェイの劇場でも洒落たラブ・ロマンスが多く作られるようになり、そうした作品の脚本を書いていたプレストン・スタージェスがハリウッドへ進出してキャプラにつづくスクリューボール・コメディの重要な作り手となった。スタージェスのこの『サリヴァンの旅』(1941)や『レディ・イヴ』(1941)はとくに大きな成功を収めた作品だと言われている。同じ頃作られたハワード・ホークスの『赤ちゃん教育』(1938)、『ヒズ・ガール・フライデー』(1939)、『教授と美女』(1941)、エルンスト・ルビッチの『ニノチカ』(1939)などがスクリューボール・コメディとして有名である。

また1929年以降の大不況はハリウッドの映画製作にも大きな影響を及ぼした。娯楽性を明確にして観客を呼び込みやすくするためジャンルが細分化され、現実離れしたスピード感溢れるコメディが求められた。この映画の中でも、映画監督のサリヴァン(ジョエル・マクリー)は社会性のある労働者と資本家が対決するような映画を作ろうとするが、映画会社の重役たちは、コメディや恋愛ものなどの娯楽作品を作るように要求する。しかし、現実の社会のことを何も知らないと言われたサリヴァンは、浮浪者に変装して旅に出ることにするのだ。

『或る夜の出来事』(1934)は大富豪の令嬢が身分を隠して新聞記者と旅をする物語であり、その形を真似して作った『ローマの休日』(1953)も王女と新聞記者の「お忍びもの」だった。この映画も大富豪の映画監督サリヴァンが浮浪者に扮して下層労働者たちの生活の中に入っていく「お忍びもの」という意味では同じである。映画監督だと知らずに、カフェでブロンドの美女(ヴェロニカ・レイク)がハムエッグとコーヒーを彼に奢った縁で一緒に旅することになる。彼女はルビッチの映画に出演することを夢見ていたのだ。浮浪者の恰好ををした二人は、貨車に飛び乗って藁の中で眠り、ノミやシラミに七転八倒し、浮浪者たちに配給する食事に並び、ギュウギュウ詰めの施設に押し込められて雑魚寝する。そこで身分証の入った靴を盗まれ、サンドイッチマンの仕事をして歩き、困窮した生活に耐えられなくて旅を終える。二人の間には愛情が芽生え始めていたが、サリヴァンには税金対策のために結婚した妻がいて離婚できない状態だった。サリヴァンは自らの過酷な浮浪者体験から、街の浮浪者に紙幣を配って歩くことにしたのだが、街で男に襲われ意識不明のまま貨車に乗せられる。連絡がつかないサリヴァンの身分証が、身元不明の死体から出てきたことで、サリヴァンは死んだことにされてしまった。彼が気がつくと、勝手に貨車に乗っていたと鉄道員に咎められ揉め事を起こし、相手を石で殴ってしまう。自らの名前を思い出せないまま、不法侵入と暴行罪で6年の強制労働の刑が下される。収容所に入れられ、やっと自分のことを思い出したサリヴァンだが、名前のない浮浪者の服役囚として過酷な労働を強いられて逃げられない。そこで囚人たちの唯一の慰問である映画上映会に参加し、ディズニーのアニメを見て、いかに人々にとって「笑い」が人生の希望となるかを実感する。

映画監督のサリヴァンであることを認めてもらうため、自分がサリヴァンを殺した殺人者だと嘘の申告をし、新聞記事に写真が載ったことで、サリヴァンが生きていることが分かり、なぜか無罪放免の釈放。映画監督として復帰して、苦しい生活を送る人々にとって笑いが生きる希望であることを知ったサリヴァンは、今度はコメディ映画を作ると宣言する・・・。

コメディ映画で、コメディ(笑い)の価値を伝える面白さはあるのだが、最後、なぜ有名な映画監督だと分かったからといって、6年の強制労働が無罪放免になるのか理解できない。あまりにご都合主義的なストーリーのいい加減さと、金持ちや有名な社会的成功者は罪が許されるという奢りが感じられる。「お忍びもの」で、大富豪の成功者が労働者の過酷な生活をとことん味わい、犯罪者になり、強制労働させられるまでに転落した過酷な現実が、簡単に覆ってしまう安易さはいただけない。それにホークスの『赤ちゃん教育』のキャサリン・ヘプバーンや『或る夜の出来事』のクローデット・コルベールなどに比べると、ブロンド美女のヴェロニカ・レイクの魅力があまり感じられない。気の強い女性がグイグイと男を引っ張っていく台詞のやり取りの面白さ、ロマンチック・コメディの方がやはり面白い。こういうコメディの面白さは役者の力がやはり大きい。そもそも浮浪者に金を配って襲われるのは自業自得なのだ。最初にサリヴァンの使用人の一人が「貧困はコレラのように蔓延し、堕落・不道徳・絶望の要因で、理由が何であれ近づかない方がいい」とその貧困の闇に近づくことの危険性を指摘しているが、その現実の闇のリアルさが、映画で中途半端な形で出てくる。なんだか筋立てがスッキリしない微妙なコメディであった。


1941年製作/アメリカ
原題または英題:Sullivan's Travels
配給:プレノンアッシュ

監督・脚本:プレストン・スタージェス
撮影:ジョン・F・サイツ
美術:ハンス・ドライアー
音楽:ジグムンド・クラムゴールド
録音:ハリー・ミルズ、ウォルター・オバーセット
編集:スチュアート・ギルモア
キャスト:ジョエル・マクリー、ベロニカ・レイク、ロバート・ワーウィック、ウィリアム・デマレスト、フランクリン・パングボーン、ポーター・ホール
☆☆☆3
写真引用コピーライト ブレーントラスト
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