mixiユーザー(id:3912568)

2025年10月13日12:33

58 view

「飢える魂」「続 飢える魂」川島雄三〜ベタな愛欲メロドラマ〜

川島雄三の映画を続けて見ている。『幕末太陽傳』(1957)、『州崎パラダイス赤信号』(1956)、『しとやかな獣』(1962)、『女は二度生まれる』(1961)など、川島雄三作品は人間喜劇あり、都会の男女の騙し合いや駆け引きなど、したたかな人間像を独特の映像センスで浮かび上がらせる演出力がある。

さて本作であるが、もうこれはコテコテのメロドラマであった。1956年、まだテレビドラマは一般的ではなく、映画が大衆の娯楽だった時代を感じさせる。娯楽を求めて人々が夢中になって映画館に足を運んでいたのだろう。それも続編含めた2本(79分+97分)の長編でメロドラマである。丹羽文雄の日本経済連載新聞小説を原作に、全国の民放30局の放送局がラジオドラマとして放送した映画化作品のようだ。歌謡曲「心の小雨」「愛のキャンパス」が劇中挿入され、説明ナレーションまで入るベタベタな愛欲ドラマだ。

若き南田洋子が美しい。『幕末太陽傳』でも左幸子と花魁役で出ていたが、1955年に長門裕之と共演した『太陽の季節』のヒットで日活の看板スターとなっていた。南田洋子が最も美しく輝いていた時代の映画と言えるだろう。お相手は三橋達也。川島雄三の『あした来る人』(1955)にも山好きの夫役で出ていた。

23歳も歳の違う建築界を牛耳る芝直吉(小杉勇)の若妻・令子(南田洋子)は、なに不自由のない生活を送っていたが、夫は妻のことを金のかからない秘書兼娼婦としてしか考えない勝手な男だった。10年にわたる結婚生活を送っていたが、それが夫と仕事の付き合いがある若き経営者の立花烈(三橋達也)と出会い、惹かれていくにつれて、優しさの欠片もない傍若無人な夫への不満が噴き出していく。立花は令子の行く先々に現れ、令子への思いを口にする。夜の海沿いに建つホテルの庭で会う二人。キスをしようと顔を寄せる立花に抗う令子が色っぽい。夜の波しぶきが二人の欲望の高まりを表す。メロドラマは、欲望と理性が抗うその揺れこそが見どころだ。令子がキスに応じようとして、最後のところで顔を背けるその仕草。続編のほうでは、夫が昔の芸者と遊んでホテルの部屋に戻ってこない夜に、令子は寂しさのあまり、立花の部屋をノックする。ホテルの廊下や階段の映像が挿入され、空っぽの令子の心が映し出され、迷いながらも受け入れていく部屋でのやり取りへとつながっていく。

映画ではもう一組のカップルが同時に描かれていく。病気の妻を抱えた出版社部長下妻(大坂志郎)と未亡人の小河内まゆみ(轟夕起子)だ。まゆみの亡き夫は下妻と親友であり、まゆみは今でも亡き夫を愛していると言いながら、迫ってくる下妻の思いを拒否できない。まゆみには年頃の子供、小林旭(新人!)と加藤勢津子がいて、母親が下妻と付き合うことに不快感を持っている。小林旭は家で出て下宿を始めるし、娘の加藤勢津子は自殺未遂騒ぎまで起こす。まゆみは新しく旅館事業を始めようとしているが、どこか心に寂しさを抱えている。この映画は、二人の女性、南田洋子と轟夕起子の心の飢えをテーマにした物語だ。経済的には満足出来る生活を送りながらも、満たされぬ思い、寂しさ、飢えを抱えている。経済が成長していく時代において、男たちは社会でどんどん活躍し、成功すれば好き放題に遊び、そしてバリバリと仕事をしていく。しかし、女性たちはそんな男性を支える役割か、母親の役割しか与えられていない。そんな女性の満たされぬ思いを、メロドラマという形式で自らの意思で生きる姿勢と女としての欲望との葛藤を描いていく。

続編において、それぞれ男との一線を越えてしまった女たちは、自らの意思と欲望のままに生きようとする。しかし、ドラマは運命の悲劇を用意して、女たちの希望を打ち砕く。病弱だった下妻の妻が亡くなり、子どもたちからは「奥さんが亡くなるのを待っていたんでしょ」と言われ、まゆみ(轟夕起子)は悩みながらも自分自身のために下妻(大坂志郎)と別れる決心をする。過去の女を精算し、令子と結婚しようと思っていた立花(三橋達也)は、別れ話に泣き叫ぶ女(渡辺美佐子)との最後の夜に、部屋のストーブのガス管が外れ、無念の死を遂げる。そしてホステスとガス心中したと記事が載った新聞を夫が見る横で、令子はなにも知らずに飛行機の機内で立花のことを思いながら、思い出のテレビ塔と東京の夜景を眺めて終わるのだ。


1956年製作/日本
配給:日活
上映時間:79分+97分

監督:川島雄三
脚色:柳沢類寿、川島雄三
原作:丹羽文雄
製作:坂上静翁
撮影:高村倉太郎
美術:中村公彦
音楽:真鍋理一郎
録音:橋本文雄
照明:大西美津男
助監督:今村昌平
キャスト:南田洋子、三橋達也、轟夕起子、大坂志郎、小杉勇、都築緑、小林旭、渡辺美佐子、加藤勢津子、清水将夫、高野由美、桑野みゆき、志摩桂子
☆☆☆3
写真引用コピーライト 日活
1 5

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2025年10月>
日 月 火 水 木 金 土
   1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031