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2025年10月11日19:54

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「骨」ペドロ・コスタ〜スラム街の闇と虚無〜

ポルトガルの鬼才ペドロ・コスタの初期作品が4Kレストア版で劇場公開された。ペドロ・コスタは『ヴィタリナ』(2019)とオムニバス作品『ポルトガル、ここに誕生す ギマランイス歴史地区』(2012)しか見ていないが、なかなか手強い。台詞も少なく、説明がほとんど無い。だから物語が分からない。光と闇のモノクロ映像と言葉少なにじっと佇む人物たちの存在感に圧倒されつつ、単純な理解を拒否しているかのようだ。そして長い間合いのショットによる緩慢な編集のリズムは眠気を誘う。続けて2本観るので、心して観ないとなぁと覚悟して劇場に向かった。

さいわい眠気は訪れなかったが、映画はやはり混乱するばかりだった。しかし、闇と光の映像が圧倒的に迫ってくる。さらに『骨』という作品はリスボン郊外のスラム街フォンタイーニャス地区が舞台となるため、常にまわり近所の物音や声が聞こえてくる。一つ一つの家が独立していないかのように近接しており、音も筒抜け、部屋の中も見えてしまうような状態なのだ。登場人物の中で一人だけ看護師エドゥアルダが住む部屋はリスボン市内にあるマンションで、家政婦として主人公たちが働きに行く部屋なのだが、そこではまわりのノイズは聞こえない。スライム街と一般住宅の格差、環境の違いが強調されている。

まずは若い女性がカメラの左上を見つめる顔が映し出され、やがて彼女はうつむく。そしてタイトル後に、もう一人の髪の長い女性(最初、男か女かよく分からなかった)がタバコを吸いながらお湯を沸かし、その顔もアップになる。ほぼ正面からの顔。表情は読み取れない虚ろな顔。スラム街に住む主要人物である2人の女性ティナとクロティルデだ。そしてクロティルデと若い男(ティナの夫であることが後で分かるのだが)の二人が電車に乗って、膝の上の手が重ねられるシーンがある。最初この二人が夫婦なのかと思ったら違うらしい。男はいなくなり、彼女は男に悪態をつく。そしてクロティルデは一人で赤ちゃんを産んだティナを迎えに病院に行く。小さな窓から覗くクロティルデの目とティナの目。画面の中の仕切られるフレームは、映画の中で何回か出てくる。帰りのバスでも、家に帰ってからも、ティナは赤ちゃんを抱かない。バスではクロティルデが赤ちゃんを抱っこし、部屋では赤ちゃんはソファに寝かされているだけだ。母親としての自覚が欠けているのか、ティナは終始虚ろだ。ガスボンベを持ってきたのは、自殺しようとしているのか。ようやく帰ってきた夫は、赤ちゃんに構うことなくベッドで一人寝ている。ティナは死体を引きづるようにして夫を赤ちゃんの寝ているソファのところまで連れてくる。親子3人心中するつもりか。そして翌日、男がなにやらゴミ袋を持って急ぎ足で歩いて行く。横移動ショットが長々と続く。次第に男は持っていたゴミ袋を胸に抱えており、その中身が赤ちゃんであること分かり、ゾクッとする。次のシーンで人が行き交う街頭で「赤ちゃんにお恵みを」と物乞いをしている。赤ちゃんをダシに使っているのだ。しかし、誰も男の声に耳を貸さないし、誰も男を見ない。そんななかで、看護師のエドゥアルダが牛乳とパンを恵んでくれる。

ほとんど台詞もなく、人物たちの関係も分からないまま、映画は進んでいく。誰もが無表情だ。クロティルデはティナの隣人で、何かと若い夫婦の面倒を見ているようだ。男は恵んでくれたエドゥアルダの後をつけて病院に行くが、警備員に見つかって床に突っ伏している。人は男を無視して通り過ぎる。赤ちゃんは病院で預かることになり、男は看護師のエドゥアルダの家に上がり込み、食事を与えてもらう。エドゥアルダには、夫がいるようだが出てこない。男はエドゥアルダのところにしばらくいた後、赤ちゃんを別の女性のところに置いてくる。子供を金で売ろうとしているようだ。その女性は男とかつて関係があったようだが、男がもう来ないなら、赤ちゃんを引き取ってもいいと言う。ティナは精神的に病んでいるようだが、詳細は分からない。ダンスパーティーでも昏倒したりする。クロティルダの代わりにティナがエドゥアルダの部屋に家政婦にやって来るが、そこでもまたガス自殺を試みる。エドゥアルダが帰ってきて、ティナは発見されて助かる。エドゥアルダはスラム街に遊びに来て、ティナやクロティルダの夫とかと酒を飲む。そしてクロティルダの夫と関係を持つ。クロティルダは、エドゥアルダの部屋に家政婦としてやって来たとき、ベッドでティナの夫が寝ているのを見つける。そしてガスをつけっぱなしにして、部屋に鍵をかけていなくなるのだった。最後に、ティナとクロティルダが初めてキッチンで笑い合う場面があって、ドアから外を覗くティナの顔のカットで映画は終わる。

何度もガス自殺を試みるティナがなぜ病気なのか?なぜ子供を産んだのか?映画は一切なにも語らない。そして何よりもティナとクロティルダの関係は親しい隣人ということだけなのか?クロティルダはなぜティナの面倒を見るのか。クロティルダとティナの夫との関係は?ひざに手を重ねたシーンの意味は?ティナの夫が赤ちゃんをティナから引き離したのは、ティナに殺されると思ったからなのか?赤ちゃんが生きていくためには他人に預けるしか方法はなかったのか?看護師のエドゥアルダはどういう女性なのか?スラム街の住人ではないエドゥアルダは、ティナを庇護する存在なのか?登場人物たちがなにを考えているのか、まるでわからない。スラム街の闇の中から、人が浮き出すように現れたり、誰もが虚ろな表情なのは貧しさからなのか?彼女たちが抱えている虚無の正体はなんなのか?出てくる男たちは、なにもしない。物乞いと女とセックスをするばかりだ。ティナの夫は、中性的な感じもあり、生きるのにやっとという感じ。働く気はなさそうだし、スラム街で水の飲む場面が印象的だが、女の家を泊まり歩くだけ。生きる強さは感じられない。男性的なクロティルダと対照的だ。死に取り憑かれた病んだ女と彼女を守ろうとする女。クロティルダは、ティナの夫を殺せたのか?赤ちゃんは無事に引き取られ育てられたのか。スラム街のどん詰まりの虚無に救いはあるのか?

「あなたの痛みを分かち合うことが出来ればいいのに・・・」。ティナの苦しみや痛みは、スラム街で暮らす人々の象徴なのか?最後にクロティルダがティナと笑い合えたように、虚無から抜け出せる方法はあるのか?それにしても『骨』というタイトルはどういう意味なのだろうか?わからない。


1997年製作/94分/ポルトガル・フランス・ドイツ合作
原題または英題:Ossos
配給:シネマトリックス

監督・脚本:ペドロ・コスタ
撮影:エマニュエル・マシュエル
キャスト:バンダ・ドゥアル、テヌーノ・バス、マリア・リブキナ、イザベル・ルート、イネス・デ・メディロス
☆☆☆☆4
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