犯罪映画をフィルム・ノワールとよく言うように、やたらと画面が黒く暗い。闇夜のシーンが多い映画だ。山場の夜の宝石強盗シーンも、ラストの主役たちが果てて行く場面も画面が暗くてテレビ映像だと見づらい。やはり映画館で観るべき映画だろう。
ジャン=ピエール・メルヴィル監督は、セリフを極力排除し、映像とアクションだけで表現していく映画監督だ。『いぬ』(1963)にしても、『サムライ』(1967)にしてもスタイリッシュな映像で展開するあまり、説明が少なく物語が分かりづらくなる面がある。本作も説明が極力省かれており、人物関係が分かりづらい。それでも、セリフもなく沈黙のまま展開される描写には緊迫感が宿っている。
原題は「Le Cercle Rouge」=「赤い輪」。「人はそれと知らずに必ずめぐり逢う。たとえ互いの身に何が起こり、どのような道をたどろうとも、必ずや赤い輪の中で結び合う」と仏陀の言葉が冒頭に紹介される。これは「決して会ってはならぬ五人の男が、運命の糸に繰られて対決へ追いこまれる」物語だ。撮影は『サムライ』と同じアンリ・ドカエ。音楽はミシェル・ルグラン。主演のアラン・ドロンも『サムライ』と同じ。
マルセイユからパリへと夜行列車に乗り込む二人の男。妙に二人の足並みが揃っていると思ったら、二人は手錠でつながっていた。刑事マッティ(ブールビル)と容疑者ヴォジェル(ジャン・マリア・ボロンテ)。因縁の関係となる二人だ。2階ベッドの手すりに手錠でつながれたヴォジェルは、安全ピンで秘かに手錠を外し、マッティが眠ったのを機に窓を蹴破って列車から飛び降りて脱出するのだ。列車を緊急停車させて追いかけ発砲するマッティ、森を走って逃げるヴォジェル。一方、刑務所から5年の刑期を終えて出てくる男がいる。コーレイ(アラン・ドロン)という男だが、馴染みの看守が彼に宝石店を襲う仕事をもちかけていた。コーレイはいつもトレンチコート姿で決まっている。出所後、自分のかつての情婦であった女を寝取り、不在の間に勢力を伸ばしているリコを訪ね、札束を奪い取る。この映画では、この最初の場面でしか女性は登場しない。コーレイは留置前に持っていた女の写真を捨てようとしていたし、リコと一緒にいた裸の女が扉を挟んでコーレイの様子をうかがうシーンがあるが、彼女はその後も登場しない。この映画では女は不在であり、つまり徹底した男たちの映画なのだ。感情を極力抑えたストイックな映画とも言える。ただ、コーレイと視線を交わすコーヒー店の女性とナイトクラブの花売りの女性はさりげなく登場するが、その場だけだ。
この刑務所から出所したコーレイの描写と列車から逃走したヴォジェルがどうつながっていくのかと思って見ていると、コーレイがリコからせしめた金で購入した車のトランクに、逃げてきたヴォジェルが駐車中に忍び込むのだ。刑事のマッティから追われる男ヴォジェルと、リコの手下から追われるコーレイ。追手から逃げる二人は車に乗り込み出会うのだ。何もない荒れ地で、トランクから出てきて銃を突きつけていたヴォルジュが、コーレイからタバコとライターを投げられて、タバコを吸う二人の正面からのカットバック、そして荒れ地の引きの2ショットの出会いのシーンがいい。そしてその後にリコの追手がコーレイを追い詰め、拳銃を突きつけているところで、背後のトランクから出てきたヴォジェルがコーレイを救い、追手の二人を射殺して二人でパリへと向かう。二人の間にセリフはなくても、アクションで関係が変化していくのが分かる。
コーレイはリコの追手を殺したときに、札束に穴が開き血だらけになったので失ってしまった。そこで看守から持ちかけられた宝石強盗の話をヴォジェルに持ちかける。その強盗には射撃の名人が必要だった。ヴォジェルの紹介でコーレイが会ったジャンセン(イブ・モンタン)は元刑事で射撃の名人だった。だが今はアル中で蜘蛛やトカゲなど虫や獣たちの幻覚が見えるまで落ちぶれていた。しかし、この仕事をきっかけにかつての腕を取り戻し、3人は宝石店に忍び込むのだった。
闇夜の中をビルの屋根に登り、そこから縄ばしごで降りていく覆面姿のコーレイとヴォジェル。縄を昇って処刑現場から脱出する場面は『影の軍隊』(1969)でもあった。縄ばしごを使った上下の運動は、逃走や侵入のサスペンスには欠かせない。闇夜の中で宝石店に侵入する場面はセリフがほとんどない中で、静かに緊張感のなかで進行する。さらにライフルをギターケースに入れてトレンチコートを着てやって来たジャンセンが、正確に50メートル離れた防犯装置を射抜き、宝石強盗は成功する。この射撃の場面、ジャンセンは最初は三脚から狙うのだが、突然手持ちでライフルを構えてしっかりと撃ち抜くのだ。カッコいい。そしてコートから取り出した携帯のウィスキーの蓋をとって匂いだけ嗅ぐのだ。アル中のジャンセンなりの自分へのご褒美というわけだ。
そしてコーレイは手に入れた宝石を金に換えるために古売商に持って行くが、事件が大きくなり簡単に捌けないと断わられてしまう。町でショーダンサーたちのナイトクラブをやっているかつての知り合いのヤクザのサンティ(フランソワ・ペリエ)を頼ったのだが、サンティは刑事のマッティに息子の大麻問題で弱みを握られており、紹介されて現れた故買商は刑事マッティが変装していたのだった。コーレイはマッティの顔を知らないため騙されてしまうが、不審に思ったヴォジェルがマッティを見破り、「宝石を持って逃げろ!」と叫ぶ。そして警官隊が発泡しながら逃げるコーレイやヴォジェルたちを追いかけてくる。走る男たちと銃声、闇夜の中で火花が散り、男たちが倒れる。
ラストで刑事のマッティが撃たれた元刑事のジャンセンを見つけ、「君が・・・。不器用なデカか」とかつての仲間の死を見届ける。ジャンセンを演じたイブ・モンタンがなかなかいい。この仕事のおかげでアル中を脱したイブ・モンタンは、「分け前はいらない」とコーレイに言い、「戸棚の化け物に復讐ができた」と言うのだ。「戸棚の化け物」とは自分を苦しめた酒瓶のことだ。同じように逃げる二人が出会い、助け合いながら仕事を成し遂げるアラン・ドロンとジャン・マリア・ボロンテの友情関係、そしてイブ・モンタンのプロ意識への敬意、さらに追う刑事マッティのブールビルと逃走犯のジャン・マリア・ボロンテの因縁の関係、元警官のイブ・モンタンとのかつての仲間の因縁。あるいは監査局長との因縁。そんな風に男たちの関係・因縁が絡み合うのだが、やや物語は分かりづらく、散漫で冗長な印象がある。ただ描写の細部は、見どころいっぱいで楽しめる。
1970年製作/フランス
原題または英題:Le Cercle Rouge
配給:東和
監督・脚本:ジャン=ピエール・メルヴィル
製作:ロベール・ドルフマン
撮影:アンリ・ドカエ
音楽:ミシェル・ルグラン
キャスト:アラン・ドロン、イブ・モンタン、フランソワ・ペリエ、ブールビル、ジャン・マリア・ボロンテ
☆☆☆3
(C)1970 STUDIOCANAL - Fono Roma
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